特撮映画としての「海賊とよばれた男」

「本編パート」「特撮パート」はもう古い

「海賊とよばれた男」は百田尚樹原作の、半ドキュメンタリー小説。

監督の山崎貴、主演の岡田准一との組み合わせは、大ヒット映画「永遠の0」と同じ。

 

山崎監督と言えば、映像の圧倒的造形力で昭和30年代を甦らせた「ALWAYS三丁目の夕日」でその地位を確立した感がありますが、日本映画の中での「特撮映像の使い方」という面で、新しいスタイルも確立したと思います。

非常に大雑把に言えば、かつての怪獣映画、スペクタクル映画等で特撮の手法が採用される場合、撮影の段階でスタッフが「本編」と「特撮」に分かれて作られることが一般的でした。

その結果、ドラマ部分と特撮部分の映像的テイストが異なってしまうということはあったと思います。

 

私は元々、特撮映画が好きなので、いわゆる「アラ」の部分は頭のなかで補正して見てしまうので、ある程度は楽しめます。

それでもせっかくの精巧なミニチュアが「チャチ」に見えてしまうことが残念に感じることも多くあります。

 

私は、この原因のひとつが、特撮スタッフによる、「本編とは違うこだわり」にあると思っています。

例えば、精巧なミニチュアセットを作った場合、理想は、観客全員にそれがミニチュアだとバレないことです。

 

ところが、作り手の感情の中には「良くできた凄いミニチュアセットだなあ」と感心させたい、という思いも出てきてしまうのです。

その結果、ミニチュアが好きな人には絶賛されるものの、ミニチュアに興味が無い人からは「チャチ」と一蹴される結果になりがちなのではないでしょうか。

 

山崎監督作品は白組という会社が特撮全般を担当しています。

山崎監督自身、この会社のスタッフでもあるので、「本編」と「特撮シーン」の区別無く画面を構築できているように思えます。

そのため、本編も1/1スケールのミニチュアセット?の中で撮影されている感じで、独特の世界観が統一出来ているため、特撮シーン特有の「違和感」が目立たないのではないでしょうか?

「ここはミニチュアセットの見せ場だ」と気負った演出をしなくても、全編が特撮のようなものなので、観客も特撮シーンであることを意識しなくて済むのだと思います。

さて、「海賊とよばれた男」ですが、今回の特撮として特筆すべきは、主人公の「特殊メーキャップ」でしょう。

特殊メーキャップといっても、猿の惑星の猿や、ゾンビ映画のような、異形のものではありません。

実年齢が30代半ばの役者を、何の違和感も無く60代の役者として撮影するための特殊メーキャップです。

 

恐らく、これほどまでに完成度が高くて違和感の無い特殊メーキャップは、他に例が無いのではないでしょうか。

少なくとも、日本映画史上最高の出来だと思います。

 

演じている役者の演技力も相当高いと思われますが、映画鑑賞中、60代の主人公が特殊メーキャップを施して演じているとは全く感じられません。

 

これまで山崎監督作品を中心に、CGの非常に有効な採用で、主に景色やメカの描写に関しては、一定水準の作品が安定的に作れることが証明はされてきましたが、今回の「海賊とよばれた男」の成功によって、特殊メーキャップの分野でも大きな可能性があることを示したと思います。

 

景色の合成撮影で言えば、今回の作品は、海水浴場の駐車場で非常に多くの場面が撮影されたそうです。

プロデューサーは「山崎組は駐車場があれば何でも撮れる」と笑ったそうですが、これは予算の限られた映画作りにおいて、非常に示唆に富んだ事例です。

 

昔の大仕掛けの大作映画に憧れる人にとっては、面白くない、味気ない撮影かもしれませんが、「スクリーンに夢のような映像を映し出す」という目的のためには、極めて有効な手法です。

 

そして、スケールこそ違いますが、私たちのような自主映画制作者にとっても、グリーンバック合成を中心にした特撮技術の応用が、多くの制約を克服する手段として有効なのです。

MVGでは2016年、全編グリーンバック合成の方式を採用することで、短期間、低予算の映画を作る実験をして、1本のB級モンスタームービーを完成させました。

このノウハウを応用して、さらなる作品の製作を行なって行きたいと思っています。

最後までお読みいただきましてありがとうございました。

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