撮影時はセリフをかぶらせない
映画の中には、いろいろな要素があります。
今回は、役者のセリフに絡む部分について、ちょっとした工夫・ヒントになることをお伝えできればと思います。
セリフをかぶせると演技が上手く見える
役者が二人以上出てきて初めて、セリフのやり取りが発生します。
この時に、「慣れた役者がやりがちな演技」があります。
それは、相手のセリフにかぶせて、自分のセリフを言うということです。
これは、場合によっては有効です。
テンポが良くなったり、「相手の言葉を殺して自分のセリフを言う」という、そのキャラクターの意思表示にもなります。
舞台のお芝居でも、よく見かけます。
そういうセリフ回しをすると、実際、演技が少し上手く見えるんです。
決まったリズムが崩れるので、リアルな感じがします。
そのため、セリフを被らせたがる役者さんも多くいます。
しかし、私は、撮影現場ではお勧めしません。
役者の満足を優先させるべきか、という問題
映画には色々なタイプがあります。
役者の「芝居」に頼った、「演劇系の映画」であれば、こういう「演劇風の台詞回し」をそのまま生かすということも有効でしょう。
基本的には、演劇系の映画では、細かな映像編集は抑えて、一連の演技を長回しで撮影します。
演劇の役者にとっては、これが一番心地よい演技です。
ただ、観客にとって心地いいかと言うと、そうとも限りません。
観客視点で映像が適切に切り替わり、「観たいものを観たいタイミングで観せられる」ことの方が重要だったりします。
また、映画は人物の演技だけで構成するものではありません。
編集を進める段階で、全体のバランス調整が必ず必要になります。
セリフをかぶせる演技をさせない理由
セリフをかぶらせている演技の場合、一切の調整は出来ません。
編集段階で、全体のバランスを見たときに、その「セリフのかぶらせ方」が最善の形ではないこともあるわけです。
具体的に言うと、「セリフをかぶせた演技が、躍動感がありすぎてやかましい」という場合などです。
映画というのは、映像編集で様々に加工できるのが大きな特徴です。
この特徴を活かすため、「編集で色々と変更できる余地」を残すことが、とても重要です。
「セリフの間(ま)」も、編集によって長くしたり短くしたり、ある程度は調整する余地を残したいわけです。
Aという人がセリフを言った後、Bという人が次のセリフを言っているのであれば、調整が出来ます。
いくつかの映像が切り替わる構成になっているのが条件ですが、「セリフの間が少し間延びしてるな」というような感じで撮られた映像でも、編集によって、ちょうど心地のいいタイミングでセリフが進むように調整できます。
編集している段階で、「これはいかにも順番にセリフを言っているように聞こえる」という場合、やり取りをリアルに見せるために、あえて、編集で少しセリフをかぶらせることも簡単にできます。
しかも、「セリフをかぶらせる度合い」も何パターンも作って、効果を比べることも容易です。
もちろん、本職の役者は、「編集によってセリフのリズムを変えられる」ということは面白くないでしょう。
- そんなのは演劇ではない
- 芝居ではない
と言うかもしれません。
ただ、映画は、演技だけのものではないんです。
限られた条件の中で、必要な映像を撮影して、適切な形に完成させなければいけません。
演技は映画の要素の一つです。
特に、低予算映画では、出演者の演技力に頼らずに、いかに見やすく面白い映画に仕上げるかがポイントになります。
そのために、編集によって、全体のバランスを整えていく必要があります。
素人役者のたどたどしい演技でも、細かな編集でよって、演技が達者な役者に見せ、面白い映画に思わせることも、DIY映画作りの醍醐味です。
そのためにも、本来の演技からすれば邪道ではありますが、「編集で修正する余地がある演技をしてもらう」というのも、工夫のひとつだと思います。
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