合成映像は「前後関係」が最重要
映像を合成する目的は、「実際には撮影できない映像」を作ること
撮影できない理由は、
- 物理的に出来ない
- コストが合わない
という2つがあります。
そこで、撮影した映像に、別の要素を合成して、目的の映像を作ることが一般的です。
この時に、「映像合成の知識を持った上で、完成映像を想像できるかどうか」で合成映像を簡単に作れるか、無駄に苦労するかの差が出ます。
実例:パトカーと刑事
例えば、シナリオに、「道端のパトカーと、その傍らにいる刑事」という場面があったとします。
映像合成(特撮)を使わずに、映画やテレビドラマのように馬鹿正直に撮影するとすれば、撮影用の疑似パトカーをレンタルして来る必要があります。
そうやって、画面に映るものを、カメラの前に全て用意するのであれば、設定に応じた配置をして、自由に撮影すれば済みます。
これが「王道」のやりかたです。
しかし、私は当然、そんな事に大金を使う撮影はしません。
邪道映画術を駆使します。
作品として、ほぼ同じ効果を出すために、精巧に作った、パトカーのプラモデルを使うでしょう。
撮影現場では、「パトカーがそこにある」という設定で、人物だけ撮影して、編集時にパトカーを合成する手法を採用します。
これで、コストが軽く1/100くらいに抑えられます。
しかし、同じ合成映像を使う発想があったとしても、映像合成の知識がない人は、「人物とパトカーの位置関係」に重大な制約があることに気付きません。
カメラから見て、パトカーと立っている人物の位置関係には3種類あります。
- 人物とパトカーが重なっていない状態
- 人物の手前にパトカーがある
- パトカーの手前に人物が立っている
この3種類のうち、「人物の撮影をした映像に、パトカーのミニチュアを合成する」ことでは成り立たないパターンがあります。
どれだか分かりますか?
答えは、最後の「パトカーの手前に人物が立っている」パターンです。
撮影した被写体の「向こう側」に、後から映像を合成することはとても困難です。
基本的に、映像合成は、追加する要素を「手前」に重ねて作ります。
写真の上から、シールを貼るような感覚です。
- 人物とパトカーが重なっていない状態
- 人物の手前にパトカーがある
というパターンであれば、パトカーのデジタル写真を丁寧に切り抜いた画像を、撮影した人物映像に重ねるだけで、かなり自然な合成映像が作れます。
この合成に、パトカーのミニチュアを利用すると、人物映像の光な角度に合わせる形でミニチュア撮影が出来るので、より、自然な合成になります。
それに対して、
- パトカーの手前に人物が立っている
という映像を想像してしまったら、実現するのがとても困難になります。
この映像を実現するためには、
- 人物がいない、背景の景色
- パトカーのミニチュア
- 人物
という順番で、「3つの映像要素」を合成しなければいけません。
しかも、人物は動くので、パトカーのように写真を切り抜けません。
動いているものを輪郭に沿って切り抜くためには、グリーンバック撮影が必要になってしまいます。
グリーンバック撮影は、文字通り、グリーンの布などを背景に、被写体を撮影します。
カメラから見て、グリーンに写っている部分を透明にする事ができるので、人物の背景を合成したい時に使います。
このグリーンバック撮影を行えば、「パトカーの手前に人物が立っている」という映像は作ればしますが、「パトカーの写真を手前に貼り付ける」という方法に比べて、格段に手間が増えることが分かるでしょうか?
趣味を楽しむためにも大事なコスト意識
映画製作は、基本的に手間がかかる作業ばかりです。
その手間も楽しめる人だけが、映画作りを趣味に出来るのですが、自分のこだわる部分にエネルギーを集中させるためにも、「効率」の意識が重要です。
そこに特別な意味がない限り、「手前に合成して作る映像」で、画面を設計するべきなんです。
実際に、
- 合成映像を使うことで、飛躍的に楽に求める映像が出来た
- 合成の前後関係を深く考えなかったために、合成作業に苦労した
という経験がないと、絵コンテを描く段階で設計を間違えてしまうでしょう。
何事も経験ではありますが、DIY映画倶楽部では、絵コンテの段階で添削して、合成の設計ミスを防ぐお手伝いをしています。
参考になれば幸いです。
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