映像が繋がらない時の特撮的処置
「映像が繋がらない」とはどういうことか?
映画とは、基本的に「バラバラに撮影した映像を組み合わせて、繋がっているように見せる」ことで成り立っています。
実際に1分間で演じた映像を、1分間の出来事として見せることもあれば、数時間掛けて撮影した映像を、編集で繋ぎ合わせて1分間の出来事として見せることもあります。
多くのシーンは、長時間かけてバラバラに撮影した映像を、短い一連の出来事として表現するのが一般的です。
ここで大事なのは、「完成した映像が繋がっているかどうか」です。
映像が繋がっているか、逆に言うと、「繋がらない映像になっていないか?」という注意が必要です。
ごく基本的なことですが、例えば服装。
同じシーンの中では、服装の状態は一定でなければいけません。
Aという登場人物が、撮影の途中で暑くなって、袖をまくったりしたらどうなるか。
- Aの姿(長袖)
- Bの顔
- Aの姿(袖まくり状態)
という一連の映像になってしまって、魔法のように服の状態が一瞬で変わってしまうんです。
「このやり取りは一連の出来事です」とみんなで一生懸命についた嘘が台無しです。
そのシーンはリアルなものとして成り立ちません。
映像が繋がらない理由としては、
- 服装等が変わってしまっている
- 人物のポーズが変わってしまっている
- 構図の繋がりが不自然
- 光の状態が変わってしまっている
などがあります。
構図と光については、今回は触れません。
今回は、「人物のポーズ」について考えてみます。
具体的に言うと、服装と同じで、「本来同じであるべきポーズが変わってしまうと繋がって見えない」という事。
例えば、2人の人物が会話をしているシーン。
セリフの声は一続きに流れていて、映像が何度か切り替わるとします。
一般的なスタイルのシーンです。
その時、
- 人物Aのアップ(下を向いている)
- 2ショット(Aが天を仰いでいる)
という映像を繋げようとすると、繋がりません。
2つの映像が、時間を置いて別々に撮影されたことが、バレバレです。
こういう撮影時のミスが重なると、見ている方は、作品に没頭することがバカバカしくなってきて、「見ていられない」という状態になります。
繋がらない映像を撮影してしまう原因と解決策
こういう「繋がり」が重要なので、昔から映画の撮影現場には「スクリプター」と呼ばれる記録係のプロがいます。
- 別々に撮影する前後の映像が不自然になるような、服装の違いはないか
- 小道具の配置は同じか
というようなことを事細かくメモするのが仕事です。
しかし、私達が作る自主映画・DIY映画にプロのスクリプターはいません。
スタッフの一人をスクリプターにしてチェックさせようとしても、ほとんど役には立たないでしょう。
カメラに映る対象を、全方位的にチェックすることは、素人には全く不可能だからです。
繋がらない映像になる最も大きな原因は、役者が無意識に動くことです。
無意識な動きは自然な動きですから、演技としては悪くないかもしれません。
でも、カット割りをしながら撮影するシーンでは、ミスに繋がる危険が大きくなります。
「順撮り」と呼ばれる手法で、編集と同じ順番で撮影するのであれば、
「はい。カット。そのまま止まってて」と役者に指示を出して、カメラ位置を変えながら続きを撮影することで、ミスを最小限に抑えられます。
しかし、もっと撮影効率を良くしようとすると、どうしても編集の順番でなく、撮影が早く進む順番で撮影する必要も出てきます。
1時間位前に撮った映像の続きを、別角度から撮影する、という事がザラに起きるわけです。
その時、「自分は腕を組んでたっけ?」ということを覚えていないと再現できません。
ビデオなので、前の映像を確認することも可能ではありますが、無意識の動作だとすると、そもそも「確認しないと」という認識すら起きないはずです。
「ポーズが全然違っていて繋がらない」という事を防ぐには、無意識の動作をしないことです。
腕を組むなら、演技として意識して腕を組む。
無意識で偶然できた動きを採用するとしても、演技として再現することを意識することです。
出来るだけ順撮りを多くしたり、そもそも、撮影をスピーディに進めて、役者の待ち時間を短くすることも、もちろん有効です。
編集段階でカバーできること
そうやって注意をして撮影しても、どうしてもミスは発生します。
「これは繋がらない」という失敗にはっきり気付くのは、編集段階です。
ミスは、「あってはいけない」というより、一定限度以上のミスは、興ざめに繋がるよ、ということです。
表示時間が短かすぎて誰も気づかないミスなら、無視していいでしょう。
場合によっては、かなり大きなミスなのに、観客には気づかれないこともあります。
下記は、私が以前に作った「チームウェンズデイ探検シリーズ2・インド奥地に巨人伝説を追え!」という作品の中で、大きな撮影上のミスを含んだ場面ですが、意外と気付かれない事が多いようです。あなたは気付くでしょうか?
「このミスは明らかに興ざめに繋がるなあ」という映像のうち、いくつかのタイプは、特撮技術を応用して修正できる場合があります。
前述の作品の別のシーンです。
(このシリーズは、出演者2人、他にスタッフ無しという状況で作っているので、ミスは多目なのです)
人物の一人が腕を組んでいますが、時間を掛けて撮影しているうちに、無意識にポーズを変えてしまっていました。
撮影した後ろ姿では、腕を組んでいないことがわかって、繋がりが不自然です。
編集時、特撮を使って出来る限り修正しています。
画面の右側に写っている私の映像はそのままで、左側の後ろ姿の人物映像だけ、正しい体勢の瞬間のものに差し替えました。
スタッフがいないので、2人が同時に映る映像は、無人のカメラで録画したまま、長々と同じ構図の映像を撮影します。
途中、簡単な打ち合わせも、カメラを止めずに行います。
そのため、後ろ姿として偶然、使える姿勢の瞬間がありました。
修正過程の解説動画をご覧ください。
もし、都合よく、望むポーズの映像が映っていない場合は、静止画として書き出した画像に手を加え、絵画の要領で違うポーズに描き変えた画像を、再合成する方法もあるでしょう。
撮影時にミスをしないことが一番ですし、「撮影後の映像に手を加えて辻褄合わせをすることは、本来の映画作りとしては邪道だ」という考えもあるかもしれません。
しかし、少なくとも私は、立派な昔ながらの映画人になりたいわけではなく、自分の望む映像を手に入れて、出来るだけ自分が納得できる作品を作りたいだけです。
これらの手法を否定する人に、ことさら有効性を主張しようとは思いません。
「それ、使えるなあ」という方だけ、参考にしていただければ幸いです。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。
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