ゴジラシリーズを支えた特撮映画美術監督 井上泰幸展
(2017年の記事です)
地元横浜からすぐ近くの海老名で、非常にレアな展示会を開催していたので、平日に行ってみました。
日本の特撮映画の中心人物と言えば、間違いなく円谷英二なのですが、円谷氏は特技監督です。
つまり、映画の中の特撮部分の監督です。
実際に、特技監督が撮りたいものをデザイン・設計・製作するのは美術監督とそのスタッフです。
とすると、私たちが「これぞ円谷特撮」と思って観ている特撮シーンのほとんどで、そのカメラに映る「物」を作っていたのが、この井上泰幸氏ということになるのです。
初代ゴジラを初めとして、日本人の大半が、一度はこの人の造形物を目にしているはずです。
展示会は、絵コンテや図面、スケッチや写真が中心でしたが、当時に描かれた実物が大量に展示してあって、資料的価値の高いものでした。
販売されていた図録も、展示物の写真をほとんど全て網羅しているようなので、喜んで購入。
また、井上氏が亡くなる前年に完成したという、自伝書も特別価格で販売していたので購入しました。(入場無料ながらこの時点でかなりの予算オーバー)
図録の原稿や自伝書にも関わっている、美術監督の三池敏夫氏が会場にいらしたので、両方の本にサインを入れていただきました。三池氏は2016年の大ヒット映画「シン・ゴジラ」の美術監督を担当されてます。
会場では15年ぶりくらいに、自主映画関係の知り合いと再会。ひとしきり映画談義ができました。
昔の特撮映画についての資料を見るたびに思うのは、CG映画と違って「現物がそこに存在する」という魅力の大きさです。
もちろん、映像的に「CG」は無限の可能性を切り開いてくれた夢の技術です。「ジュラシック・パーク」のCG恐竜を観たときは軽いめまいを覚えるほどの衝撃でした。
しかし、「ジュラシック・パーク」1作目の恐竜は、大部分が実物大の模型(着ぐるみを含む)であって、CGの恐竜と実物模型の恐竜が役割分担をして、恐竜の存在感をリアルにしていました。
それが4作目の「ジュラシック・ワールド」になると、ほぼ全て、恐竜はCGのデータでしか存在しない状態になります。
映画館で映画を見る上では、CGだろうが模型だろうがそれほど変らないのかも知れません。
しかしそれは、紙の本と電子書籍の内容が同じだとしても、どうしても紙の本の魅力が勝ってしまう、というのに似て、新しい技術のメリットがいくらあっても、アナログ技術の持つ絶大な魅力が、逆に引き立ってしまうという事が起きます。
「ジュラシック・ワールド」の素晴らしいCG場面を見ながらも、どこか「よく出来たゲーム画面」を観ているような、冷めた感覚というのは、CG特有のもののような気がします。
「シン・ゴジラ」で言えば、ゴジラはCGで描かれていましたが、崩れる建物はミニチュアセットも多用されていた辺り、アナログの魅力が意外と大きかったのかもしれません。
恐らくですが、特撮映画の技法がCGのみになってしまうと、まず、作り手の楽しさが無くなっていくと思います。もちろん、プログラム的な楽しさはあるとは思いますが、それはごく専門的な分野の人だけが味わえる楽しさです。
ミニチュアセットの楽しさは、専門分野でない人でさえも、思わず目を近づけて笑みがこぼれるような、理屈には言い表せない楽しさです。
これは妄想の類ですが、作っている人、撮っている人が撮影現場で感じる楽しさが、「念」のように観客に伝わるのではないでしょうか?
この20年ほどの間に、映画製作においてデジタルデータの活用が飛躍的に伸びました。
現在では、ほぼ全ての映画がフィルムではなくデジタルビデオとして撮影されています。編集も、デジタルならではの特徴を活かして高レベルなものが比較的簡単に出来るようになりました。
私は、このデジタル技術と昔ながらのアナログ技術の掛け合わせこそ、映画ならではの楽しさを作り出す有効な手段だと思っています。
フルCGのアニメーション映画だけでなく、ミニチュアワークを初めとしたアナログ手法に、グリーンバック合成を中心にした合成手法、この組み合わせで、作り手も観客も楽しめる映画がまだまだ作れるのではないでしょうか。
現在は、特殊な機材を何も持っていない状態からでも、充分にレベルの高いインディーズ特撮映画が極めて低予算で作れる時代です。
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