特撮の役目とは?
特撮は「目的」ではなく「手段」
特撮はそれ自体が楽しく、注目されることも多いので勘違いされがちですが、本来はあくまでも作品を影から支えるための技術です。
縁の下の力持ち、というやつです。
決して、ミニチュアやCG技術を使って「良く出来てるでしょう?」と発表する場ではありません。
映画の撮影には、様々な制約があって、撮影の妨げになるのですが、そんな制約を解決して、製作意図に沿った映像を形にする手段の一つが「特撮」なんです。
特に、大金を使って大掛かりなセットを作ったり出来ないような、小規模の映画では、特撮を上手く使うことは非常に有効な武器になります。
そのためにも、「特撮=怪獣に踏み潰されるミニチュア」という狭い発想ではなく、使える技術の選択肢を知っておく必要があるのです。
ポイントは「画面要素の分解」
イメージ通りの背景の前に役者を配置して、演技しているところを撮影する、というのは映画撮影の基本です。
これをひたすら繰り返すことによって、必要な映像は揃い、編集によって映画の形になっていきます。
しかし、この基本のやり方が出来ないシーンというのも、頻繁に出てきます。
ロケ地が遠くて、コストが掛かりすぎる場合や、イメージ通りの撮影場所が見つからない場合、想定していた場所では撮影できないような場合です。
基本からすれば、カメラで撮影したものが、映画の中の1カットになるのですが、上記のような場合は、その撮影ができないので、考え方を変える必要があります。
それが、「特撮」「合成」を前提にした、「画面要素の分解」です。
参考になるのは、アニメーションです。
アニメーションは1枚1枚の絵を用意して、連続で見せることで絵が動いているように表現する、特撮の一種です。
しかも、1枚1枚の静止した映像も、たくさんの要素が組み合わさっています。
例えば、「アルプスの山を背景にしゃべっている少女の顔」という場面があるとします。
これは、
- アルプスの山
- のっぺらぼうの少女の顔
- 少女の目
- 少女の口
というような、別々のセル画を重ねて撮影されています。
これによって、色々な形の口の絵を入れ替えることでしゃべっているように見え、時々、目の絵を閉じたものに入れ替えることで、瞬きしているように見えるというわけです。
実写の映像でも、この考えを応用することで、演出意図に沿った映像が作り出せるわけです。
例えば、「事件現場にパトカーが何台も止まっていて、刑事がウロウロしている」という場面を作りたいとします。
テレビドラマのように、自動車をパトカーに偽装して撮影するのは大掛かり過ぎる上、ヘタをすると犯罪に問われます。
しかし、「画面を分解する」という考え方の習慣があれば、シンプルな合成手法が思いつきます。
考え方としては、
- 事件現場の人
- 手前のパトカー
を分解して考えるということです。
「事件現場の刑事」という要素は、通常の撮影を行ないます。
そして、「手前のパトカー」はプラモデルなどを別途撮影して、編集時に合成してしまうのです。
もちろん、「そんな邪道な撮影は嫌だ」という考えもあるでしょう。
しかし、実現できない贅沢な撮影状況を求めて、結局作品が完成しないより、邪道な手法を駆使してでも、イメージに近い映像を用意できたほうが、はるかに望ましいことだと気付いてください。
恐らく、このパトカーのシーンは、うまく合成すると、見ている人に合成と気付かせない映像に出来ます。
特撮の活用によって映像化に現実味が増す
このように、「特撮」は映画を派手に味付けするだけでなく、カメラの前に状況を用意することが難しい映像を、比較的容易に作ることが出来るのです。
それによって、これまでは低予算映画だから出来ない、と思われていたような、多彩な映像が作れるようになります。
撮影の制約に大きく縛られない、イマジネーション優先のシーンが、実現されやすくなるんです。
これは、「映像制作」という創作にとって、嬉しい状況です。
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