CGでは表せない特撮の魅力はあるか?
実写映画にCGが応用されてきた歴史
映画「バットマン」の中でCGが使われたとき、「CGは今後、俳優の権利問題に発展するかもしれない」ということが議論されていました。
どういう事かというと、映像の中で俳優が演技をしている部分と、CGによって作られた場面があまりに自然に融合することによって、作り手としては自由度が広がる代わりに、俳優としては、勝手に自分が演じてもいない部分が作り出されてしまう、ということが良い事なのか?
肖像権上、問題はないのか?
という趣旨だったと記憶しています。
結局、その後、映画ではCGが猛威を振るい、特に「ジュラシックパーク」の大成功後は、CGが売りとなった作品が量産されています。
確かに、CGのレベルは常に進化していて、実写との区別は不可能なものも多くあります。
しかし、ここで疑問が湧きます。
CGというのはコンピューター上に作り出した、言ってみれば、精巧な「絵」です。
そして、現代の映画編集は、ノンリニアと呼ばれる、コンピューターを使った作業になっているので、CG部分というのは、「カメラを通さずに作られた場面」なのです。
つまり、「撮影をしていない」のです。
「特撮」とは「特殊撮影」の事です。撮影していないのであれば、それは「特殊効果」とは呼べても「特殊撮影」とは呼べないかもしれません。
1970年代後半から80年代、映画館に映画を見に行く、という事は、私達にとっては「ハリウッド映画」を見に行くことでした。
確かに、その年頃特有の「アメリカかぶれ」の要素もあったかもしれません。
あるいは、過度に「日本を卑下するのが格好いい」という誤った風潮の影響もあったかもしれません。
しかし、今見ても、当時のハリウッド映画(日本で公開されたもの)は格段に面白いのです。
そして、そのかなりの割合が「特撮映画」でした。
「ジョーズ」
「未知との遭遇」
「ブレードランナー」
「スターウォーズ」
「ゴーストバスターズ」
「バックトゥーザフューチャー」
「レイダース」
「バタリアン」等々、
CGを使わなくても、「特撮」で異世界を生み出して、観客をその中に引きずり込む魅力を持っていました。
その後、登場したCGの効果が衝撃的だったのは事実です。
しかし、「画面上で何でも出来るようになった」一方で「特撮ならではの楽しさ」は消えました。
簡単に言うと、
- 工夫が無くなって
- ワンパターンになった
のです。
最近では、CGのメリットを生かし、また、アラを隠すために、やたらとカメラが(実際にはカメラは無いのですが)被写体の周囲をグルグルと回ったり、ヒステリックなまでに画面を揺らして刺激を持続させる手法ばかりです。
CGの隆盛は、観客側に勘違いを生みました。
- 「特撮」は古い手法でレベルが低い
- 「CG」は新しくてレベルが高い
これは、例えると「アナログ」と「デジタル」の関係にも似ています。
実際は、「画質の良いアナログ写真」は「画質の悪いデジタル写真」より綺麗なのです。
当たり前のことですが、多くの人は「デジタルだから綺麗」と勘違いさせられています。
そう宣伝されているのですから仕方がない事です。
では、アナログチックな「特撮」は過去の産物で、CG全盛の現代では通用しないのか、ということに挑戦したのが、「進撃の巨人」の樋口監督であり、盟友の庵野監督です。
彼らはこの記事を書いている数年前、「特撮博物館」というイベントの中でCG無しの特撮映画「巨神兵東京に現る」という短編映像を作りました。
私は会場のスクリーンでそれを見て、そのクオリティーの高さと、メイキング映像の中での撮影風景の楽しさに感動しました。
単に懐古趣味でなく、「CG特殊効果映画」と互角に渡りあえる「特撮映画」の可能性を感じたのです。
そして2015年の夏、「進撃の巨人」が公開されました。
観客の多くは意識しないでしょうし、また、全く意識する必要もないのですが、これは純粋な「特撮映画」なのです。
話題になっている、超大型巨人もCGではなく、基本的に実物を使って「撮影」しているのです。
CGはそれを引き立てるための効果として、補佐的に正しく使われているだけです。
実は私はこれを書いている段階で、まだ「進撃の巨人」を見ていません。
賛否両論の評価も聞こえて来ていますが、「やっぱりCGの時代に、特撮は無理だったよね」という評価は聞きません。
その意味で、「特撮映画」復活の記念碑的作品と捉えてもいいのではないか、と思っています。
2016年は樋口監督と庵野監督があの「ゴジラ」を復活させるといいます。
この庵野という人も特撮というものを正しく愛している人なので、素晴らしい作品になる事を期待しています。
CGを見慣れている今の若い人の一部にとっては、今後復活するであろう、日本の特撮映画が新鮮な魅力をもって受け入れられればいいなあ、と思うのです。
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