特撮映画としての「死亡遊戯」

主演俳優死去後に80%追加撮影された特殊な映画

今回題材にするのは、1978年公開の香港映画「死亡遊戯」です。
ざっと概要を説明します。

 

ブルース・リーはアメリカのTVで一部のカルト的人気は得たものの、メジャーになりきれず、亡くなる3年位前に香港に凱旋して、4本の映画を撮りました。
その4本目が世界的ヒットになった「燃えよドラゴン」です。

 

この作品の公開前に、ブルース・リーは急死してしまったので、本人は自分が目標としていた「世界的大スター」になったことを知らなかったんです。

 

世界中で大ブームになったブルース・リー映画は繰り返し公開されます。
「燃えよドラゴン」の前に1本、映画を撮りかけていたことは知られていました。

それが「死亡遊戯」です。上下が繋がった黄色い衣装を着たアレです。

プロデューサーのレイモンド・チョウは、アメリカ映画「燃えよドラゴン」の監督を起用し、大幅なシナリオ変更をしました。

そして、主演俳優の死後5年経ってから「死亡遊戯」という前代未聞の映画を完成させました。

 

アメリカ人俳優が多く出ていることもあって、当時の香港映画としては格段にあか抜けた、「洋画の映像」になっています。

この映画の最大の特徴は、主演であるブルース・リー本人は、クライマックスのアクションシーン以外、ほとんど出ていないことです。

主演俳優が既にこの世にいないのですから、主役は基本的に「そっくりさん」です。

似ていることを最優先にしているため、出演しているのは俳優ではなく、「素人」です。

しかも、そっくりさんと言っても、観間違えるほどには似ていないんです。

 

幸い、ブルース・リーはプライベートでよくサングラスをかけていたので、そのスタイルを真似ることで顔を隠しています。

顔がアップになるときは、過去の主演映画のフィルムをうまく使ったりしています。

 

もちろん、揚げ足を取るつもりで観れば、「突っ込みどころ満載」の映画です。

しかし、私は、これほどまでに「映画として成り立たせるための執念」を感じる映画を他に知りません。

メインで二人のそっくりさんが登場するのですが、年格好が似ている「そっくりさんA」はアクションができません。

アクションシーンは、さらにもう一人の「そっくりさんB」がスタントとして演じています。

 

この、「そっくりさんB」は、当時、二十歳すぎくらいだったので、ちょっと若すぎるんです。

ブルース・リーのそっくりさんのスタント、という、孫請けのような立場です。

 

アクション監督を担当した、サモ・ハン・キンポーの証言によると、当時は「そっくりさんB」もアクションのレベルが低くて、場面によっては、さらに吹き替えのスタントマンも使っているそうです。

こちらについては背格好しか似てないそうですが、顔がよく見えない撮り方で工夫しているので、私も最近まで知りませんでした。

特撮満載と言える「死亡遊戯」

ところで、「特撮」には色々なタイプがあります。

アクションシーンを主演俳優の代わりに演じる、「スタント」もその一つです。

 

そっくりさんが、主役の「芝居のシーン」までスタントしているようなこの映画は、「全編が特撮」とも言えます。

 

特撮の代名詞とも言える「合成映像」も出てきます。

初めの合成は、映画スターである主人公が、舞台セットでのアクション撮影を終えて楽屋に入った瞬間。

 

正面から顔が映る場面は「燃えよドラゴン」のクライマックスシーンのショットに、タオルを光学合成しています。

 

当時の合成技術では、デジタル合成のように、タオルが自然には合成されません。

それでも、直前のシーンで主人公の首にタオルを掛けさせ、次のショットでタオル合成をしているあたりに、強いこだわりを感じます。

タオルを首に掛ける演出さえしなければ「合成が不自然」というリスクを避ける事もできたのに、あえて合成を選択しているのですから。

 

次に使われる特撮は、これを茶化す人もいますが、私は本気で感心しました。

 

主人公が鏡の前に座って、後ろに立つ悪役の脅し文句を聞いています。
ちょうど主人公の顔が映るところの鏡の面に、直接、切り抜いたブルース・リーの顔写真を貼っているんです。
アナログなアイコラの手法です。

 

この鏡のショット。
もし、「顔写真を面のようにかぶって撮った」というのなら馬鹿馬鹿しくて笑えるかもしれません。
しかし、「鏡に写真を貼った」という発想が非常に面白い。

 

鏡の面は2次元です。
そこに3次元の世界が映って、まるでその奥に3次元が広がっているように見える。
その境に2次元の写真を貼り付ける、という行為はいろんな意味でトリック的です。

 

これは古い特撮映画の「グラスワーク」という手法に似ています。
「グラスワーク」はカメラの前に大きなガラスを立てて、絵を描きこむ手法です。

 

例えば崖の前で撮影する時に、優秀な、マットペインターと呼ばれる画家が、カメラの前に置いたガラスに古代遺跡の絵を描きます。
それをカメラから見ると、絵と崖が上手く合成されて、あたかも遺跡の前で撮影しているように見える手法です。

 

古いモノクロ怪獣映画などでよく使われているシンプルな手法ですが、どこからが合成か分からないくらい、上手くできているものもあります。

 

デジタル合成は、コンピューターの性能による成果です。
それに対し、「グラスワーク」などのアナログな特撮は、まさに、「工夫」と「職人技」の成果なので、大いに評価すべきです。

 

そして実はこの、鏡に写真を貼ったシーンの終盤の一連の編集が秀逸です。

 

主人公が悪役の一言にキレて振り向きざまに顔を蹴り上げるのですが、「ドラゴン危機一発」の顔のアップが一瞬入ったあと、「そっくりさんB」のキックアクションに繋がるの流れが非常にスムーズで、この瞬間はそっくりさんの表情が本物そっくりに見えます。
(実はそっくりさんはそれほど本人には似ていないんですが)

 

このシーンに限らず、この映画においてはカット割りが非常に工夫されています。
それは

  • 顔のアップを使うためには別の映画からのショットを使わなければいけない
  • 「そっくりさんA」と「そっくりさんB」を組み合わせて使う必要がある

という制約からきているものです。

その制約を、映像作品の最大の武器である「モンタージュ」を駆使して巧みに編集することで、あたかも繋がった一連の出来事に見せるという成果を出しているのです。

ブルース・リー映画の魅力は、言わずと知れたアクションです。

映画中盤のアクションシーンは特に秀逸です。

敵ボスの用心棒主人公の格闘シーン。

まず、戦う相手が「ドラゴンへの道」「燃えよドラゴン」で敵役を演じたボブ・ウォールです。

いかにもブルース・リーアクションの設定としてしっくりきます。

 

加えてこのシーン、照明、アクションコーディネート、編集が完璧です。

このシーンのコーディネーター(殺陣師)は、前述したように「燃えよデブゴン」主演のサモ・ハンという人です。

死亡遊戯では、この人が関わったシーンと、関わってないアクションシーンの「出来の差」が激しいのも、映画制作の観点からは興味深いものがあります。

 

とにかく、このシーンはかっこよく出来ていて、ブルース・リーに詳しくない人がこのシーンを見たら、「そっくりさんB」と本人の映像をコラージュしたシーンとは気付かない筈です。

虚実混合の魅力

虚実入り交じった構造は、映画全体でも使われています。

物語は、銃で撃たれたスター俳優が、復讐のために自分が死んだと発表して、大々的に葬式を公開した後、敵を倒しながらボスを追い詰めていく話です。
実際のスター俳優であったブルース・リーの葬儀のニュース映像を使ったりしているので、不思議なリアリティーがあります。

そしてクライマックスは、本物のブルース・リーによるノンストップのアクションシーンです。

まさにブルース・リーの技のオンパレードで、皮肉なことに、それまでそっくりさんが一生懸命、「ブルース・リー」を表現していたことが、所詮「偽物の物真似だった」という事を痛感させられます。

しかし、一連のアクションシーンの最後に、秀逸なスタンドインが入ります。
ボスの右腕の男が、ナイフを仕込んだ杖を使って、ブルース・リーと戦う場面があるのですが、当然、そこは「そっくりさんB」によるスタントシーンです。

しかし、ブルース・リー本人の映像との絶妙なカットバック編集によって、まるで、「このシーンだけは都合よく、ブルース・リーがこの俳優と撮影していたのではないか」と思わせる出来です。

「そっくりさんB」は若いこともあって、本物にはあまり顔が似ていないのですが、このシーンではあえて顔をはっきり写してしまっています。

これは、「スタント」という影の功労者への、最後のご褒美として入れたような気がしないでもありません。

そして、そのショットでの「そっくりさんB」の「目の光」が、ブルース・リーが乗り移ったようによく似て見えるのです。

邪道こそ映画的

この映画は、間違いなく邪道映画です。
しかし、ある意味では、「究極の映画的作品」と言えます。

 

カット割りを工夫して、実際にはバラバラに撮った映像を、自然に繋がって見えるようにするのが映画です。
それを大胆に応用することで、「この世にいない俳優が新作映画に出演している」ように見えるのです。

 

最近では、本物そっくりのCGで映画が出来ます。
しかし、そういう安直なCG映画には無い「執念」がこの映画にはあるのです。

 

映画を製作する際の教材としても、もっと評価されてもいい作品だと思います。
私は、時々思い出したようにこの作品を見て、新たな発見を楽しんでいます。

 

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A special movie with 80% extra shots after the death of the main actor

The theme this time is the 1978 Hong Kong movie “Game of Death”.
I’ll give you a quick overview.

 

Although Bruce Lee gained some cult popularity on American TV, he was unable to become a major actor. About three years before his death, he returned to Hong Kong and made four films.
The fourth is “Enter the Dragon” which became a worldwide hit.

 

Before the release of this work, Bruce Lee died suddenly, so he did not know that he had become a “global big star” that he was aiming for.

 

Bruce Lee movies that have become a big boom all over the world will be released repeatedly.
It was known that he was about to shoot one movie before “Enter the Dragon.”

That is “Game of Death”. He’s wearing a yellow costume with the top and bottom connected.

Producer Raymond Chow took the director of the American movie “Enter the Dragon” and made drastic changes to the scenario.

And five years after the death of the main actor, he completed an unprecedented movie called “Game of Death”.

 

Partly due to the fact that many American actors appear in the film, it is a “Western film imagery” that is far superior to Hong Kong films of the time.

The biggest feature of this movie is that Bruce Lee himself, who is the star, hardly appears except for the climactic action scene.

The main actor is basically a “fake” because the main actor is no longer in this world.

Since the priority is to be similar, the actors are not actors, but “amateurs”.

Moreover, even if you say it’s a fake, it’s not similar enough to make a mistake.

 

Luckily, Bruce Lee often wore sunglasses in his private life, and he hides his face by mimicking that style.

When his face is close-up, he makes good use of films from his past starring movies.

 

Of course, if you watch it with the intention of getting a kick out of it, it’s a movie that’s full of pitfalls.

However, I don’t know of any other film that makes me feel this much ‘obsession to make it work as a movie’.

Two impostors appear in the main story, but impersonator A, who is similar in age, cannot perform any actions.

The action scene is performed by another “fake person B” as a stunt.

 

This “fake person B” was about twenty years old at the time, so he was a little too young.

It is a position like a grandson of Bruce Lee’s fake stunt.

 

According to the testimony of Sammo Han Kimpo, who was in charge of the action director, the level of action in “Fake B” was low at the time, and depending on the scene, it seems that a dubbed stuntman was also used.

It seems that only the height is similar to this one, but I didn’t know about it until recently because I devised a way to take pictures that don’t show the face well.

“Game of Death” that can be said to be full of SFX

By the way, there are various types of “SFX”.

“Stunt” is one of them.

 

This movie, in which the impostor is doing stunts even in the leading role’s “play scene”, can be said to be “the whole story is SFX”.

 

There will also be “composite images” that can be said to be synonymous with SFX.

The first composition is the moment when the main character, a movie star, enters the dressing room after finishing the action shooting on the stage set.

 

The scene where the face is reflected from the front is the shot of the climax scene of “Enter the Dragon”, and the towel is optically synthesized.

 

The synthesis technology at the time did not synthesize towels naturally like digital synthesis.

Even so, in the scene just before, the main character is wrapped in a towel around his neck, and in the next shot, he synthesizes the towel.

I could have avoided the risk of “compositing is unnatural” if I hadn’t even put a towel around my neck, but I chose synthetic instead.

 

Some people make fun of the SFX used next, but I was really impressed.

 

The main character is sitting in front of a mirror listening to the threats of the villain behind him.
A cut-out picture of Bruce Lee’s face is pasted directly on the mirror surface where the main character’s face is reflected.
It is an analog eye collage method.

 

This mirror shot.
If you say, “I took a photo with my face on like a mask,” it might be ridiculous and laughable.
However, the idea of ​​”sticking a picture on a mirror” is very interesting.

 

The surface of the mirror is two-dimensional.
The 3D world is reflected there, and it looks as if the 3D is spreading out behind it.
The act of pasting a two-dimensional photo on the border is trick in many ways.

 

This is similar to the technique of “glasswork” in old SFX movies.
“Glasswork” is a technique in which a large piece of glass is set up in front of the camera and a picture is drawn.

 

For example, when shooting in front of a cliff, an excellent painter called a matte painter draws pictures of ancient ruins on glass placed in front of the camera.
When viewed from the camera, the painting and the cliff are well combined, and it is a technique that makes it look as if you are shooting in front of the ruins.

 

It’s a simple technique often used in old black-and-white monster movies, but there are some that are so well done that you can’t tell where the synthesis starts.

 

Digital compositing is a product of computer performance.
On the other hand, analog SFX such as “Glasswork” are the result of “ingenuity” and “craftsmanship”, so they should be highly evaluated.

 

And actually, the series of edits at the end of the scene where the photo is pasted on the mirror is excellent.

 

The main character gets mad at the villain’s words and turns around and kicks his face. , At this moment, the fake person’s expression looks like the real thing.
(Actually, the impostor doesn’t look like the real person.)

 

Not only in this scene, but also in this movie, the cut division is very devised.
it is
Must use shots from another movie to use face close-ups
“Imperson A” and “Imperson B” must be used in combination

It comes from the restrictions.

By skilfully editing these constraints using the greatest weapon of video work, “montage,” the results are as if they were a series of connected events.

 

The attraction of Bruce Lee movies is, needless to say, action.

The action scene in the middle of the movie is especially excellent.

A fighting scene between the enemy boss bodyguard and the main character.

First of all, the opponent to fight is Bob Wall who played the enemy role in “The Way of the Dragon” and “Enter the Dragon”.

It really fits well as a Bruce Lee action setting.

 

In addition, the scene, lighting, action coordination, and editing are perfect.

The coordinator of this scene is Samo Han, who starred in “Enter the Fat Dragon” as mentioned above.

In “Game of death”, the “quality difference” between the scene in which this person was involved and the action scene in which he was not involved is also interesting from the point of view of film production.

 

Anyway, this scene is so cool that if someone unfamiliar with Bruce Lee saw this scene, they wouldn’t notice that it was a collage of footage of “Fake B” and himself.

The charm of a mixture of fiction and reality

A structure that mixes fiction and reality is used throughout the film.

The story is about a star actor who was shot and announced that he was dead in revenge, and after making his funeral public, he hunts down his boss while defeating his enemies.
There is a mysterious reality because it uses news footage of the funeral of Bruce Lee, who was an actual star actor.

 

And the climax is a non-stop action scene by the real Bruce Lee.

It was an on-parade of Bruce Lee’s skills, and ironically, until then, the imposters had worked hard to express “Bruce Lee”, but it was in the end “imitating the imposters.” Masu.

However, at the end of a series of action scenes, an excellent stand-in enters.
There is a scene where the boss’s right-hand man fights Bruce Lee with a knife-equipped cane, but of course, it’s a stunt scene by “Imperson B”.

However, due to the exquisite cutback editing with Bruce Lee’s own footage, it is as if “only this scene was convenient and Bruce Lee was filming with this actor”.

“Fake B” is young, so his face doesn’t look like the real thing, but in this scene, his face is clearly shown.

I don’t even feel like I put this in as a final reward for the shadowy meritorious “stunt”.

And the “eye light” of “fake B” in that shot looks very similar to Bruce Lee’s possession.

wickedness is cinematic

This movie is definitely a bad movie.
However, in a sense, it can be said that it is “the ultimate cinematic work”.

 

Film is a way to make the images that were actually shot separately appear to be connected naturally by devising cuts.
By applying it boldly, it looks like “an actor who is not in this world is appearing in a new movie.”

 

Recently, movies can be made with CG that looks just like the real thing.
However, this movie has an “obsession” that is not found in such easy CG movies.

 

I think it’s a work that deserves to be evaluated more as a teaching material when making movies.
As I recall from time to time, I look at this work and enjoy new discoveries.

(This English sentence was written by automatic translation.)

特撮映画としての「死亡遊戯」” に対して1件のコメントがあります。

  1. 山チン より:

    貴方の愛情あふれる感想に涙です。
    ビデオデッキもユーチューブもない
    あの時代(1978年)では各特撮シーン
    は上出来。
    映画俳優の設定も過去フィルム使用をを納得させる為でもあり、物語に名シーンのオマージュをナチュラルに持ってくる素晴らしい演出は120点!

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