特撮映画としての「永遠の0」

原作小説に感動して、映画を劇場で観て以来、ことあるごとに宣伝して来ました。

映画の内容については今さら解説するまでもありません。

原作の良さを生かしつつ、長編小説の映画化でありがちな、「ダイジェスト映像になってしまう」という心配を、この脚本家の作品ではする必要がありません。

「小説と映画は別物だから」という、ある種の言い訳や諦めをしなくていい、安心の映画ではないでしょうか?

 

今回は再鑑賞を機に「特撮」を考えてみます。

監督の山崎貴という人は、特撮(今で言うVFX)の専門家でもあります。

ここがまず、従来の特撮映画とは違う点です。

 

ハリーハウゼンにしても、円谷英二にしても、代表作の「監督」ではありません。

あくまで映画の「特撮パート」の監督なのです。

ですから、「ドラマパート」の監督とは意見の齟齬もあり得ますし、特撮の特性をよく把握していない監督が撮った映像と、特撮監督が撮った映像の相性が悪くて、観ていてアラが目立つということもよくあります。

また、別人の監督が撮っているので、単純にドラマ部分と特撮部分で映像の質やリズムが合っていないこともあります。

 

3DCGを応用する以前の、古いタイプの映画で分かりやすい例を挙げてみましょう。

ドラマ部分で、カメラを手持ちにして、ぶれた映像が迫力と臨場感を出しているとします。

それ単体ではベストな映像です。

一方、ミニチュア撮影を中心にした特撮シーンは、撮影や合成の都合もあって、カメラを固定した映像が中心になります。

これはこれで最善の映像です。

 

ところが、それが合わさった場面を見ると、

  • カメラを自由に動かしているショット
  • カメラを固定しているショット

がはっきりと分かれている不自然が目立ちます。

その上、カメラを固定しているのが「特撮ショット」なので、「アラが発見されやすい」という二重のデメリットが生まれます。

結果、「あの映画は特撮がチャチ」という印象が強くなってしまうと思います。

 

これは、3DCGの合成が全盛の新しい特撮映画でも、やりがちな失敗です。

逆に3DCGのショットは、やたらとカメラを動かすきらいがあります。

せっかく壮大な景色のなかに、リアルなモンスターなどを合成しているのに、軽々とカメラが上空を回る映像では、「ゲーム映像」を彷彿とさせてしまって、「ここは特撮だ」と確認させることになっています。

そういう迫力の映像には、観客は飽きてきている、ということに気付かないのでしょうか。

 

ともあれ、優れた特撮映画というのは、特撮ショットと非特撮ショットが区別できないくらい、自然に繋がっています。

そもそも「最高の特撮」は、そのショットが特撮であることを気付かせないものです。

実際は「特撮満載」であるにも関わらず、観客から「今回の作品には特撮が無かったね」と言われたら、最高の評価と受けとるべきものなのです。

 

現代では観る側の我々に、過度な知識が入ってしまっているので、「状況的に、これは特撮だ」と判断できてしまいます。

それでも「永遠の0」のような優れた特撮映画を観ると、そのショットが特撮であることを忘れさせてくれる力があります。

それは、この特撮スタッフが、「正しい特撮の在り方」をしっかりと理解して実践しているためです。

 

現在、実際に飛ばして映画で撮影できる零戦は存在しません。

戦時中の映画では、本物の零戦を使っていますが、現代の映画では、零戦は100%偽物です。

 

「永遠の0」でも、実物大の模型の他、フルCGで作られた零戦がたくさん登場します。

迫力のある空中戦のシーンに背景として映る、空や海も、零戦と同様にCGで作っておけば、もっと自由度があって、作りやすいはずですが、この映画ではそうはしていません。

背景は実写にこだわって、長時間の空中撮影をして手に入れた映像素材を使用したそうです。

 

同じスタッフによる「三丁目の夕日」のラストシーンでも、最後は「本物の夕日と登場人物のショット」を使っています。

技術屋としては、「素晴らしい夕焼けの映像を作って見せつけたい」と考えがちですが、大事なところは本物の良さを活かす判断をするのが、この会社の方針と感じます。

最高の技術を持ちつつ、それをひけらかして作品に悪影響を与える間違いをおかさない、ということは大切なことです。

 

「永遠の0」は日本映画において、最高級の特撮映画の1本だと思います。

最後までお読みいただきましてありがとうございました。

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