特撮事例:旅客機の機内・特徴的な空間は低予算映画でもそれなりに表現できるという事実

B級パニック映画の定番・旅客機内

娯楽映画らしい映画と言えば、その一つにパニック映画があります。

中でも、旅客機を舞台にした、エアポートシリーズなどは、70年代に多く作られ、物語の骨子やトラブルなどもほぼ同じようなものにも関わらず、安定した人気を博しました。

 

機内という閉鎖空間であるにも関わらず、かなり多くの人物が登場できるので、様々な人間ドラマを表現しやすいことも、こういうタイプの映画の特徴だと思います。

 

しかし、当然といえば当然ですが、旅客機が舞台の映画は基本的に大作映画です。

機内の撮影用の専用セットを持ったスタジオや、実際の旅客機の客室での撮影が一般的だからです。

つまり、我々、低予算の自主映画、DIY映画では、始めから扱う選択肢がないのが普通なんです。

 

では、低予算映画では旅客機のシーンは実現不可能なのか、諦めるべきなのかというと、今の時代の基本的な技術を使えば、ある程度、実現は可能だと思います。

今回は、その手法について細かく考えてみましょう。

お約束でそれらしく見えることが大事

1回数十万円の使用料を支払って、テレビドラマや映画で使うスタジオで撮影するのは論外です。

そんな資金があるのなら、撮影のたびに関係者で山分けすべきです。

 

映像は、物語を伝えるための要素の一つに過ぎません。

もちろん、物語が頭に入ってこないくらい、ずさんな映像になってしまっては元も子もありませんが、最低限の品質を保てれば、観客は、物語に即した映像として、脳内で補完して場面を見て、物語を楽しむことが出来るものです。

 

もっとも最近は、創作物に対して揚げ足を取る見方を楽しむ人が増えた挙げ句、どこか1点でも「現実と違う」部分に気付くと、物語そのものが頭に入らなくなるという、可哀想な人も増えました。

テレビドラマの批判理由として

  • 現実にはその職業の人はそんな行動はしない
  • その行動は違法になる

というような内容であるのを見ると、

「この物語はフィクションです。フィクションを楽しむ気がない人は視聴をご遠慮ください」と冒頭で告知してあげた方が良いのかとさえ思います。

お互いにストレスが増えるからです。

 

ちょっと脱線しましたが、映画という創作においては、

  • この人は刑事ですよ
  • この人は格闘技の達人ですよ
  • ここは近未来ですよ
  • これは生きた恐竜ですよ

という、お約束の中で、作り手も観客も楽しんだ方が、お得だと思いませんか?

その上で、課題は、「どれだけそれらしく見えるか」の工夫をすることだと思うのです。

升田流・ミニチュア製作の考え方

さて、実際の旅客機内のシーンをどう撮るか、と言えば、低予算が前提である限り、やはり

  • ミニチュアセット(1/10くらい)
  • グリーンバック撮影した人物

を合成するのが基本と考えます。

 

具体的に機内の風景を想像しましょう。1列が

  • 3人掛けの座席
  • 通路
  • 人掛けの座席
  • 通路
  • 3人掛けの座席

という、中型機を想定しましょうか。

 

このシーンには、いくつかの構図が必要です。

「引きの映像」では画面の中に数十もの座席が映り込むでしょう。

ですが、バカ正直に見える全ての数の座席のミニチュアを制作しようとするのは早計です。

膨大な手間が掛かりますし、1/10とは言え、ミニチュアセットの保管場所も馬鹿になりません。

 

もっと「特撮脳」を使いましょう。

撮影の手間、合成の手間を考えると、「横に3つ連結された座席」のミニチュアを1つだけ作るのが最も楽だと思います。

この3連結のミニチュアセット(幅は15センチ~20センチ程度)を撮影して、画面上で複数分を合成することで、たくさん座席が並んでいる旅客機内の背景映像を作る訳です。

 

画面に映るのは、座席だけでなく

  • 窓と壁
  • 部屋の仕切りの壁

もありますから、これも1/10スケールで作っておく必要があります。

 

ただ、「窓と壁」の部分も、全体を作る必要はありません。

せいぜい、窓2つ分くらいの長さがあればいいでしょう。

これも、画面上で合成して、窓と壁が続いているように見せれば良いわけです。

ミニチュア撮影の実際

一部だけ作ったミニチュアセットを使って、背景映像を作るための撮影は、やや特殊です。

3連結の座席セットを撮影して、画像を切り抜き、コピペしながら複製して済むのであれば、一番楽です。

ただ、実際にはパースという「映像の歪み」があって、単純な画像のコピペでは上手くいかない部分が大半です。

そこで使うのが、「定点撮影合成法」です。

 

この撮影のためには、予め、模造紙のような大きな紙を床に見立てて、座席や壁を配置する位置を、正確に記入しておきます。

と言っても、難しい作業ではありません。

例えば、窓際の壁であれば、模造紙の端に、壁のミニチュアの長さに合わせて印を付けます。

ミニチュアの長さが15センチであれば、15センチ刻みの印を付けるだけです。

 

次に、それに合わせて、座席のミニチュアも、配置すべき場所に印を付けます。

10列分必要なら、10列分の印を付けておきます。

 

その配置図ができたら、定点撮影の準備をします。

テーブルに模造紙をテープで固定して、カメラも三脚にしっかり固定します。

 

この状態で、まず、壁のミニチュアを端から順番に並べて撮影を繰り返します。

後から、個別に撮影した壁のミニチュア画像を切り抜いて、画像を重ねるだけで、窓が並んでいる壁の背景画像が完成します。

 

同様に、座席のミニチュアも、床の印に合わせて、順番に移動させながら撮影します。

撮影した画像から、座席ミニチュアだけを切り抜いて合成すれば、パース(歪み)の状態もリアルなまま、たくさんの座席が並んでいる状態になります。

 

最も大事なことは、カメラの位置と床の模造紙を一切動かさないことです。

撮影中に少しでも動いてしまったら、合成はずれてしまいます。

 

私がオススメするのは、一連の撮影を「動画」で行なってしまうことです。

動画撮影にしてしまえば、シャッターボタンを繰り返し押す手間が省ける上、カメラに一切触れないので、カメラが動いてしまう危険を回避できます。

 

照明の設定などを予め済ませておけば、15~20分程度で一連の撮影は出来るのではないでしょうか?

その動画には当然、セットを動かしているご自身の手などが入っているわけですが、動画編集ソフトを使って、手が写っていない瞬間の静止画を書き出して、切り抜き用の画像として使うわけです。

切り抜き作業はフォトショップで

この手法で最も面倒なのは、書き出した画像から、ミニチュア部分を切り抜く作業でしょう。

フォトショップの切り抜き加工方法は性能が上がってきていて、楽に被写体を切り抜く方法も増えていますから、色々と試すと良いと思います。

私は、手間ですが、ペンツールを使って確実に切り抜くことが多いです。

 

実際に合成してみると、連続しているべき壁に、わずかに隙間ができていたり、ということもあるはずです。

手作業で撮影を行なっているので、これはある程度、仕方がありません。

ここはフォトショップで微調整します。

 

以上の作業でミニチュアによる背景映像が完成します。

任意の座席にグリーンバック撮影した人物を座らせることができます。

よりリアルにするために、細かな工夫(ごまかし)は必要になりますが、基本的にはこれで完成です。

実際にミニチュアで背景を作ってみると、CGで作った背景とは違うリアリティーを実感できると思います。

 

参考になれば幸いです。

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