カメラマン1人で2台のカメラを使って舞台を撮影する方法(アップ映像の意味)
アップ映像の必要性を考える
ここで、そもそも何のためにアップの撮影をする必要があるのか、考えてみてください。
舞台いっぱいにダンサーがいて、それぞれ一斉に踊っている場合、アップの映像は必要ありません。
また、撮影する舞台映像が、スタッフや出演者の確認用であれば、やはりアップは不要です。
アップにする、ということは「他を切り捨てる」ということなのです。
演出家は舞台全体のバランスを作っているので、やはり全体を確認する必要があるでしょう。そうするとアップによって他が切り取られると、必要な確認はできません。良かれと思ってアップ映像を入れても、映像が役割を果たせなくなってしまうのです。
ただ、一般の観客の感覚で映像を見ると、全編が全体を捉えた映像というのは、仮に相当に面白い舞台であっても、飽きてしまって見ていられません。数分で飽きてきます。
アップの映像を挟むことで、映像的に適度な刺激を作る効果もあるので、見やすい映像になるのです。
単にアップの映像をはさめば良いというわけではない
「どういうアップの映像を使うべきか」という事については法則があると思います。
簡単にいうと、アップというのは、観客が「もっとよく見たい」と思った時に、ストレスを感じさせないよう「もっとよく見えるようにしてやる」ということです。
例えば、登場人物が手紙を受けとるシーン。受け取って手紙を開いた。観客はその役者の手元か、表情をもっと見たいと思うでしょう。映画であれば手紙の文面のアップという選択肢もありますが、舞台では観客から文面は見えませんから、おのずと表情のアップを撮ることになるでしょう。
やってみると分かるのですが、時々、構図的にバランスが良いアップがきれいに撮れたので、その映像を使いたくなることがあります。しかし、そういう場合に限って、何ともリズムの悪い映像の流れになって、見ていてストレスを感じる事があります。
それは大抵、「見たいと思っていないところを強制的に見せられている」ことが原因です。
理想としては、ファインダー越しに自分も舞台の鑑賞者になって、「大多数の人がもっと見たいと思うだろう」というところを、アップの映像で切り取っていく、という感覚で撮影することです。
失敗の少ないアップの撮り方
手元のカメラでアップの映像を撮っている時、もう一台のカメラは舞台全体を撮影しています。
舞台全体を捉えている映像は、ベースになる映像で、ほぼ、いつでも使える映像です。(そのためにもスポットライトの白飛びには注意)(参考記事)
アップのカメラの映像は、必ず、「使えない部分」が生まれます。まずはそれを認識してください。
相当熟練していない限り、ほとんどぶっつけ本番の舞台の撮影では、アップのカメラは被写体を追うことに集中すべきです。
つまり、ズームを一定の倍率に固定しておくという事です。
どの程度の倍率が良いか、一概には言えませんが、ある程度広い舞台の場合は、カメラの位置が遠いこともあるので、人物の全身がすっぽり入るくらいが目安です。
小劇場であれば、人物の上半身のサイズにしてもいいでしょう。
ズームの倍率を一定にした上で、観客が見たいであろう部分をサマになる構図で切り取る感覚で、ひたすら被写体を追ってください。
芝居であれば、役者が移動する事によって構図は崩れるので、また、良い構図を探します。
この構図が崩れている間は、アップの映像は使えません。
編集作業によって、全体の映像を見せることになります。
アップの映像が使えない箇所は、全体映像を使うしかありませんが、アップの映像が使える箇所は、アップを使うか全体を使うかの選択の余地が出来ます。
この選択の余地が多ければ多いほど、レベルの高い編集をする可能性が残されるのです。
そのために、出来るだけ長い時間、アップの使用が可能なような構図の映像を撮影することが望ましいのです。
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