谷崎潤一郎展
神奈川近代文学館で開催された「谷崎潤一郎展 絢爛たる物語世界」に行ってきました。
この春、普段使っている通勤電車の吊り広告でこの展示会のことを知って、短編集を買って読んだりしていました。
実は、この作家の小説は何度も映画化されているくらい有名、という以外、ほとんど知らなくて、今回も興味を持ったのは「没後50年」という文字を見たからです。
なぜ、「没後50年」が引っかかったかというと、これ以降は小説を無料で読める「青空文庫」に掲載が可能になったりして、作品の二次利用が自由に出来るようになるからです。
普段から、小説のラジオドラマ化が好きなので、夢野久作や久生十蘭の小説を脚色して、自分でオーディオドラマ版が作れないかなあ、と常々企てているのですが、この夏に「没後50年」が経過する谷崎潤一郎作品も今から準備すれば、まだ手付かずの作品をオーディオドラマ化できると考えたのです。
少し調べてみると、私の好きな作家の一人、江戸川乱歩も谷崎潤一郎から影響を受けた、とy書き残しているし、実際、谷崎潤一郎短編集を読んでも、どこか共通点がある気がするので、愛着は持てそうな気がしています。
ただ、もちろんどんな小説にも言えることですが、小説の魅力のうち、多くを占めるのは「作家の文体」です。
オーディオドラマは朗読と違って、小説の「地の文」をいかに状況音や台詞のやりとりから分かるようにするか、がポイントです。そうすると、本来、魅力であった文体が形を変えてしまうので、下手をすると、同じ物語を説明しているだけになってしまいます。
それが理由で、文学作品のドラマ化を嫌う人は多いと思います。
しかし、鈴木清順監督の「ツィゴイネルワイゼン」という映画は、原作の内田百閒「サラサーテの盤」を魅力的に映像化していますし、泉鏡花原作の小説を映像化した作品「葛飾砂子」は、鏡花本人から「大変結構です」と褒められたそうです。ちなみにその泉鏡花の映画の脚色を谷崎潤一郎が担当していたことは、今回初めて知りました。映画解説の淀川長治はこの映画を「日本で初めての芸術映画」と評しています。
実は谷崎潤一郎は「大正活映」という横浜にあった映画会社の作品に文芸顧問として関わり、義理の妹が主演したりしていたそうです。谷崎潤一郎オリジナル脚本の『アマチュア倶楽部』という技術的にも画期的な作品があったするようです。(フィルムは現存していません)
色々と経歴を見ているうちに、谷崎作品を脚色して別のメディアに変換する、という事への抵抗感は薄れてきました。この作家本人が、文芸作品の脚色に理解があると思えるからです。
谷崎潤一郎展自体は、大変盛況でした。
セーラー服の高校生も熱心に資料を見ていたりして、意外だったのですが、どうも「文豪ストレイドッグス」というコミックの人気も影響しているようです。
「小説は原文に限る」などと言わずに、こういう色々な入り口を作ることには大賛成です。魅力のある作品は読者を原文にまで引き寄せるのではないでしょうか。
オーディオ作品への出演者は劇団員など、演技経験者に依頼するか、『アマチュア倶楽部』を模して、素人をうまく使うか思案中です。脚色やSEの担当など、興味がある方はご連絡ください。