映画をつまらなくする「XXのインフレ」
昔の映画のほうが面白い?
「最近の映画はつまらない」とよく言われます。
それは、必ずしも当たってはいないとは思います。
古くても、十分に魅力がある映画だけ、今でも目にすることになるので、古い映画の方が平均点が高いように感じるのではないでしょうか?
とは言え、今だに作品として鑑賞されるような古い映画と、劇場公開時の数週間だけ話題になって、その後、見直されることない最近の映画を比べてみると、かなりはっきりとした違いがあると思います。
昔の日本映画は、ハリウッド映画に比べて「撮影の規模が小さい」という決定的な弱点がありました。
予算の関係から、迫力のある映像を作るということについては、とても苦手としていたんです。
しかし、最近では どうでしょう?
CGを上手く利用するなどして、見栄えのする迫力映像も作れています。
迫力映像が作れる時代
大雑把に言うと、映像的には、かつてないほど「ハリウッド的」なものが作れるようになっている時代だと思いませんか?
ところが、昔の映画よりもはるかに迫力があるはずの映像なのに、1本の作品を見ているうちに、だんだん迫力を感じなくなってしまうという事が、よく起きます。
これは、何故なのか。
私が最も気になるのは、「最近の映画は、とにかく音楽が多すぎる」ということです。
- スリルをあおる/ピンチを演出する
- 最後に感動させる
と言うように、「観客の感情をコントロールする」のが、映画を作る醍醐味ですが、そのために使う道具として、「音楽」に頼りすぎていると思います。
あまりにも全編にわたって、大げさな音楽が流れているので、肝心な時にはもう飽きてしまうんです。
「迫力を出す」効果は薄れ、もう「うるさい雑音」になってしまう。
音楽を使いすぎて、インフレ状態になっているからです。
インフレの悪影響は、音楽だけではありません。
がなり芝居
例えば芝居。
舞台の芝居が顕著ですが、役者が大声でがなり立てる演技パターンがよくあります。「がなり芝居」と言ったりします。
「極限に追い詰められた人物が爆発して、がなり立てる」ということであれば、その演技は効果的かもしれません。
しかし、終始、がなり立てて、大声でセリフを言う、「ボリューム勝負」の演技をしていることがよくあります。
これも、「がなりのインフレ状態」です。
肝心な時、大きな声を出しても、もう雑音として、うるさいだけなんですね。
CGの使いすぎ
あるいはCG。
例えば、背景として実際の景色の中にうまくCGを組み合わせることによって、コストを削減してリアリティのある景色を作る事は、非常に有効な手法だと思います。
しかし、CGの映像は、やりすぎて失敗していることがほとんどです。
技術的に可能だからといって、ゲーム画面のように視点をぐるぐる回したりと、使いすぎ、目立たせすぎのインフレなんです。
音楽に頼らない映画
先日、改めて、スティーブン・スピルバーグ監督の名作「ジョーズ」を見直しました。
傑作モンスター映画です。
現在でも、サメが出てくるパニック映画がたくさん作られていますが、「ジョーズ」が大元と言っていいでしょう。
この「ジョーズ」。
機会があったら見てみてください。
人物設定やドラマ展開がシンプルで明快な上、非常に面白いのと同時に、クライマックスに至るまで「非常に静かなこと」に驚くと思います。
敵は怪物のように大きなサメですが、魚ですから声を出しません。
クライマックスで、人間対サメの対決をする、スペクタクルシーンがあるんですが、その場面でも、パニック感を音楽で煽ったりすることが、ほとんどないんです。
音楽の助けを借りずに、水の音とか、船の上で発生する音とセリフ、これだけでクライマックスを乗り切ってしまっています。
映画は、観客の感情をコントロールするために、色々な手を使いますが、この「ジョーズ」を見ると、いかに最近の映画が、音楽で安易にコントロールしようとしているかが分かると思います。
私達のDIY映画でも同じです。
「ここは音楽を被せれば迫力は出るだろう」というようなごまかしではなくて、「音楽がなくても、意図する感情にさせるにはどうしたらいいか」ということを考えながら、作品を作ることが大切で、楽しい作業だと思います。
参考になれば幸いです。
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