映像流用を有効活用する方法

コロナ感染予防を第一に考えると、様々な活動が、これまで通りのやり方では出来なくなります。

映画やドラマの撮影も例外ではなく、撮影延期や規模縮小など、様々な対策を取って対処しようとしています。

 

そんな中、ネットニュースで、『撮影を一切せず、テレビ東京に残る資料映像と過去映像だけで作る前代未聞の異色ドラマ「撮影の、一切ないドラマ~蛭子さん殺人事件~」』という記事を見掛けました。

過去に撮影したバラエティー番組、ドキュメンタリー番組の映像を流用して、オリジナルのストーリー作品に仕上げたシリーズの第一弾だそうです。

 

このドラマ自体が面白いものかどうかとは別に、私はこの記事を見て、全く新しいタイプの映画製作の方法を試したくなりました。

これは、元々、思考実験として検討していたのですが、簡単に言うと、

  • シリーズ物の作品において
  • 毎回使う流用映像の比率を高めて
  • 極限まで制作効率を上げてみよう

というものです。

 

「流用映像」というのは、わかりやすい例で言うと、TVのロボットアニメに出てくる、発進シーンやメカの合体シーンです。

結構な長さの映像が、毎回、流用されて使われています。

主人公の変身シーンなども同様です。

 

これは、

  • 制作サイドのコスト削減
  • 映像の時間稼ぎ

から始まった手法のはずです。

 

膨大な数の絵を用意しなければならないアニメーション制作において、10秒でも20秒でも、過去に使った映像をそのまま流用できれば、その分、1話あたりの制作コストが抑えられます。

新規で描く絵の数が少なく出来るからです。

その分のエネルギーは、新規の他のシーンのために注げることになります。

 

興味深いのは、「あからさまな映像の使い回し」にも関わらず、見ている観客は、それに飽きるどころか、「毎回その場面を楽しみに見ている」という事実です。

子どもたちは、先週も全く同じ映像を見ていて、それを覚えているにも関わらず、ロボットの合体シーンを食い入るように見ています。

 

考えてみると、時代劇のシリーズも同様です。

映像の使い回しではありませんが、毎回、同じ展開で一件落着する作品は、セリフ以外、全く同じ映像でも使える場面が数多くあるとは思いませんか?

遠山の金さんのクライマックス、おなじみのお白砂の場面などは、裁きを受ける下手人の映像さえ入れ替えれば、毎回同じ映像でも、違和感なく見ていられそうに思えます。

 

私は、学生時代から趣味の映画作りを続けてきて、映画作りが最高に面白い遊びであると実感すると同時に、あまりに撮影に時間がかかることが、大きな課題と痛感しています。

余暇を使って映画を作る場合、プロのように「連続した長時間」を撮影に費やすやり方は、真似出来ないんです。

 

何年も費やして1本の作品を作ることに価値を感じる人もいるでしょう。

しかし、数日間の出来事を描いた作品に、1年間の時間を費やすと、明らかに映像は不自然になります。

それに、少なくとも私の場合は、その撮影ペースでは、「自分の創作意欲のペース」に追いつきません。

作りたい作品は次々と浮かんできます。

実際に形にできるのは、そのうちのほんの一部ですが、それでも一生のうちに1本でも多くの作品を完成させたいのです。

 

そこで、ようやく確立したのが、他の記事などでも紹介している升田式スーパープリヴィズ方式で作るグリーンバック映画です。

(udemyで「グリーンバック映画入門」を公開中)

このやり方を採用すれば、ロケ現場に出演者が行かないので人物映像を一箇所でまとめて撮影出来る上、背景映像をストックすることで、次回作以降の制作コストを大幅に下げられます。

 

そして、さらに一歩進んだアイデアが出てきます。

背景映像だけでなく、「グリーンバック撮影した人物映像」もストックすることで、その人物映像も流用できないか、という発想です。

 

例えば、刑事ドラマ。

取調室でのやり取りは、犯人が誰であれ、会話の内容がどうであれ、撮り方はいつもほぼ同じです。

セオリーに従って、一通りのパターンを撮ってしまえば、組み合わせを変えながら、映像的には流用が出来そうです。

セリフはその都度、吹き替えが前提ですから、話の内容は毎回変えられます。

 

ホワイトボードを使って、事件のあらましを説明したり、推理したりする刑事部屋のシーンも流用できそうです。

ボードに貼られた写真や文字は、簡単に入れ替えられます。

 

パトカー内の刑事同士の会話シーンも、

  • 前から見た2ショット
  • それぞれの1ショット

で、色々なセリフを言ったり、黙って聞いていたり、という演技を撮影しておけば、その都度撮影せず、映像を流用してもシーンは成り立つでしょう。

 

医療ドラマも同様。

病院内の場面が多いので、流用しやすいジャンルと思われます。

手術室のシーンに至っては、全員マスクをしているので、セリフの吹き替えに気付かれることすらない筈です。

 

もちろん、こんな映画の撮り方は「邪道中の邪道」です。

演技論や映像制作の精神性を重視する人にとっては、そんな、形だけの映像をつなぎ合わせてシーンを作っても、何の価値も感じない、つまらないアイデアでしょう。

しかし、忘れてはいけないのは、作品は観客が楽しむものと言うことです。

制作側の精神性を声高に訴える人は、それが作品を高めることにもなる、と言いつつ、自分たちの自己満足を最優先していませんか?という事です。

 

作り手の無駄なこだわりを省いて「作品を少ないコストで作る」ということに、私は、大きな価値を感じます。

しかも、ロボットアニメの時間稼ぎ同様、様々な場面の流用をすることで、撮影コストを下げられるだけでなく、「物語づくり」の力が鍛えられる可能性は無いでしょうか?

「面白いストーリー映像」を作り易い可能性は無いでしょうか?

 

これは、自戒を込めて言えるのですが、映画作りは、「映像作り」の部分が楽しいため、観客にとってはむしろ映像より大事な、「話の面白さ」を整える部分について、ないがしろにしがちです。

いくら作り手が苦労しようが、お金や手間を掛けようが、「物語」に魅力が無い作品は、他人は見ていられません。

演劇のように、大声でがなり立てて、無理やり場面を盛り上げようとしても、つまらない作品においては単なる騒音にしかならないんです。

 

いっそ、映像の流用度合いを大きくして、撮影の手間を減らすことによって、その分「物語づくり」にエネルギーを注げるようになる、という要素もある気がするのです。

 

もしかしたら、これは、すでに「映画」とは呼べないかもしれません。

しかし、パズルのように既存の映像を組み合わせて「ストーリー映像」を作る、全く新しい創作の楽しみ方が出来るのではないか?

そんな、可能性を感じてしまうのです。

 

最後までお読みいただきましてありがとうございました。

(ブログ記事一覧)

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How to Make Effective Use of Recycled Footage

Creativity Under Constraints

The COVID-19 pandemic brought new challenges to filmmaking, as production delays and scaled-back operations became necessary for health and safety.

Amid these changes, I stumbled upon a fascinating article about a daring production approach: creating an entire TV drama, “A Drama Without Filming: The Murder Case of Mr. Ebisu,” using only archival footage from variety and documentary shows. This project caught my imagination—not for the plot itself, but for the innovative possibilities it presented for filmmaking.

Recycled Footage: A Case for Efficiency

Recycled footage is not new. In robot anime, sequences like launches and mecha combinations are reused in nearly every episode. Similarly, transformation scenes are frequently employed to save costs and time.

While originally intended as cost-saving devices, these techniques also capture viewers’ attention. Children eagerly watch these reused moments each week, relishing the thrill of familiar visuals.

The same holds true for period dramas. While not directly reusing footage, many series follow predictable story arcs with recurring settings—like iconic courtroom scenes. These could theoretically use identical visuals, swapping only dialogue to remain effective.

Practical Lessons for Indie Filmmakers

Having made films since my student days, I know firsthand how rewarding—and time-consuming—this craft can be. For those creating movies as a hobby, it’s challenging to dedicate uninterrupted time to filming like professionals do.

To address this, I’ve developed a process known as Super Previs with Green Screen filmmaking, which combines one-location shoots with background footage stockpiles to drastically reduce costs. (You can find more about this approach in my Udemy course, Introduction to Green Screen Filmmaking).

An Idea Further: Stockpiling Green Screen Performances

What if we extended the reuse model to actors filmed against green screens? Imagine detective dramas:

  • Interrogation scenes often share repetitive visual patterns—these could be pre-shot for reuse.
  • Office scenes with evidence boards need only minor updates like photo swaps.
  • Conversations in cars could rely on varied, pre-filmed angles and expressions to adapt dialogue.

Medical dramas, with their hospital settings and masked surgical staff, offer even more seamless possibilities.

Addressing Creative Skepticism

To some, this reuse approach might seem like sacrilege. Surely filmmaking should prioritize artistic integrity over sheer efficiency? But consider this: filmmaking ultimately serves its audience. Self-indulgent artistic constraints can hinder the ultimate goal—crafting engaging, enjoyable stories.

Finding a Balance

Recycling visuals can lower costs while forcing filmmakers to refine their storytelling. After all, no one wants to watch an elaborate movie with a dull plot. By spending less time on logistics, creators can devote energy to the core: writing compelling narratives.

While this might not satisfy purists, this puzzle-like assembly process could redefine filmmaking’s boundaries—opening doors for new, playful creative experiments.

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