川口浩探検隊はそんなに悪だったか?

一億総クレーマー時代から見直す水曜スペシャル

昭和のヤラセが問題だったのは、事件報道の捏造のはずなのに

テレビが面白かった時代

昭和の人気番組、「川口浩探検隊シリーズ」をご存知の方は40代以降の方でしょう。

後に「藤岡弘探検隊シリーズ」として数回の復活をしましたが、70年代、80年代にリアルタイムに「川口浩探検隊シリーズ」を見た人たちは、はるかに夢中に番組を楽しんでいました。

当時のテレビは、子供たちにとって、異世界を映し出す魅惑的なメディアだったのです。

 

70年代はまさにテレビの黄金期で、現代に続く様々な番組のフォーマットが登場した時代でもあります。

子供向けヒーロー番組のフォーマットなどもこの頃に完成していて、基本的には何も変わっていません。変える必要が無いほどの完成度だからです。

ヤラセ批判=良識という風潮の台頭

ところが、85年、ニュースを扱うワイドショーで「ヤラセ問題」が持ち上がります。番組ディレクターが暴走族に依頼して、リンチ事件を起こさせ、それを撮影・放送した問題です。

直接は関係なかったにもかかわらず、同局の川口浩探検隊が「ヤラセの代名詞」ということになり、非難の対象となりました。「私たちはあくまでバラエティー番組を作ってるんです」という川口浩のコメントも無視されました。

 

探検シリーズは晩年、魅力であった東スポ的ホラ話の要素を抑えて、ドキュメンタリー色を強くしたものに変わり、プロデューサー本人とも言える川口浩の死去と共に終焉を迎えました。

そもそも、外国のジャングルに未知の怪物がいる、という設定で探検バラエティー番組を作って、何の問題があったのでしょう?

 

せいぜい、「純粋なドキュメンタリーだと思っていたら違った」というだけです。その、だまされた人が、よほど悔しい思いをしたとしても、実害は無かった筈です。

それは、戦後、テレビのヒーローとして力道山が悪役レスラーをなぎ倒すのを楽しむのと何ら変わりは無かったんです。実際のところは、外国人レスラーは悪人でもなければ、力道山が無敵の格闘家というわけでもないことはご存知の通りです。

 

ヤラセ事件以降、「自主規制」と呼ばれる「言葉狩り」や「表現の不自由」によって、テレビはより健全になりましたか?

「テレビは、真実かどうか紛らわしいことを伝えてはならない」という、「健全な」自主規制によって、川口浩探検隊シリーズは消し去られましたが、その「健全な」テレビは今、どうなってますか?

各局の報道番組や、公正第一の公共放送のドキュメンタリー番組でも、制作者の自由な意図によって、縦横無尽に捏造された内容を垂れ流しているのが現状です。

 

これに比べれば、川口浩探検隊のホラ話を楽しむことに、何の問題があったのですか?

ひねくれた見方かもしれませんが、今のマスコミを見ていると、針小棒大というより、「集めた材料を編集して、いかに事実からかけ離れた内容のニュースを作るか」を「腕の見せ所」と勘違いしているように思えます。

 

そして大衆は、創作されたもののアラを探し、浅い正義感でそれを糾弾してストレスの発散をすることに情熱を注いでいるように思えます。

私は「報道」に作り手の意見は無用で、公開する必要がある事実を機械的に流せばいいだけだと思っていますし、「報道以外」に関しては、最低限の道徳心を持った作り手が「この番組はフィクションです」という前提で流せば、問題は無いと思っています。

「それを見て不愉快な思いをする人がいるかどうか」ということを基準にするなら、何も放送はできません。「ハートウォーミングなハッピーエンドの話」に嫌悪感を感じる人だっている筈なんです。

TVの役割は終わった。これからは新しいメディアで楽しむ時代

昨今はテレビ離れがどんどん進んでいます。

テレビが主な情報源、というのは年配の人だけになりつつあります。

これは、一億総クレーマー時代の現在、テレビはこれからもどんどんつまらなくなりますから、仕方のないことです。

 

昭和の「面白かったテレビ」は「テレビ」というメディアではもう復活しないでしょう。

しかし、地上波のテレビ以外にも、映像メディアは次々と生まれています。

それらの特徴は、「見たい人だけが見られる」というものです。

「見たくないのに見せられた」というクレームを受ける心配がないんです。

 

「クレーム自体が目的」の視聴者に対応しなくていいメディアでは、エネルギーを「面白さの追求」に注げますから、必ず面白い番組が生まれるでしょう。

もちろん、著しく不道徳だったりすれば問題でしょうが、モラルを守って面白い番組を作ることは可能です。

新しいメディアでの番組放送では、ビジネスの形態が様変わりします。

 

今の地上波のビジネススタイルは、「製作費を出すスポンサーの広告を放送する合間に番組を流す」という複雑なものです。

視聴者の満足より先に、スポンサーの満足を優先した内容にしなければいけない、という制約があります。

一方、視聴者の契約金が資金源となるメディアでは、視聴者の満足を最優先に考えればいいので、当然、内容は面白くなりますし、面白くないものはそもそも作ることができません。

ビジネスとしてシンプルになるので、製作費の自由度も広がると思われます。

「面白さ」が担保されれば、製作費が低予算の番組でも充分、評価されるチャンスがある、ということです。

見たい番組を自分で作れる時代

多様化するメディアは、既存のネットTVなどだけではありません。個人で運営するチャンネルが独自の収益を上げるようにもなるかもしれません。

一定の審査を通過した映像コンテンツを、配信用のデータベースに組み込む、というサービスは、amazonビデオなどでも始まっています。

 

MVGでもいくつかの作品を配信していますが、アメリカ、イギリス、ドイツそれぞれのレンタルビデオショップに作品を並べているような感覚です。amazonビデオの場合、各国の再生時間から換算したロイヤリティーが、作品提供者に支払われる仕組みになっています。

昭和の時代、テレビで楽しむような番組・作品は、テレビ局や制作会社の設備を使わなければ作れませんでした。

 

しかし、機材が発達した現在、充分に鑑賞に堪えうる作品が、個人や団体が作れてしまう時代です。

テレビの衰退によって面白い番組が無くなった一方で、私たちが自由に面白いと思えるものを作れる時代になったんです。

私は、かつて夢中で楽しんだ「川口浩探検隊」を自分なりに復活させています。

探検隊の名前は、「水曜スペシャル」をもじって、「チームウェンズデイ」としています。

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