「特撮」は映画を安く作るための道具

特撮ってお金が掛かりそうって思ってませんか?

「映画に特撮の場面を入れる」というと、「お金が掛かりそう」という勘違いを良く聞きます。

結論から言うと、全く逆です。

ある場面を映像化しようという時に、カメラの前にその状況を再現して撮影するのが映画の基本です。
しかし、さまざまな理由でそれが実現できないことがあります。
お金の問題もその一つです。

大金を掛ければ、その場面は実現できる。
でも、そんなにお金が掛けられない。
そこで、「特撮」の出番という訳です。

特撮の基本は
「本当はxxなのに、まるでxxのように見える」
という映像を作ることです。

例えば、映像の中で、変わった形の建物を出したい、ということになったとします。
映画の基本からすれば、撮影用にその本物の建物を作ることになります。

たとえ、カメラからは見えない裏側は作らない、という節約をしても
大変な作業です。つまり、お金が掛かります。

しかし、その建物の全景が、単に景色として映画に登場するだけだったとしたら?

100%同じとは言えませんが、ほぼ同じ効果を、建物のミニチュアを製作して撮影することで実現できるかもしれません。

精巧なミニチュアセットを作る手間を考えると、「大変そう」「お金が掛かりそう」という印象を持つのかもしれません。
しかし、その特撮が何の代わりなのか、ということを考えてみると、大抵の場合は、製作費を数十分の一や数百分の一に下げる効果があるのです。

ミニチュアだけでなく、もっとシンプルで原始的な特撮が活躍している例を挙げてみましょう。

アメリカ・ハリウッドでは大小さまざまな映画制作会社が、大量の映画を生産しています。
そのため、映画関連の面白い専門業者も多数存在しています。

その中の一つでは、「スタジアムの観客」をレンタルしています。

野球やフットボールはアメリカで人気のスポーツなので、それを題材にした映画も多く作られています。
しかし、映画制作者が頭を悩ませる要素の一つが、スタジアムのシーンです。
満員の観客が入っているシーンを撮影するために、通常はエキストラを大量に雇う必要があります。

しかし、スタジアムの客席は数万人分あります。
撮影の仕方を工夫する事によって、エキストラの数は数百人くらいにまで減らすことが出来たとしても、その人数に支払う人件費だけでも馬鹿になりません。

そこで、この業者では、座席に座った観客の写真を等身大に切り抜いたものを作ってレンタルしているのです。
写真は社長本人のものです。色々な服に着替えていますが、顔は全て同じなのです。

撮影本番では、エキストラに混じってこの写真を観客席に縛り付けるだけです。
切り抜いたパネルは撮影が何時間に及んでもじっとしていますし、食事もトイレの心配もありません。
これによって、安価に数百人分のエキストラを水増しできて、賑やかなスタジアムのシーンが撮影できているそうです。

「こんな原始的な手法で大丈夫なのかな?」と思いますが、完成した映像を観ると、背景として映っている観客席に何の違和感もありません。まさにアイデアの勝利です。

特撮には実に様々な手法があります。
MVG博物館では、オリジナル映像作品作りに、積極的に特撮手法を取り入れています。
基本的には、「こういう映像を低コストで手に入れたい」という問題解決の手段として特撮を使いますが、「特撮の工夫」はそれ自体が手品のように楽しめるものです。

誰もが映像制作という創作を楽しむ上で、知っておくと役に立つ知識でもあります。

サイト内には様々な特撮に関する記事を用意していますので、興味を持たれた記事からお読みいただければ幸いです。

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