グリーンバック映画の利点と制約

従来の映画の撮影方法には、とても魅力があります。

 

舞台となる撮影現場に行き、またはセットを準備して、その場所に役者が立つことで起きる、色々な化学反応が作品に魅力を与えます。

 

作り手は、非常に大きな満足感を得られますし、観客もプラスアルファの魅力を堪能できることでしょう。

 

しかし、私は作り手として、全くこれと異なる、「グリーンバック合成を多用した映画作り」を提唱しています。

 

低予算の上、技術的にそれほど上級者に達していない製作者には、初歩的な課題があります。

高いコストと引き換えに「プラスアルファ」を求める前に、まずは文章レベルで「面白い物語」を作れるようになり、その内容を短期間でシンプルな映像に変換する体験がとても有効だと思うからです。

 

グリーンバック映画は、登場人物の撮影を全て、グリーンバックと呼ばれる、緑色の布の前で行います。

出演者は、ロケ地やセットの中で感じるような、プラスアルファの高揚感は得られません。

撮影現場で偶然生まれるような、魅力的なシーンも撮影できません。

 

しかし、撮影期間が大幅に短縮出来ることから、「作品が未完成に終わる」という最悪の結果を少なくすることが出来ます。

 

あまり知られていないのかもしれませんが、特に、趣味の映画においては、

  • 企画倒れ
  • 製作途中での頓挫

の確率はかなり高いものです。

未経験の人が考えるより、数倍の時間が掛かるからです。

 

今回は、改めてグリーンバック映画の利点と制約について紹介してみます。

【グリーンバック映画の利点】

1:スケジュール調整がしやすい

一つのシーンに登場人物が3人いる場合、3人+監督のスケジュールの都合が付く日を設定しようとすると、例えば、1ヶ月に1回あるかないか、ということが一般的だと思います。

資金を使って、専業の俳優を拘束することが出来ないからです。

このペースで1本の作品を撮り終えるには、数ヶ月から数年の時間を要します。

 

しかし、グリーンバック映画は、最近のアニメーション映画のアフレコで一般的なように、登場人物一人ひとりを別々に撮影します。

都合がつく役者から、撮影を進めることが出来るわけです。

極端な例では、ヒロインの配役が未定の状態でも、ヒロイン以外の人物の撮影が進められる事になります。

室内のグリーンバック撮影は、撮影の移動や撮影時刻の制約がないので、通常の数倍のペースで撮影が進みます。

これは、製作期間全体の短縮に貢献します。

2:三密回避

最近のコロナの状況のもとでは、長時間、大人数で撮影することは避けるのが常識です。

図らずも、グリーンバック映画では、撮影は必要最低限の少人数で行うのが基本なので、感染防止の観点からも、有利な手法と言えます。

3:映像の構図に自由度がある

これは、私が最も気に入っている特徴の一つです。

人物をグリーンバック撮影して、合成することで1カットずつ映像を作るので、実際の撮影では実現が難しい構図の映像を、アニメーションの場面を作るように再現できます。

 

例えば、危険な崖の上に立っている人物を、撮影することは困難です。

しかし、映像合成が前提であれば、安全に、設計通りの映像が作れます。

 

また、人物同士・人物とカメラの位置関係の微調整も、実際の撮影で行うと、膨大な時間が掛かる上に、出来ることも限られますが、合成が前提であれば、かなり自由に調整できます。

 

あるいは、ビデオカメラでは苦手な「背景だけきれいにぼかす」というような映像も、合成映像でなら簡単に表現できます。

 

以上の理由だけでも、「イメージに近い映像を作る」という観点から言って、グリーンバック映画はかなり魅力的に思えます。

 

一方で、映像合成を前提にしたグリーンバック映画では、特有の「制約」があります。

 

【グリーンバック映画の制約】

「接点」が特に不自然になる

 

例えば、背景と人物を合成する場合、撮影・編集の経験を積むことで、ある程度、不自然さを軽減できます。

ただ、「靴と地面」のように、背景と接地している部分については、どうしても不自然になりやすい欠点があります。

 

また、別撮りした人物が握手をしたり、体に触れる描写は非常に困難です。

 

この制約に対する対応は、

  • いかに接点を自然に見せるか

ではなく

  • いかに接点そのものの描写を少なくするか

です。

 

そもそも、足元を映さない構図の映像に設計すれば、歩いている映像で、靴と地面の接点の不自然さを見せずに済みます。

 

握手をする、肩を組む、ということで表現したいことを、接点を持たせないやり方で表現する選択肢を探すことです。

それは、最良の選択ではないかもしれませんが、作品を完成させるためには有効な「次善策」です。

 

不思議な事に、経験の浅い人ほど、技術的に難しいことにこだわって失敗する傾向にあります。

初めのイメージが最良だと思いこんでしまうようです。

 

経験が多い人は、必ずしも最初のイメージが最良というわけでは無いことを何度も体感しているので、制約に合わせて、むしろ完成度の高い映像が作れます。

 

グリーンバック映画で工夫すべきは、観客に「制約」を感じさせないことです。

一つの状況を表現する演出は、無数に存在するはずです。

 

作品を完成させるために、制約条件に合った手法や演出を、的確に選択することが大事です。

 

最後までお読みいただきましてありがとうございました。

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