特撮怪獣・妖怪のリアリティー(その1)
江戸時代に生まれたリアリティー
季節の定番商品というものがあります。中には「土用の丑の日にはうなぎ」というような、実は季節とは何の関係もない定番もあります。これは天才・平賀源内のアイデアですよね。
他にも「夏の定番」と言えば、江戸時代の鶴屋南北のアイデアから生まれた「怪談」があります。
別に、夏になると幽霊が多く出るようになる、という訳ではありません。これは、芝居小屋事情から生まれた「定番」なんですね。
当時の舞台には冷房設備がありませんから、夏の時期は暑くて、役者も客も芝居小屋にいきませんでした。千両役者と呼ばれるような人は、ものすごい衣装を着て演じるので、暑くてやってられないのです。
結果、役者も出演してくれない、客も暑いから来ないという夏の時期は、芝居小屋の経営者にとっては苦しい季節です。
鶴屋南北の凄いところは、その夏の時期に、無名の役者をうまく使って怪談話を上演すれば
- 芝居小屋の使用料が安い
- 無名の役者のギャラも安い
- 役者には当たり役のイメージが無く、その役として感情移入しやすい
- 庶民を主人公にすれば、衣装は涼しい普段着で済む
- 怪談でぞっとさせれば、観客も暑さを忘れられる
という、本来はマイナスになってしまう条件を、全てプラスに転換できると考えて、「夏は怪談」という定番を作ったところです。以来、稲川淳二にいたるまで夏と怪談がセットにして売られているのです。
本当に江戸時代の商売人はバイタリティーがあると感心します。
ところで、その江戸時代から伝わる、カッパや人魚、天狗のミイラをみたことがありませんか?怪しい系の雑誌などに載っているやつです。
数年前、全国に散らばる有名なその手のミイラや資料を、川崎の資料館に一堂に集める企画展がありました。私はそういうものが大好きなので、喜んで行きました。子供の頃から写真で見慣れていたミイラの実物を間近にみて、不思議な懐かしさを感じたのを覚えています。
これらのミイラの正体というのは、大抵、複数の動物の死骸を組み合わせた、いわゆる複合剥製の一種で、残念ながら未確認生物、という事はないようです。江戸時代ならともかく、動物園や博物館で色々な動物の骨格等を見慣れた現代人からみると、やはり、生物としてバランスの悪い、おかしなところが目についてしまいます。
しかし、最近は、そのアンバランスさが、「異形のモノ」としての存在感を引き立てているのかも知れない、と思うようになってきました。
仮に、生物学的に充分あり得る形でカッパをデザインして、リアルな複合剥製を作ったらどうなるか。私のようなUMA好きなら喜ぶでしょうが、大多数の人にとっては、単に見たことがない生物の一つとしか感じられないかもしれません。
何故、急にこんなことを考えたかと言うと、アメリカのモンスター映画と日本の怪獣映画を見比べて、思うところがあったのです。(つづく)