映画の歴史は、特撮(特殊撮影)の歴史

「特撮は特撮映画の手法」という誤解

特撮というと、派手なスペクタクル映画やモンスター映画、変身ヒーローものでのみ使う手法、というのは大きな勘違いです。

そもそも、映画誕生期のサイレント映画の時代から、映画は特撮の技術を生かしてマジックの一環としても扱われた時期があります。

つまり、当時は、「映画=特撮」であり、特撮は映画と同時に発展してきました。

サスペンス映画の巨匠、アルフレッド・ヒッチコック監督は、実は特撮を効果的に活用する名手です。

例えば映画「めまい」で有名な、螺旋階段のいわゆる「めまいカット」も、実際のセットでの撮影ではなく、「螺旋階段のミニチュアセット」を使用して撮影されています。

そんな、さり気ない活用が生きるのも、特撮の魅力なんです。

MVG作品の中で、特撮は重要な位置を占めています。

特撮そのものが見せ場なっている装飾的なシーンはもちろん、低予算ならではの撮影における、あらゆる制約を解決する手段として、特撮を積極的に使用します。

そのような映画の作り方を、「邪道映画術」として提唱しているほどです。

これが何故、「邪道」と言わざるを得ないかと言うと、特に多くの創作者は、「映像技術でごまかさず、ありのままを撮影することこそ王道」と思っていて、頑なに昔ながらの手法を守っているからです。

そこで、あえて揶揄を込めて、私の手法を「邪道」を言っているわけですが、本心では、「最も現実的な手法」と思っています。

以下、いくつか、基本的な手法を、作例と共に紹介します。

ミニチュアセットをそのまま撮影して使うという手法

いうまでもなく、撮影セットをミニチュアで作成するため、実際に作ると大金や時間がかかるセットや、現実には存在しない場面の表現ができるのが特徴です。

そのため、基本的には「全体が見える」広角の映像をミニチュア撮影し、人物等の「アップ」は実物を撮影するパターンが多くなります。

商業映画の中でもSF映画などでは割と良く使われている手法です。

その中でミニチュアシーンは、どこまでリアルに表現できるか、が課題であり、なかなかクリアすることが難しいと言えます。

MVG作品でもできる限りのリアリティー追及はするものの、最終的には「その構図の映像が入った方がいいかどうか」でミニチュアシーンの採用を決めています。

例:建物のミニチュア(「水晶ドクロ伝説」から)

写真は実際の建物を撮影した昼のシーンです。

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シナリオ上、夜の、しかも雨が降っているシーンで、同じ建物を登場させる必要がありました。

そこで、迷うことなく、ミニチュアセットを作りました。

何故、実際に雨の日の夜に撮影しなかったのか。

少し考えれば分かると思いますが、

    • カメラマンが撮影可能な夜であること
    • イメージ通りの雨が降ること
  • 雨をイメージ通りに画面に写り込ませること

という撮影条件が整うのがいつになるのか、全く予定が立てられないからです。

そこで、紙製のミニチュアセットを作り、濡らさないように注意しながら、自宅の風呂場で撮影しました。

雨はセットとカメラの間にシャワーの水を映り込ませています。

普通に考えるとミニチュアで撮影するようなショットではないのと、映る時間が短いこともあって、ミニチュアと気付かない人もいるようです。

「ミニチュアと気付かなかった」というのは特撮にとって一番の褒め言葉です。

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例:旅館の入り口のショット。(「横浜迷宮街」から)

シナリオ中に、旅館での宴会シーンがあったのですが、当然、その10数秒のシーンのために、大金を使って旅館での撮影などしません。

室内シーンは、

  • 襖を開ける着物姿の仲居
  • ビールを飲んでいる主人公
  • 宴会中の雑音

を組み合わせて表現しています。撮影場所は民家の一室です

シーンの冒頭に、旅館の玄関が数秒入れば、旅館シーンとして成り立たせられる、という計算で、映像を構成しています。

(こちらの作品は、サイト内で視聴できます)

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例:遺跡のセットと1/10ミニチュアフィギア(「水晶ドクロ伝説」から)

この作品を制作した1990年当時は、まだ、パソコンでのデジタル合成が十分には出来ませんでした。

そのためミニチュアセットにミニチュアのフィギアを配置する手法を多用しています。

ここでは、ミニチュアだ、ということが分かってしまうことには目をつぶって、「映像として欲しい構図」を作ることを優先しています。

ミニチュアフィギアは、コマ撮りの手法で動かしています。

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「水晶髑髏伝説」のミニチュアセットとコマ撮り映像。

例:手術室のミニチュアセットと1/10フィギア(「ブラックジャック 呪いの人面瘡」から)

上記と同じく、実際には撮影困難な構図の映像は、ミニチュアセットとフィギアを使用して撮影しています。

顔がはっきりと見えない分、それほど違和感なく、シーンに溶け込んでいると思います。

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例:倉庫のミニチュアセット撮影(「チームウェンズデイ探検シリーズ3」から)

ミニチュアセットと「影」を利用した撮影です。

例:水中を泳ぐワニのミニチュアセット(「チームウェンズデイ探検シリーズ2」から)

「水中を泳ぐワニ」のショットで使用したワニのミニチュアです。

例:水中撮影用シーラカンスのダミー(「チームウェンズデイ探検シリーズ1」から)

水面から1mほど下に沈めて撮影するために製作したものです。

例:逆ミニチュアセット・拡大模型(「チームウェンズデイ探検シリーズ2」から)

巨大クワガタとその使用例。主な材料は木粉粘土。

例:逆ミニチュアセット2・拡大模型(「チームウェンズデイ探検シリーズ2」から)

巨大昆虫とその使用例。主な材料は木粉粘土。

例:ダミー松明(「チームウェンズデイ探検シリーズ2」から)

ミニチュアではありませんが、電気松明とその使用例。主な材料は、新聞紙、懐中電灯。

撮影した映像を「合成」するという手法

これは、PCを使った、画面の「デジタル合成」だけでなく、アクションシーンなどでは一般的な、「別人によるスタンドイン撮影」や、別々に撮影した映像を繋げる事によって存在しない「場」を作り出す、シンプルなカットバック編集も含みます。

そもそも「映画」が「舞台」などと決定的に違うのは、「カメラで映した範囲内しか観客に見えない」ということです。

そのため、その場の雰囲気などをリアルに伝えられないデメリットがありますが、メリットもあります。

例えば撮影時にその場にいなかった人物が、一緒にいるように見せたり、別々の場所で撮影した人物が、同じ場所にいるように見せたりすることができるのです。

例:公園シーン(「弥生の風」から)

このシーンは実は、別の日、別の県の公園でそれぞれ撮影した映像を組み合わせています。

理由は、撮影スケジュールの都合です。

メインの撮影を東京都八王子市で行っていたのですが、わずか2カットほどの出演の為に、役者さんを神奈川県から来てもらうわけには行きません。

そこで映像のプロやココロザシの高い人に叱られるのを覚悟の上で、邪道映画術を活用したのがこのシーンです。

合成によって成り立たせるシーンは、絵コンテを作る段階で、あらかじめ別々に撮影する計画で準備します。

絵コンテを設計図として正確に撮影する必要があります。

この例では、映像を交互に編集して、「あたかも同一の場所でやり取りしている」ように見せています。

ポイントは、実際にはその場にいない登場人物の「後ろ姿や肩」を、ほんの少し、画面の手前にに映り込ませることです。

同じ服を着た別人が映り込んでもいいですし、後ろ姿の画像をデジタル合成してもいいと思います。

この公園のシーンでは、あらかじめ撮影しておいた静止画を画面手前にデジタル合成しています。

例:合成あれこれ(「弥生の風」から)

次は「邪道映画術」の実例集です。

  • 撮影時、録音状態を優先するために、マイクが映りこむのを気にせず撮影し、後から消したショット
  • 夕焼け空を合成したショット
  • 撮影時に映り込んだ、都合の悪いものの除去
  • 出演者のスケジュールの関係で別々に撮影して、デジタル合成したショット
  • その他、工作系小道具の応用例の紹介

「撮影した映像」と「ミニチュア」を「合成」するという手法

ビデオ映像がデジタルデータになったことで、映像の合成が容易になりましたが、撮影した人物や実景の映像と、ミニチュアセットを合成することで、表現できる映像の幅は格段に広がります。

MVGでは、今後、この手法を多用することで様々な作品を製作していこうと考えています。

例:小人の遺跡ミニチュアと人物の合成(「チームウェンズデイ探検シリーズ2」)

遺跡ミニチュアの主な材料はトイレットペーパーの芯と粘土。

例:シーラカンスミニチュアと海岸・人物の合成(「理の形」)

例:イルカの骨格ミニチュアと合成(「理の形」)

例:合成を加えることで風景を変える(「チームウェンズデイ探検シリーズ2」)

ロケ地は神奈川県・城ヶ島。

例:ミニチュアの風景+ミニチュアスノーモービル+人物の合成(「チームウェンズデイ探検シリーズ3」)

登場人物とミニチュアスノーモービルを合成し、さらにそれをミニチュアセットに合成してます。

普通のドラマシーンにも特撮を使うことで撮影の制約が減る

登場人物を別々に撮影する手法は、演技者としては相手と生の芝居のやり取りが出来ないから言語道断、という意見もあります。

が、MVG作品では限られたスケジュールの中で「思い描いた映像を再現する」ことを優先させるために、たびたびこの手法を採用しています。

そもそも、別々に撮影された映像を編集することによって、シーンに意味を作り出すのがエイゼンシュタインの提唱した「モンタージュ理論」であり、これも映画の醍醐味の一つと言えるのではないでしょうか。

MVG作品では他にも特撮の技術を応用した例が多くあります。機会があれば紹介していきたいと思います。

また、「作品紹介」のコーナーで公開しているものの中にも、特撮の応用例がわかるものもありますので、よろしければご覧ください。
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