考えるな 感じろ(その2)

「燃えよドラゴン」は脚本も監督もアメリカ人です。色々とトラブルもあったようですが、香港での撮影も終了します。

ところが、リーたち、香港サイドは契約上、香港市場向けに限り、別バージョンの公開をする権利がありました。

そこで、リーたちは、香港版用に追加シーンの撮影をします。それが有名な「考えるな、感じろ」のシーンなのです。

このシーンはブルース・リー本人の脚本、監督によるものです。

その出来栄えに感服したアメリカ側がこのシーンを採用して、現在の形になっています。

このシーンを入れる代わりに、冒頭近くでかなりの場面がカットされています。

ではいよいよ、このシーンの紹介を始めます。
師範であるリーが弟子に「蹴って来い」といいます。
言われたとおり蹴りますが、駄目出し。

「それは蹴る真似か?必要なのは気持ちを込めること(emotional content←しっくりくる訳は無いものでしょうか?)だ。もう一度」

今度は気合を入れた蹴りを出しますが、また駄目出し。

「気持ちを込めることと怒りとは違う。もう一度」

ようやく自然な蹴りを見せた弟子に向かって
「そうだ!どんな感じがした?(How did it feel to you?)」と師範が問います。

弟子は、改めて考えて答えようとします。台詞としては(Let me think…)です。feelという概念からの問いにthinkという概念で答えようとしているので、概念が噛み合ってないのです。そこで
「考えるな。感じろ(Don’t think! Feel!)」と言うのです。

色々な人がこのシーンを解説していて、難しい解釈もあったり、emotional contentの訳が様々で面白いので、ネットで検索してみてください。

ブルース・リーという人は実際に武道の指導をするときも、何度も何度も同じ動きを繰り返させて、上手くいったときに「それだ!」と教えたそうです。ただし、理屈抜きで感覚だけ身に付けろ、という指導とも違うようです。

人の骨格や筋肉の構造を勉強して、理論的なトレーニングや格闘術の研究に没頭していたわけですから、むしろ、理屈で考えるのが好きな人だったと思います。

徹底して理屈を考えた上で、最後の理解は感覚で行う、という感じでしょうか。

台詞の続きを聞いても、哲学的というか理屈っぽいことを解説しています。
「それ(emotional content)は月を示す指のようなものだ。指に集中してしまってはその先の大事なものを見失う」
この辺りは抽象的なので、月と指を何かに喩えて考えてみます。

恐らく月=目的、指=目的を示す手段という喩えが理解しやすくて、ブルース・リーの考えにも近いのではないかと思います。
目的のために手段があるのであって、目的を見失って手段に拘るのは無意味だ、ということです。

ブルース・リーは多くの現役格闘家から尊敬されている、実戦総合格闘技の先駆者です。

生前、他の武道家の悪い例として、実戦に役立たない型の修行ばかりする、という点を挙げていました。

たとえば、元々は、強くて正確な蹴りを使えるようにする為に、足腰を鍛える必要がある、その訓練として片足でじっと立つ修行をしていた。ところが、いつの間にか、片足でじっと美しいポーズを取ること自体が目的になってしまって、肝心の格闘が出来ない武道家ばかり育ててしまう。

手段と目的を取り違えたことによる滑稽な状況です。

あくまでも目的を見失うなよ、という教えはブルース・リーの思想の中心にあると思います。

そしてその真理は、格闘技と無縁のわれわれの普段の生活にも有効に響くと思うのです。

決して「物事は理屈じゃない、感性が大事だ」というような、表面的な事を言っているわけではないのです。

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