ドグラ・マグラ(SF版)


夢野久作の遺作で、1935年に刊行さて以来、絶大な人気を保っている小説「ドグラ・マグラ」は夏休みの度に書店に平積みのコーナーできています。江戸川乱歩系の探偵小説の要素もあり、不思議な幻想小説の要素もある、いろんな意味で内容の濃い作品です。いかにも小説らしい小説で、逆に言えば映像化には全く向いていない作品とも思えますが、過去に松田洋二主演で映画化されています。元々、奇想天外なストーリーで、映像化が困難なことに加え、映画版では恐らく、小説の不可解さの魅力を伝えることに徹しているため、難解カルト映画に仕上がっています。これはこれで雰囲気が良くて大好きなのですが、今回、「ドグラ・マグラ」をSF設定で作った作品を見つけて、DVDを購入してきました。

2010年に制作されたこの作品はCGアニメです。映像自体は一昔前のゲームのレベルです。最近の優れたCGを見慣れているとその差は歴然としていますが、人形劇だと思えば何の違和感もありません。因みに私は本当に人形劇版の「ドグラ・マグラ」が存在していても恐らく購入してしまうでしょう。

オリジナルが大正時代の九州を舞台にしているのに対し、今回の作品は精神病棟として建造された宇宙船の中が舞台で、完全にSF仕立てです。実は「ドグラ・マグラ」はSF的な要素も強く、しかも驚くべきことに、「記憶は細胞それぞれが持っている」など、最近になって科学的に証明されて話題になっていることを主張しています。夢野久作は当時、どこからそういうネタを仕入れて来たのかという興味も尽きません。ともあれ、近未来というよりパラレルワールドの宇宙船が舞台になっている他は、ほぼ、原作と同じ筋立てです。先祖代々に伝わる遺伝的記憶が、何かのきっかけで蘇ると、先祖の人格と入れ替わって行動してしまう、先祖に猟奇殺人事件の犯人がいると、その犯罪を繰り返してしまう、という話です。

今回の作品独自の表現として、自殺した研究者の一人の体の一部とコンピュータを繋いで、元の人格として会話する、という場面がありました。大胆なアレンジですが、「ドグラ・マグラ」らしい場面になっています。

原作は青空文庫などでも読めるようになっている古い小説です。。とかく原作ファンはリメイクを批判しがちですが、このように新しいアイデアと組み合わせてリメイクされる、という事自体、元の作品に魅力がある証拠だと思います。リメイクによってオリジナルも再評価されるので、むしろ喜ぶべきことだと思います。

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