ストップモーションの弱点を補うデジタル映像技術の応用で新時代の楽しい特撮が実現

手作業の楽しさが残るミニチュア特撮

役者の話芸や人間関係のドラマを楽しむ作品などは、映画以外の、例えば舞台演劇でも、ごく普通に成り立ちます。

舞台演劇的なドラマを映像化することも、とても効果的ではあります。

しかし、私は、できれば「映画ならでは」というジャンルのものを優先して作りたいなあ、と思います。

 

わかりやすい一例を挙げると、人間以外の「怪物(クリーチャー)」などが出てくる作品です。

 

特に、人間より大きいクリーチャーを登場させようとした場合、ライブの舞台で実現させようとすれば、制作に巨額の費用が必要です。

その上、舞台上を自由自在に動き回らせることは、まず不可能で、いわゆる「出オチ」のインパクトにしか使えません。

ステージ作品でクリーチャーを扱うと、非常に費用対効果が低いことになるでしょう。

 

クリーチャーを登場させるのに適しているのは、やはり映画・映像作品です。

理由は、舞台と違って、必ずしも「実物大のクリーチャー」を用意しなくても良いことです。

 

名作と言われる、古典的なクリーチャー映画は、様々なミニチュア模型のクリーチャーを登場させています。

「ジュラシック・パーク」以降、特に低予算映画では、クリーチャーの表現はCGが主流になりました。

CGにすれば、実体のあるミニチュア模型すら作らなくて良いことになるからです。

 

ただし、CG映画の決定的な欠点があります。

それは、「撮影が面白くはない」という点です。

 

ミニチュア模型制作同様、CGのデータ作成も、動きをデザインする作業も、クリエイティブな意味で優劣はありません。

でも、私は、パソコンの画面内にしか存在しないCGのクリーチャーを動かすより、「ミニチュアモデル」という実体を、自分の手で動かしながら撮影する、アナログチックな映画製作の方に、圧倒的な魅力を感じます。

ストップモーションの弱点と解決法

ミニチュアのクリーチャーを動かす手法にも、いくつかの種類があります。

操り人形のように、カメラの前でリアルタイムでミニチュアを動かすタイプのものと、「ストップモーション」と呼ばれる手法です。

ストップモーションは、手で模型の位置や形を、一コマ一コマ変えて撮影します。

撮影する瞬間には、手が写っていないので、ミニチュア模型が自分で動いているように見える手法です。

 

1960年代から1970年代は、ストップモーションの手法をメインにしたクリーチャー映画の名作がたくさん作られました。

1980年代になっても、補助的な手法としてストップモーションは活用されています。

「ターミネーター(1984)」のクライマックスに登場する、骨組みがむき出しのターミネーターや、「ロボコップ(1987)」に出てくる武装ロボットなどです。

ストップモーションの最大のメリットは、クリーチャーのデザインの自由度が高いことです。

完全に、「デザイン」を優先した模型を登場させられます。

もう一つのメリットは、撮影を一人で行えることです。

 

例えば、操り人形タイプの模型を撮影する場合、一人で動かせるのは2箇所だけです。

4本足のクリーチャーを歩かせようと思ったら、最低でも、2人で撮影する必要があります。

歩きながら、顔の向きも変えたいということになると、さらに人手が必要です。

 

一方で、ストップモーションの模型は、手間を度外視すれば、一度に何箇所も動くような場面も、一人で撮影できます。

「一人でどれだけ制作を進められるか」が重要な自主映画・DIY映画において、ストップモーションの手法にはメリットが多いのです。

 

そんなストップモーションの最大の弱点は、「動きがカクカクする」ということです。

 

動いているものを動画で撮影すると、少しずつ形状や位置が異なった静止画の連続として記録されます。

ストップモーションは、これを逆に応用して、少しずつ形状や位置を変化させた静止画を撮影して、連続して再生することで、動いているように見える、という錯覚を利用しています。

ただ、どんなに丁寧に細かく静止画撮影しても、実際に動いているものを静止画として撮影したものとは微妙に異なります。

動いているものは、動きの「ブレ」が写っているので、動きが滑らかに見えるのに対し、ストップモーションの方は、ブレが一切ないので、単に静止画の連続撮影になることで、動きがカクカクするということです。

 

長年、この弱点は容易に解決出来ませんでした。

ジョージ・ルーカスを始めとする映像の研究家たちが、様々な手法を編み出しましたが、「滑らかなストップモーション映像」を実現させるためには、高いコストが必要でした。

 

ところが、現在は、パソコンによる映像加工が容易な時代です。

例えば、Adobe社製のAfter effectsというソフトを使って映像を加工すると、「カクカクしているストップモーション映像」にソフトが計算して作り出した「自然なブレ」を加えて、非常に滑らかな映像に加工することが出来ます。

「ストップモーション=動きがカクカクしている」という弱点は、完全に解決したのです。

オリジナルのストップモーションモデルを作る

私は、ストップモーション撮影の大家であるハリーハウゼンという人に憧れて、映像制作を始めました。

名作を真似て、ストップモーションの実験映像をいくつか作りましたが、当時、台頭してきたビデオカメラによる撮影が、フィルムカメラによる撮影に比べて、ストップモーション撮影に適していなかったこともあり、段々と、ストップモーション映像から離れてしまいました。

 

しかし、近年、ハリーハウゼンも実現できなかった「滑らかなストップモーション映像の制作」の方法が手に入った現在、やはり、本格的なストップモーション映像をメインで使った作品を作りたくなっています。

 

本格的なストップモーション撮影のためには、可動式の骨組みを持ったミニチュアモデルが必要です。

もちろんこれは、自分で作る必要があります。

 

まずは、比較的可動部分が少ない、2本足で歩行する恐竜の試作モデルを制作しています。

ストップモーションモデルの特徴は、各関節が曲げられて、その形を保てることです。

ですから、単にぬいぐるみのように、手足が動くだけでは撮影には使えません。

関節を持った骨組みが必要になります。

 

簡易的なストップモーションモデルは、柔らかい針金で骨組みを作ります。

ただ、針金は何度も同じところを曲げ伸ばしすることで、金属疲労を起こして破損します。

ですから、耐久性を持たせたい場合、動きの大きな足などは、球状の部品を使った関節の構造にする必要があります。

本格的な骨組みは、全て、金属部品で作られるのですが、私はあくまでも低予算にこだわり、プラスチックと木材も組み合わせた骨組みを作ろうとしています。

 

骨組みが完成した後は、柔らかい表皮を表現するために、素材の選定や工作方法を色々と試すことになるなど、課題は山積みですが、昔夢見たオリジナルの恐竜映画が作れるのであれば、試行錯誤の甲斐もあります。

これらすべてが、DIY映画制作の楽しみです。

 

ある程度の撮影用恐竜模型が作れるようになったら、複製して、特撮ワークショップなどで使ってもらいつつ、オリジナルの恐竜映画に登場させる予定です。

また、電子書籍の工作シリーズ第3弾として、制作過程の紹介本を出版すると思いますので、ご興味のある方はそちらもご覧ください。

ミニチュアストップモーション映像の新時代

昔ながらのストップモーション手法は、近年、その魅力が再評価されてきています。

全編、ストップモーションのミニチュア映画が劇場公開されて、話題にもなるほどです。

 

元々、「動かないはずの模型が動く」という映像的な面白さに加えて、前述したような、ストップモーション特有の弱点もパソコンソフトの性能によって克服されました。

さらに、昔ながらのミニチュア特撮映像にあった、もう一つの弱点、「背景と合成したときの、色の違和感」も、パソコンを使ったデジタル編集技術で解決できます。

昔のミニチュア合成映像は、ある意味、ぶっつけ本番で、ミニチュアと背景をきっちりと合成するのが精一杯で、「微妙な色の調整」はとても困難でした。

昔の名作を見ても、「もう少し色味を調整できれば、さらに自然な合成映像になったはずだなあ」という場面が散見されます。

 

勘違いしてはいけないのは、当時の人のレベルが低かったわけでは無いことです。

むしろ、70年代前後の特撮マンの技術は、現代のスタッフが誰一人、再現できないくらいの高度な職人技です。

現代は、特殊な技を持たなくても、パソコンという道具を使って、擬似的にレベルの高い映像が作れるだけです。

パソコンを使って、映像合成をしながら色の調整の試行錯誤をすることは容易です。

 

そのパソコンによる恩恵を最大限に利用することで、古い技術である「ストップモーション」を使って、新しい表現が出来る時代を楽しみたいものです。

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