鶴屋南北流 逆手の取り方

ヒントは江戸時代の舞台劇に

皆さんは鶴屋南北という人をご存知でしょうか?

江戸時代の劇作家です。

この人の活動が、現代の我々の創作活動の参考になると思っています。

 

江戸時代に人気のエンターテイメントに、「お芝居」がありました。

豪華絢爛な衣装を着た有名俳優が、芝居小屋で披露する演劇です。

 

市川團十郎のような俳優は、「千両役者」と言われるような高額なギャラを取る人気俳優です。

そんな俳優が出演する舞台は観客もたくさん入って、芝居小屋も儲かるという文化ができました。

夏の暑さに弱い芝居小屋

ところが、この芝居小屋には大きな課題がありました。

それは、夏の時期、客足が著しく減るというこです。

 

冬は劇場が寒かったとしても、お客さんが入る前に火鉢を置いたりして、暖を取ることができました。

ところが、夏の暑い時期は涼しくできません。

 

今と違って、電気のエアコンがありませんから、暑い小屋の中を涼しくするのは難しいわけです。

 

芝居小屋というのは、基本的には閉め切った空間です。

夏の間は、どんどん温度が上がってしまうという弱点があります。

 

当時の芝居の見どころは、「豪華絢爛な衣装」。

つまり相当な厚着の、重たい衣装です。

夏に、そんな衣装を着てしまうと、暑くてやってられないわけです。

 

高額なギャラを取っている役者たちは、そんな思いをしたくないので、夏は出演をしません。

観客も暑くて小屋にいられないということで、真夏は芝居が成り立たない状況だったそうです。

逆転の発想で夏の芝居を作る鶴屋南北

そこに目を付けたのが、鶴屋南北という作家です。

この人が作るの芝居は、元々、とても人気があったようです。

 

幕が上がると、舞台いっぱいに巨大なクジラが横たわっているところから始まって、観客の度肝を抜くような、伝説的な舞台がたくさんあったようです。

発想が柔らかいんでしょう。

 

この人は、閑古鳥が鳴いている「夏の芝居小屋」をうまく使えないか、と考えたんです。

  • 需要が少ないので、小屋の使用料金は安い
  • しかし、有名な俳優は出てくれない
  • 集客が見込めない

普通に考えれば、マイナスだらけの条件です。

 

しかし、南北は、無名の俳優の「スター性の無さ」を利用することを考えました。

 

無名の俳優たちに豪華な衣装を着せるわけにはいきません。

お金がかかりますし、そもそも、修行途中の俳優が、豪華な衣装を着ても、様にならない。

そこで、衣装はあえて、庶民が着ている普段着や浴衣姿のままにしました。

それによって、観客は、「スターを観に行く楽しみ」ではなく、「自分たちの分身の活躍を観る楽しみ」を知ることになります。

 

鶴屋南北の秀逸だったのは、ここで題材に、怪談を選んだことです。

東海道四谷怪談。

 

怪談は怖い話ですから、大抵、寒気を感じます。暑さを忘れられるものです。

そして、怪談は薄暗い場面で展開されることが多いので、安上がりな舞台に出来る。

 

江戸時代の舞台設備というのは、非常に発展していました。

今でも採用されているような特殊な装置の多くは、この頃に開発されたものだそうです。

 

映像で言うと、特撮のような仕掛けもあります。

舞台の一部から、まるで本当に幽霊が浮き出してくるように人が登場するとか、戸板がくるっとひっくり返ると、裏に死体がくっついてるというような、ショッキングな演出もこの頃に生まれました。

 

これが非常に当たったんですね。

観客は、自分たちと同じような格好で演じている役者に、親近感を持って舞台を見ています。

その役者の芝居を見て、自分が物語の主人公の立場で、恐怖体験を楽しんだんです。

怪談が夏の風物詩に

夏は暑いから芝居小屋から足が遠のいていた。

ところが、涼しくなれる怪談ができたことによって、「夏は芝居小屋に怪談を見に行く」という文化ができたわけです。

 

本来、怪談は季節に関係なくあります。

真冬の怪談話もあります。

 

ところが、鶴屋南北の芝居から「夏に楽しむものが怪談」という文化が完成しました。

現代でも夏になると怪談特集があったりするなど、影響力が残っています。

マイナス状況をアイデアでプラスに変える工夫を

このように、不利な条件だったはずのものを、全て逆手にとって、効果的に活用しているところが、鶴屋南北のすごいところです。

 

「それは、江戸時代だから通用したんだよ」と言う人もいますが、私はそうは思いません。

 

私達が低予算映画を作ろうとした時も、「なかなか自分の理想としている条件が揃わない」事が当たり前です。

 

しかし、この鶴屋南北的な「逆転の発想」を持つ訓練をして、「マイナスの状況を利用して、新しい価値を作ろう」という意欲があれば、私たちにも、状況を改善させる可能性があると確信しています。

参考になれば幸いです。

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