「大江戸恐龍伝」の紹介

体力作家・夢枕獏の傑作B級モンスター時代小説

夢枕獏の小説を最初に読んだのは「幻獣変化」でしょうか。

若いころの釈迦が異形の世界の中心にある、山のような巨木の上に実る、不老不死の実を探しに行って、途中にはさまざまな妖怪変化の類が襲ってくる、冒険ファンタジー小説でした。

「西遊記」の面白さと「不思議の国のアリス」のような独特の世界観を持っていて、当時は非常に面白いと思っていました。

 

ただ、最近では余りにも話の続きをズルズルと引き延ばすような長編小説が多くて辟易していた事も事実です。

決して分量を水増しして長くする、という訳ではないのでしょうが、出てくるアイデアを次々に盛り込んで、枝葉が方々に伸びて行ってしまって、読み手のほうが途中で飽きてしまう、何年かしてから「ああ、あの小説やっと終わったんだ」という感想を何度も持ちました。

 

今回の「大江戸恐龍伝」も完成まで10年、全5巻の大作です。

主人公・平賀源内が実在する「龍」を追い求めて南の島へ行き、江戸の町に恐竜を連れ帰ってくるという、時代劇版「キングコング」です。

本人も「ゴジラを黒澤明に作ってもらいたかった。それが叶わないから自分で書いた」というような事をあとがきに記しています。

 

平賀源内をはじめとする実在の人物と、実際の史実を、フィクションと織り交ぜながら進むストーリーは莫大な資料の下調べや取材、それにこの作家特有の体力にまかせた執筆の賜物でしょう。

登場人物はとても魅力的で、特に平賀源内の、有り余る才能を持ちながら、大きな事業は何一つ成し遂げられなかった、という無念さと、だからこそさらに壮大な夢を求める姿には、単なるスーパーマン的主人公にはない魅力があります。

 

そしてなにより「この小説は面白い。作者としてではなく、読者として読みたかった」と公言している作家自身が幸せそうでうらやましい、と素直に思うのです。

リアリティーのあるモンスター小説としても、「こういうものが読みたかった」と思える作品です。

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