工業製品的映画作りのススメ
作品を作るときに、「作家性」を非常に大事にする人たちがいます。
作家性というのは、その人ならではの特徴、特質、何か滲み出る「味」のようなものです。
これは確かに大事ではあります。
ただ、本来であれば、
- これが私の売りです
- 私の持ち味はこれです
ということは、ことさらアピールする必要はありません。
アピールしなくても、また、本人が自覚しなくても、「自然に出てしまうもの」が「作家性」なんです。
良くも悪くも、作品に現れるのが作家性ですから、私は、作家性などというものをあえて無視して、まずは工業製品のように映画を作ってみることをお勧めします。
例えば撮り方。
構図やカメラワーク、映像の組み合わせについては、一定の基本ルールを決めて、そのルールに従って効率よく撮影するということです。
演技も同様。
役者が気持ちを作り込んで、その役になりきって熱演をするというのではなくて、台詞回しにしろ、表情や仕草にしろ、あえて演技を「記号」のような扱いにしてみます。
感情を示すための表現を、「記号」として設定して、演技力がなくても意味が通じるように設計して「動作」を撮影するやり方です。
「1カットずつ、できるだけ独創性を持って、映像に工夫を凝らすことが一番大事だ」と思っている撮影者は、「ルールに沿って撮影する」と言うと、抵抗があるでしょう。
あるいは、「演技」というものにこだわっている演技者は、「記号」の扱いにしましょう、と言えばもちろん反対する筈です。
- そんなものは演技じゃない
- そんなパターンで撮られた映画は醜悪だ
というような酷評が容易に想像できます。
しかし、
- 撮影にこだわる撮影者
- 演技にこだわる役者
が忘れがちな、重大な問題があります。
それは、演出も演技も、作品の「プラスアルファ」の要素であるということです。
プラスアルファは、作り手にとっては魅力的です。
家でたとえれば、壁紙選びやカーテン選び、芳香剤選びのようなものです。
自由度が大きく、それらしい答えがいくらでも出せます。
でも、そのプラスアルファを楽しめるのは、土台がしっかりしていて、柱がまっすぐの家を建てられていることが前提です。
土台が傾いているのに、センスの良いカーテンを選ぶのは滑稽です。
優先順位が間違っています。
はっきり言うと、優先すべき基礎工事が出来ないのに、壁紙へのこだわりが強すぎるような製作者が多いのです。
プロでも、バランスの悪いこだわり方をして、予算管理に失敗してしまい、中途半端な作品に仕上げてしまう場合があるようです。
工業製品のように映画を作ってみると、土台と柱の大切さが分かります。
演出や演技のような「プラスアルファの要素」を一旦排除してみると、その映画の基本的な構造が見えてきます。
プラスアルファが無くても見ていられる、「面白い物語」という要素が必要なことがはっきり分かります。
映画において、「役者の魅力」は大きくて、
- ストーリーもメタメタ
- シナリオも甘い
- 演出も不自然
だとしても、役者の演技によって魅力を感じさせてしまう場合があります。
そうすると、あたかも、その映画がうまくできているかのような錯覚をしてしまいます。
観客に、面白い映画と錯覚してもらうことは、悪いことではありませんが、作り手が、「自分の技術が未熟な事に気づけない」ことは大問題です。
- シナリオが大事だと言われるが、自分は適当に書いた
- でも、なんとなく作品は「サマ」になった
という風に、実力を勘違いしてしまいがちです。
通ぶった人というのは、
- 演技過多
- 演出過多
の作品を好んで評価する傾向があるので、なおさら勘違いを増長させます。
しかし、本質的に面白くない作品は、「通ぶったマニア」以外には全く受けません。
私は、せっかくエネルギーを使って映画を作るのであれば、「通ぶったマニア」ではなく「一般の人」が見ても面白い作品を作るべきと思います。
本来、面白い話であれば、役者がセリフを最低限、自然に話しているだけで見ていられるはずなんです。
そこに舞台演劇的な特殊技能としての演技は必要ありません。むしろ邪魔です。
「工業製品のように映画を作る」というのは作家としては不本位に思えるかもしれません。
しかし、私の経験上言えることは、どうせ、思い入れがある部分にはエネルギーを注ぐことになります。
「効率優先で淡々と撮影を進めよう」と心掛けるくらいでちょうど良いんです。
特に、経験が浅く、最後まで完成させる体力に乏しい段階において、プラスアルファーを盛り込んで高望みすると、作品が未完成に終わる可能性が跳ね上がります。
最優先は、作品を完成させることです。
プラスアルファの要素は、時間を食います。
実際に経験をしないと実感がわかないかもしれませんが、特に演出に凝った場面にしようとすると、それだけで撮影期間が倍にも3倍にも膨れ上がります。
そして、悲しいことに、技量が未熟なうちは、演出に凝れば凝るほど、その場面が不自然になって、こだわりが裏目に出ます。
何本も作品を完成させて、様々な作業に余裕が出てきたら、その余裕の分だけ、「プラスアルファにこだわる資格が出来た」と考えるべきではないでしょうか。
特にインディーズ映画においては、出演者の技量だけでなく、演出をはじめ、様々なスタッフの技術も未熟なことが多いので、プラスアルファの要素を追求する前に、「物語の質」を高めることが大事です。
工業製品のように作ると、無味乾燥の映画になると思ったら大間違いです。
プラスアルファに頼らない分、面白い映画にしようと思えば、必然的に「面白い物語」を構造から考える必要が出てきます。
工業製品的に手堅く作品を完成させられる技量を身につけることが、結果的に、レベルの高いエンターテイメント作品を作れるようになる近道ではないかと思います。
参考になれば幸いです。
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