合成映像を使って撮影を効率化する:古典的な撮影計画ではコストが掛かり過ぎる現実にどう対処するか
昔ながらの映画制作は膨大な人件費がかかる
映画を作る際、お手本にするのは、普通は「プロの映画作り」になると思います。
しかし、プロの映画作りというのは、商品としての一定のクオリティを確保するためだったり、「映画たるもの、これくらいのことはするものだ」という「しきたり」のような監修もあって、非常にコストがかかります。
多くのスタッフも必要とします。
製作工程も複雑で、ちょっと普通に考えたら想像がつかないような「制作費」がかかる。
私は、趣味の映画作りの中で提案している手法があります。
「映像」というのは必ずしも、現場で本当の姿を撮影して形にするだけではありません。
嘘の映像を組み合わせて、「欲しい場面」を作るのも「映像づくり」の手法のひとつです。
それをフルに活用して、「映像の合成技術を応用して、自由に自分のイマジネーションを優先した映像を作りませんか?」という提案です。
これはイメージが自分の理想に近くなる、というメリットもありますし、その映像を手に入れるための、「実際にコスト」が何分の一かに減ります。
コストというのは、ほとんどが人件費ですから、最もコストのかかる「撮影期間」を1/10に短縮させることによって、全体のコストを激減させることを狙ったやり方です。
具体的に言うと、私は「人物の撮影は、なるべくグリーンバック合成と言われる手法を使いましょう」ということを提案しています。
私がグリーンバック合成を多用する理由
ご存知の方も多いと思うんですけれども、緑色の布の前で、人物の撮影をすると、合成編集によって、用意した「別の背景」と差し替えることができる、というトリック撮影の技術のひとつです。
細かな原理は置いておいて、ともかく、緑色の布の前でうまく撮影すると、人物が合成できるという特徴があるわけです。
これを丁寧に応用すると、大幅な撮影時間短縮が出来ることになります。
私は2018年の暮れ、地元の映像コンテストに、「二日間で撮影した作品」で応募しました。
対象がショートムービーだったので、そもそも作品の時間も短いんですが、二日間の撮影のうち、1日目は、ビデオカメラを片手に一人でロケ地を回って背景用の「景色」を撮ってきました。
二日目は、そこに合成する「人物」のグリーンバック合成を、室内で行いました。
コンテストの結果は、残念ながらグランプリは取れずに、「準グランプリ受賞」にとどまりましたが、少なくとも、非常識なほどの短時間で、作品を形にすることは証明できたと思います。
「ごく普通のシーンのために、なぜわざわざグリーンバック撮影をするの?」という質問をよく受けます。
審査員だった、プロの映画監督からも聞かれました。
理由は簡単で、「とにかく撮影期間を短くしたいから」です。
確かに、「公園のシーン」は、公園に行って撮影をすれば、合成しなくても済みます。
ところが、そういう調子で
- 線路の横の道を歩いているシーン
- バス 横のシーン
- 建物の中にいるシーン
- 喫茶店の中で電話をしているシーン
そういったシーンのために、実際に現地に行って、少しずつ撮影をしようとすると、短時間で終わらせることは不可能です。今回の作品でも数日は掛かったでしょう。
撮影を予定していた日に、雨が降るかもしれない。
そうすると、いくつかのシーンは撮影ができないわけですから、延期になってしまいます。
映画制作というのは、「雨で中止になったからコストもかからないか」と言うと、そんなことはなくて、その日はあらかじめ、スタッフ・出演者のスケジュールを押さえているわけです。
「その時間を空けてくれている」というところで、もうコストが発生してるわけです。
ですから、天候によって中止になるというのは、非常に高くつく「ロス」です。
それから移動時間。
それぞれの撮影場所がすぐ近くで、機材を持ったまま歩いてすぐに移動できるような場所であればともかく、
- その場所まで車で行って
- 機材を準備して
- 撮影をして
- 終わって撤収して
- また車で移動して
- また準備をして
- 撮影
- 撤収
こういう繰り返しをするということ自体、非常にロスが大きいんですね。
実際にやってみると分かりますが、思いのほか撮影には時間が掛かります。
わずか数分の映画を作るだけでも、人物の撮影は1日では終わらないんです。
今回の作品については、天気が良ければ、2日あればできるかもしれません。
ところが私は、少なくとも人物の撮影については、3時間ほどで終了しているんです。
グリーンバック撮影のセッティング・撤収もを含めても、3時間でメインの登場人物の撮影は全て終わらせている。
これは、合成技術を使わなければ不可能な話なんです。
逆に言うと、この合成技術を応用すれば、相当、出演者の拘束時間を減らせます。
移動時間は、ほぼゼロです。
そのグリーンバックの撮影現場に行く移動時間だけ。
シーンによって移動する必要がないので、どんなシーンも、そのグリーンバックの前で撮影してしまえます。
グリーンバック撮影の弱点と新たな解決案
このやり方にも弱点があります。
商業映画の場合は、体育館のような広い場所に10 M ぐらいのグリーンバックを張って、その前をのびのびと歩く撮影ができます。
ところが、我々が自主制作でインディーズ映画を撮影する場合は、なかなかそういう広い場所を使うことができないんです。
会議室のような部屋だったり、ちょっとした倉庫の一角などで撮影すると、横幅は5 m 取れればかなり恵まれてるという状況です。
歩くシーンは、3歩、4歩ぐらいの映像が撮れればいい方だろうと思います。
つまり、「長く歩いているシーンを撮りにくい」のが、このグリーンバック撮影の弱点です。
これを解決するために、ちょっと調べました。
私は映像編集に、Adobe社の「Premiere Pro」を使っています。
基本的には、グリーンバック撮影をした映像を、「クロマキー」というエフェクトの機能を使って、背景映像と合成するわけです。
それとは別に、アドビ社の Premiere Pro あるいは After Effects には、「異なるマット」という機能があるんです。
これはどういう機能かと言うと、「クロマキー」がその画面の中のグリーンの部分を透明にするというのに対して、「異なるマット」では、三脚に固定したカメラの前を歩いていくというような映像を撮ると、「人の部分」だけを切り抜いて、別の背景に入れ替えることができます。
この利点は二つあります。
一つは、太陽光の下で撮影ができるということです。
やっぱり野外のシーンを自然に見せるためには、太陽の光が一番なんです。
もう一つは、グリーンバックを使わないので、いくらでも長い距離を歩けることです。
グリーンバックではできなかった、「長い距離を歩く」という合成映像を作ることができるメリットがあります。
映像というのは、アップがあったり、全体映像があったり、いろんな組み合わせで作っていきます。
グリーンバック合成を中心にした映像は、どうしても、引きの映像の中で長く歩く映像が作りにくいので、アップが多くなる、という弱点があります。
この「異なるマット」という機能をうまく使って、映像のバリエーションを増やすアイデアを、これからは採用して行こうかなと思っています。
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