映像合成の基本・グラスワークの感覚

映像設計の基本は古典に学ぶ

今は、コンピューターグラフィックスを活用してどんな映像でも手軽に作れるという印象があると思います。

しかし、実際に実用的で自然な映像を作るために必要な技術は、古典的な特撮映画の中にヒントが全て詰まっています。

 

「特撮」には大きく2種類あります。

  • 撮影してきた映像を加工して、映画ならではの空間を作るというやり方
  • カメラの前に、擬似的な空間を作って、撮影するやり方

後者は、撮影した時には、その映像がもう出来上がっています。

 

その「撮影した段階で映像が完成している」というタイプの、古典的な特撮技術の中に「グラスワーク」という手法があります。

これは、カメラの前に透明なガラスの板を置いて、画面に「合成したい物体」をガラスの表面に描いてしまう、という大胆な手法です。

これが、馬鹿にできないんです。

 

例えば、「洞窟の前に俳優がいる」という映像が欲しいとします。

実際に、俳優が撮影する崖に、洞窟はありません。

そんな場合、カメラから見て「崖の側面に洞窟の入り口がある」と見えるように、ガラスの上に絵を描いてしまうわけです。

 

実際には

  • カメラから離れた崖
  • カメラのすぐ前にあるガラス

というように、物理的には距離が離れています。

 

そのように前後に離れている、「崖」と「絵」が重なって、「錯覚」として一体に見せるのが、「グラスワーク」という技術です。

 

原始的な原理ですが、グラスワークを活用した映画を見てみると、その「自然さ」には、目を見張るものがあります。

ガラスに描かれた絵のレベルが高いという事もありますが、「どの部分が合成か」ということが、ちょっと分からないぐらい、非常に自然な映像が作られています。

 

現在、映画を撮る時に、カメラの前にガラスを置いて職人技で絵を描く、「グラスワーク」の手法は使いません。

しかし、同じ考え方で、もっと手軽に簡単に同じような「合成映像」ができます。

これは、私も多用しているやり方です。

原理は似ていますが、撮影した映像を、編集段階で加工するやり方です。

手軽な映像合成のやり方

崖の前で俳優が演技をしている映像を、まず撮影します。

撮影する時は、後から合成する「洞窟の入り口」の位置を意識しておいて、合成する部分に俳優が入り込まないように注意します。

 

俳優の撮影とは別に、合成する「洞窟の入り口」の画像を用意します。

この画像は、

  • デジタルデータで絵を描く
  • 実際の洞窟の入口写真を使う
  • ミニチュアで作った洞窟入り口の写真を使う

という方法で手に入れます。

 

俳優が写っている映像と、合成する洞窟の入り口の、「光の角度」が揃っていないと、不自然な映像になります。

オススメするのは、ミニチュアの使用です。

俳優が写っている映像と見比べて、同じような光の強さや角度になるように野外で撮影すると、理想的な「洞窟入り口写真」が手に入ります。

 

その「洞窟入り口画像」を、Photoshopのような、画像編集ソフトを使って、必要な部分を切り抜きます。

画像編集ソフトの設定で、切り抜いた部分以外が透明になるようにしておきます。

 

最後に、動画編集ソフトで、「俳優が写っている映像」の上に、「切り抜いた洞窟写真」を重ね合わせて、大きさや位置、色を調整することで、合成映像が完成します。

 

基本的にはこれだけです。

デジタル画像は、紙の写真をハサミで切り抜いたような設定にもなりますし、切り抜いた「境界線」を任意の度合いで曖昧に出来るという、特徴があります。

切り抜いた輪郭を少し、ぼやかすような形になります。

これをうまく利用すると、合成の境目が曖昧にできて、自然な合成映像が作れます。

静止画の合成だけでも画面の作りの幅は十分広がる

この「画像の切り抜き方」には多少のコツしかありません。

練習として、いくつかの映像を作れば、コツは身に付くでしょう。

 

「Photoshopを使って切り抜いた静止画を、動画に合成する」という、シンプルな手法だけでも、映像表現の範囲は飛躍的に広がります。

自然な映像が作れるので、どんな作品でも活用できます。

 

しかし、「どんな映像でも作れる」というわけではありません。

ここで大切なのが、「グラスワークの感覚」なんです。

 

合成を採用すると撮影時間が短縮される

グラスワークは、画面の「手前」に何かを合成することで、現実とは違う画面を作ります。

 

例えば、登場人物のバストショットが写っている動画の手前に、「ピントをぼかした花」が写っている映像を作るとします。

撮影する時に花を用意して、いい具合にカメラに映り込むように撮影するというのが、通常の映画の撮り方です。

 

このやり方に欠点があるとすれば、

  • スタッフ、出演者を拘束した状態で、撮影時間が長く掛かる
  • 当日に、理想的な状態の花を準備する必要がある

ということです。

 

構図やピントのボケ具合など、丁寧な調整をしながら撮影することになりますが、この時間が積もり積もって、撮影期間がとても長くなるのが映画制作です。

 

それと、実際に撮影をしている人は分かるはずですが、撮影現場で、当初想定していたようなセッティングはなかなか実現できません。

時間に追われ、最低限の構図調整をして、次々と撮影をこなしていく形になりがちです。

基本的に、撮影には時間がかかってしまうものなんです。

結果、当初の理想と比べると、完成度の低い映像になります。

 

しかし、映像合成の選択をすれば、根本から撮影状況は変わります。

 

花を後から合成する前提で、人物だけ撮影すれば、被写体が少なくなる分、撮影時間は飛躍的に短くなります。

 

後から花の種類を選んだり、違う花に変更してみて、効果を比較することも可能です。

また、花の映り込みの具合や、ピントのぼけ方も、たっぷり時間を使って納得の行くまで調整しながら合成することができます。

撮影のように、出演者や他のスタッフを拘束している時間ではないからです。

 

このように「設定上、手前にあるもの」を合成するのは容易です。

しかも、かなり自然に出来ます。

 

映像合成の活用によって、撮影時間を短縮するために、この、「グラスワークの感覚で映像を合成する」という選択肢を持っておくことはとても有効だと思います。

参考になれば幸いです。

DIY映画倶楽部

私は、試験的に「DIY映画倶楽部」という、自主映画のメンバーシップを作っています。

今後、この倶楽部を全面的にリニューアルして、ロジャー・コーマン学校を手本に、実際の映画作りを楽しみながら、スタッフ養成、作品の共同販売まで網羅した組織に発展させようと構想しています。

 

  • 私が製作する作品に参加してもらう
  • 会員が監督する作品を、DIY映画倶楽部で支援・プロデュースする

というような形を考えています。

 

もちろん、映画製作手法に関しては、常々提唱しているように、デジタル合成・特撮を多用して、低予算・短期間で作品が量産できるようにします。

ご興味があれば、お問い合わせください。参考になれば幸いです。

 

ご自分でも映画を作ってみたい、という方は、是非、無料相談にご連絡ください

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