特撮事例:撮影時に火を使わない炎の合成は「照り返し」とワンセットで表現する

炎の合成は安全な撮影のための特撮

特撮合成には様々な目的がありますが、とても大きな目的の一つは「安全」と考えます。

プロの映画のメイキングを見ると、「いかに危険な撮影だったか」をアピールして興味を引く発信をすることも多くありますが、低予算映画、アマチュア映画では、危険な撮影は何の自慢にもなりません。

むしろ自慢すべきは、「危険そうに見える場面」を、「実際は極めて安全に楽しく撮影した」という「工夫」です。

 

撮影で扱うものの中で、かなり厄介なものの一つが「炎」です。

 

撮影中、炎があちこちに燃え広がらないように注意する必要がありますし、撮影後も確実な火の始末が不可欠です。

そして、映像的に最も厄介なのは、「想定通りの炎が出ない」ということです。

 

  • 炎のサイズがちょうどよくならない
  • 煙が出過ぎる
  • 風があって映像が繋がらない

こんな問題が生じます。

 

「風があろうが、煙が出ようが、そのまま撮影すればむしろリアルなシーンになるでしょ?」

というのは、実際に映画を作ったことのない人の考えです。

黒澤明のように、何台ものカメラでいろいろな方向から同時に撮影して、現実の1分間を1分間のシーンとして使用するなら、リアルなシーンになるかもしれません。

しかし、それはかなりレベルの高い、一流のスタッフと出演者の組合せだから生まれる「リアリティ」であって、アマチュアが苦労してその形を真似たとしても、まず間違いなく、効果は出ません。

 

通常は1分間のシーンのために、1時間も2時間も時間を掛けます。

風が出たりやんだり、風向きが変わったり、炎が大きくなったり消えかかったり、状況が常に変化します。

そんな中撮影した映像を繋げてみると、「一連のシーンには見えない」という事になってしまいます。

「自然なシーンに見せるため」、もっと正確に言えば、「不自然なシーンと感じさせないため」には、実際には、かなり不自然な工夫が必要になります。

合成用の撮影方法

炎無しでの人物撮影

例として「夜の焚き火の前での会話シーン」を考えてみましょう。

記事の最後に、拙作の一場面を紹介していますので、合わせて参考にしてみてください。

 

まずは、人物の撮影映像が必要です。

実際は火を使いませんので、安全に撮影が出来るため、公園など、撮影場所の制約は少ないでしょう。

 

ポイントは、「ここに炎がある」という部分に照明用のライトを置いて、人物に向かって光を当てておくことです。

本物の炎は放射状に光を発するので、カメラ方向に向かってくる光が邪魔になるのですが、撮影用の光は、「人物に対する照り返し分」だけで構いません。

サンプルのシーンでは、小型のライトを2つ使って、2人の登場人物それぞれに光を当てています。

 

この状態で、ドラマシーンの撮影を行います。

実際には火を使わないため、スムーズに撮影が出来るはずです。

もし、スタッフに余裕があれば、撮影中にライトの前に手をかざして微妙な影を動かすことで、「炎のゆらぎ」を表現しても楽しいと思います。

サンプル映像のシーンでは、スタッフなし(2ショットの場面は無人カメラ)で撮影しているので、炎のゆらぎは、編集時に表現しています。

炎そのものの撮影

次に必要なのが、「炎の映像」です。

これは、アップや引きなど、カットごとに撮影するのではなく、1分間程度撮影した映像を「ストック映像」として保管することをオススメします。

バリエーションが必要だとすれば、

  • 真横から撮影した炎
  • やや俯瞰から撮影した炎

という角度違いの映像でしょう。

 

炎は、仮に昼間のシーンに合成するとしても、夜、暗いところで撮影します。

グリーンバック撮影が、「緑色以外の部分を抜き出して合成する」のと同様、暗いところで撮影した炎は「黒以外の明るい部分を抜き出して合成する」という手法を使います。

パソコン編集ならではの手法です。

そのため、背景は出来るだけ暗い必要があります。

 

具体的な撮影場所は、キャンプ場など、焚き火ができるような私有地や、広い河川敷、海岸などになります。

撮影後、確実に火種を消すためにも、近くに水がある場所がベストです。

 

例えば、キャンプ場の河原。

背景が出来るだけ真っ暗になる場所を探して、焚き火の場所、カメラの場所を決めます。

背景に外灯が写り込まないことはもちろんですが、水面などに光が反射することが多いので、カメラ越しにチェックしてください。

 

炎は、それ自体が光源なので、照明は使いません。

ポイントは、

  • 炎の上部が画面から切れないこと
  • 白飛びさせないこと

です。

 

炎は色々な構図で合成することになります。

しかし、汎用性を持たせるために、常に画面の中に少し余裕を持って収まるサイズで撮影します。

構図の調整は編集時に行うわけです。

 

炎の高さは、不安定に変化します。

画面の上から炎の先がはみ出てしまうと、合成時に炎のサイズや位置などを自由に調整できなくなってしまうので、注意が必要です。

 

明るさは、出来るだけ白飛びさせないように、暗めにします。

ビデオカメラの明るさをオート設定で撮影してしまうと、背景が真っ暗なのでカメラは「画面が暗すぎる」と判断してしまいます。

カメラは無駄に明るさを補正してしまうので、明るすぎる状態で撮影されていまい、肝心の炎は白飛びした状態になります。

白飛びした炎は、合成しても単に「炎の形をした白いシルエット」にしかなりません。

 

ビデオカメラはマニュアル設定にして、明るさを抑えて撮影します。

そうすると、炎の色が白くはならず、赤みもキレイに写ります。

念の為、何段階か明るさ設定を変えて撮影しておくのが現実的です。

炎の合成のコツ

最後は、動画編集ソフトによる炎の合成です。

動画編集ソフトは、グリーンバック映像の「クロマキー合成」が出来るものであれば、大抵、作業可能なはずです。

(映像合成の作業代行はご相談ください)

 

クロマキー合成は、「クロマ」というキーで、任意の色以外の映像を抜き出して別の背景と合成します。

同様に、炎の場合は、明るさの差異を判定して、明るいところ(炎の部分)だけを抜き出すキーを使います。

ソフトによってキーの種類は異なるので、色々と試してみてください。

炎は見せすぎない

絵コンテなどを参考に、炎と人物映像の合成を行うことになりますが、炎はやや控えめに、画面の隅に入り込むくらいにすると自然です。

合成作業が楽しいので、ついつい炎を入れすぎてしまいがちで、「これは実際、髪の毛が焦げそうだ」という映像に見えることがあります。

微妙な照り返しを表現する

炎だけでも、十分に「焚き火の前のシーン」は成り立つと思うのですが、プラスアルファとして、「照り返しの光」の工夫を紹介します。

撮影時、焚き火の中心からの角度に合わせて、照明を人物に向かって当てています。

ところが、それだけだと、「光のゆらぎ」がありません。

チラチラと炎が動いているのと同様、多少でも、照り返しの光に変化があると、よりリアルに見えるはずです。

 

この「光のゆらぎ」を表現するためには、映像の合成要素を一つ増やします。

「照り返しで特に明るい部分」です。

 

撮影した人物映像を複製して、編集ソフトの中で明るさのコントラストを強調した映像を作ります。

コントラストを強くした上に、全体的に暗く調整すると、「真っ黒の背景に、照り返しの強い部分だけが見える」という奇妙な映像が出来上がります。

この「照り返し部分だけの映像」を時々、不規則にフェードイン、フェードアウトさせることによって、炎による光のゆらぎが表現できます。

編集でゆらぎの度合いを調整できるのがメリットと言えるでしょう。

 

サンプル映像で、説明の補足とさせていただきます。

炎はミニチュアと組み合わせるとさらに有効

炎はミニチュアで表現することが難しい要素の一つです。

例えば火事のシーン。

精巧な建物のミニチュアを作ったとしても、それに火を付けて撮影した途端、その模型のサイズまではっきりとバレてしまうことになります。

炎の形が、ミニチュアに合わせて小さくなってくれないからです。

 

逆に言うと、炎をうまく合成すれば、ミニチュア感を隠すことが可能です。

岩の上に手のひらサイズの「テントのミニチュア」を置いて撮影しても、「岩山で撮影した本物のテント」と感じさせることは難しいと思いますが、そのテントの前に「焚き火の炎」を小さく合成したら、逆に、その映像をミニチュアだと見破ることは難しくなるでしょう。

 

特撮の醍醐味は「観客を騙すこと」です。

特撮ファンとしても「見事に騙されること」が喜びです。

騙しの武器として、「炎」はとても有効です。ぜひ、活用してください。

 

参考になれば幸いです。

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