特撮の古典技術「ストップモーション」の復権・ミニチュア模型の楽しさと動きを手で加える楽しさの魅力
ガンダムがコマ撮りの魅力を再確認させた?
私の地元・横浜では、実物大ガンダムが公開されて話題になっています。
「最大の可動型ヒューマノイドロボット」としてギネスにも認定されたそうで、ニュース映像などでご覧になった方も多いと思います。
実は最近、もう一つのガンダム映像が話題になっていることをご存知でしょうか?
映像作家の自宅の中で、所狭しとリアルに飛び回って戦う、ガンダムのプラモデルの映像です。
映像のクオリティ、演出の面白さも相まって、非常に楽しい映像です。
この映像は、「ストップモーション」や「コマ撮り」と呼ばれる、古典的な手法を使って作られています。
そもそも、動く映像というのは、動いているものを「連続的に記録した静止画」として記録し、それを連続で見せることで動きを再現しています。ひとコマずつは止まっているわけです。
この性質を逆に利用して、本来は動いていないものを少しずつ変形や移動させながら、ひとコマずつ撮影した静止画を連続させて見せることで、そのものが自分で動いているように見せるのが、ストップモーションです。
少しずつ違う絵を並べて、動いているように見せるアニメーションと同じ原理です。
コロナ禍の影響で、プラモデル作りが静かなブームになっていることもあって、ガンダムのプラモデルでストップモーション映像を作りたい人が増えているそうです。
元々、関節が可動するガンダムのプラモデルは構造的に良く出来ていて、ストップモーション映像がやりやすい模型でもあります。
60年代、70年代の異世界モンスター
ストップモーションの技術が本格的に映画に使われた歴史は古く、1925年の「ロストワールド」、1933年の「キング・コング」(いずれも特撮は、ウィリス・オブライエン)などが有名です。
その後、特撮の神様、レイ・ハリーハウゼンの登場で、1960年代、70年代は、更に洗練されたストップモーション映像が、映画の中に登場するようになります。
「シンドバッド三部作」「恐竜百万年」「恐竜グワンジ」「アルゴ探検隊の大冒険」など、異世界における不思議なクリーチャーの表現として、ストップモーションの手法は、圧倒的な存在感を示します。
「タイタンの戦い」(1980)でハリーハウゼンが引退した後も、ハリウッドの大作特撮映画の中にも、ストップモーション映像が採用され、楽しませてくれました。
ストップモーションの利点と欠点
「クリーチャー」と呼ばれる怪物の表現方法はいくつもあります。
- 中に手を入れて動かす「マペット」
- 中に人が入って動かす「着ぐるみ」
- 中に機械を仕込んで動かす「ロボット」
- 一コマずつ撮影し、動いたように見せる「ストップモーション」
それぞれ、一長一短があります。
模型は大きくなればなるほど、制作コストが高くなりますし、撮影の規模も大掛かりになります。
これは、映画製作の側からすると、望ましいことではありません。
ストップモーション用の模型を使った撮影は、他に比べて、模型の大きさを比較的小さく抑えることが出来ます。
さらに、ストップモーション用の模型は、中に手や人、大掛かりな機械を入れる必要がありませんから、その姿形を自由にデザイン出来ます。
架空のモンスターや、実在した恐竜の姿をリアルに再現する上で、非常に有利と言えます。
一方で、ストップモーション映像にも欠点があります。
模型をほんの少しずつ動かしながら撮影する、という、気の遠くなるような職人的撮影自体もそうですが、映像的な問題です。
動いているものを撮影した場合、一コマずつ静止画として記録されてはいますが、良く見ると、「ブレ」も記録されています。
特に早く動くものの映像には、ブレが大きく記録されていて、その効果で動きが滑らかに見えています。
ストップモーションでは、静止している模型を撮影するので、ブレがありません。
そのため、早い動きを表現した場合は特に、映像がパラパラと断続的に繋がっているように見えるため、やや、リアリティーが損なわれるわけです。
(昨今はビデオカメラのオート機能で撮影すると、シャッタースピードが異常に早く、ブレが無い不自然な映像になりがちです。それを見慣れている若い人たちは、ストップモーションのブレの無さも気にならないかもしれません)
ブレのない静止画で構成される「動画」は、やや、コミカルに見える傾向があります。
これを演出に活かした作品では、まだまだ、ストップモーションの手法は現役で活躍していますが、リアリティーが優先される作品では、ストップモーションからCG映像に、その手法は移っているのが現状です。
デジタル技術による欠点の克服
前述した、特撮の神様・ハリーハウゼンによる特撮映像も、ストップモーション特有の欠点は抱えています。
一コマ一コマに「ブレ」が映っていないために、動きがギクシャクして見える、という部分です。
ファンからすると、それもまた「味わい」の一つで、全く問題はないのですが、やはり、ストップモーション以外の映像との差が出てしまうのは、出来れば防ぎたい場合もあります。
そんな中で補助になるのが、デジタル編集技術です。
現代の映像制作では、パソコンを使って映像を編集することが一般的です。
パソコンを使って編集するメリットは様々ありますが、デジタル編集ならではの「特殊効果」が、「ブレの生成」です。
アドビ社のアフターエフェクツというソフトがあります。
このソフトは、様々な映像効果を作り出す機能を持っています。
その一つが、ストップモーション撮影で作った、ブレが映っていない映像に対して、擬似的に「ブレ」を作り出す機能です。
この機能を使えば、ストップモーション映像の、技術的な最大の欠点を完全に補うことが出来ます。
フルCG映像には無い、「造形や撮影の楽しさ」を持った、模型を使ったストップモーションと、リアルな動きを表現できる「ブレの生成」。
これは、工作系映画製作者にとって、最強の組み合わせではないでしょうか?
特殊なソフトを使わない撮影案
ガンダムのコマ撮り撮影に触発されて、コマ撮り(ストップモーション)の撮影方法の情報も良く出回るようになってきました。
撮影に使う道具や、映像の合成方法など、とても参考になりますが、撮影方法については別の提案があります。
一般的に、ストップモーション撮影には、専用のソフト(アプリ)を使うことが紹介されています。
撮影用の専用ソフトは、模型を数ミリ動かすたびに撮影をするものです。
撮影後、すでに完成した映像が再生できる特徴があります。
しかし、私はあえて、普通のビデオカメラを使って撮影してはどうかと思っています。
ビデオカメラで動画撮影をしたまま、模型のポーズを変える作業の「手」込みで記録してしまうやり方です。
ビデオカメラはAC電源さえ確保していれば、通常、数時間の連続撮影が出来ます。
5秒間の映像を作るために、ストップモーションの撮影を2時間かけて行なったとしても、十分に撮影できます。
カードやハードディスクに記録するタイプのデジタルビデオカメラなら、撮影時間が長くなったところで、消耗品に費用が掛かることはありません。
手順は以下の通りです。
- ストップモーションの作業中、連続撮影しておく
- 編集ソフトを使って、撮影した動画から静止画を自動書き出しする(1秒1コマの設定)
- 書き出した静止画のサムネイル表示を一覧しながら、作業の手が映っているファイルを機械的に捨てる
- 使用する静止画だけ、編集ソフトに取り込んで、動画書き出しする。
これで、アプリを使ったものと同等の映像ができます。
このやりかたの最大のメリットは、撮影時の集中のしやすさです。
模型の角度を整えた後、1秒程度は確実にカメラから見えないところまで、作業の手を引っ込める、という注意は必要ですが、目線を模型からそらさずに撮影が出来る事で、格段に撮影が早く進むと思います。
もう一つのメリットは、映画の大きな魅力である、「メイキング映像」も同時に出来上がる点です。
2時間かけて撮影した映像は、ストップモーション撮影の作業のやりかたそのものを記録した、貴重な資料です。
編集ソフトで1000倍速の映像などを作れば、ゆっくりと動く模型の周りで、目まぐるしく動き回っている作業の手が映り込んでいる動画が作れます。
数秒の映像を作るために、どれだけ丁寧な作業をしているかも想像できる、非常に楽しい「動画コンテンツ」になります。
映画の「メイキング資料」は、時に本編以上の魅力を持つことを忘れないでください。
MVG作品における今後の活用予定
私も、MVG第1回作品「水晶髑髏伝説」以来、ストップモーションの映像も活用してきました。
そもそもは、ハリーハウゼンのような、ストップモーション映画を作りたくて始めた趣味です。
しかし、ストップモーションでリアルな映像を作る困難さの壁に当たり、最近ではあまりこの手法は採用していませんでした。
むしろ、動きのリアルさという点では、マペットを活用した映像を追求しようとしてきました。
ところが、リアルなマペットを使って模型に複雑な動きを加えようとすると、どうしても2、3人掛かりで撮影する必要が出てきます。
昨今のコロナ禍においては、完全に一人で撮影を進められるストップモーションの方が、実現性の高い手法とも言えます。
さらに、前述のように、ストップモーションの弱点は克服できる時代になりました。
今後は、私にとって、映像制作の原点である、「ストップモーション」を使ったリアルな映像が登場する映画作りにも挑戦したいと思っています。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。
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