「順撮り」と「中抜き」どちらで撮る?
製作コストは撮影効率に掛かっている
映画製作には様々な要素・楽しみ方があります。
ただ、物事には順番があるのも確かです。
映画で言えば、多くの人は「演出に凝った、素晴らしいものを作りたい」と考えますが、優先すべきことは明らかです。
それは、「完成させること」です。
これを当たり前と思うでしょうか?簡単なことだと思うでしょうか?
実際のところ、自主制作の映画が完成する率は、想像よりかなり低いと思います。
映画は撮影前に70%が完成している、という考え方があります。
よほどの天才でない限り、撮影前に撮影計画を全て立て終えていて、「あとは撮って編集するだけ」という状態にしてから、撮影に入ることが望ましいと思います。
それくらいの準備をしてから撮影に入ったとしても、何割かの作品は制作が頓挫して未完成に終わってしまいます。
原因の殆どは、「撮影が順調に進まなかった」ということです。
撮影が予想より進まない原因の多くは、「撮影を順調に進める」という実力がないのに、演出にこだわりすぎる事です。
私も過去に何度も作品を未完成に終わらせていますから、実感を持って言えます。
「作品を完成させる」のは、一つの能力・技術です。
最低限、この技術を身に付けないうちに、演技や演出へのこだわりを発揮しようとすると、撮影は全く予定通りに進みません。
例えば、1日で撮り終える予定のシーンの映像が撮り切れない場合、たとえそれがほんの3カットだとしても、別の日に撮影することになります。
スケジュールが2倍に延びる訳です。
実際には、協力者全員が暇では有りませんから、これが重なると、もう撮影は中止になります。
完成させる技術を身に付けるまでは、映画を「創作物」というより、「工業製品」的に捉えることが必要なのではないかと思います。
そして、「完成させる技術」として最も重要なのは、「撮影を早く済ませられること」です。
「中抜き」の長所は時間短縮
映画は舞台のお芝居と違って、必ずしも物語の始めから撮影する必要はありません。
季節変化を追った作品や、俳優の変化を自然に表現したい商業映画などでは、物語を最初から最後まで順番に撮影する「順撮り」の手法を採用することもあります。
しかし、これは、スタッフも演技者も一流の場合に有効な、贅沢なやり方です。
普通は費用対効果が低すぎるので行いません。
通常は、撮影の都合でシーンの順番をバラバラに撮る「中抜き」という手法で撮影します。
例えば、Aという部屋と、Bという部屋での出来事を交互に2回ずつ見せるシーンがあるとします。
順番通りに、
- Aの部屋で撮影準備をして、本番撮影、撤収
- Bの部屋で撮影準備をして、本番撮影、撤収
これを繰り返していては、時間がいくらあっても足りないので、通常は
- Aの部屋の2シーンを全部撮る
- Bの部屋の2シーンを全部撮る
というように、できるだけまとめて撮影します。
これだけで、かなり撮影時間が短縮できます。
さらに「中抜き」撮影は、シーンごとにも使います。
同じカメラの位置から撮れるショットを、まとめて撮ることです。
例えば、男女2人の出演者を交互に撮影するような場合、先に男の顔を全部撮り、カメラの位置を変えて、女の顔を全部撮る、という具合です。
撮影時間の大半は、実は「本番撮影時間」ではなく、「カメラの移動・設置時間」です。
中抜きすることで、「カメラの移動・設置時間」を大幅に減らすことは、撮影時間の短縮に繋がります。
実際に起きる「中抜き」の短所
ところが、実際は、極端な中抜き撮影をすると、別の弊害も発生しがちです。
一つは、出演者への説明が多くなることです。
一つの演技の説明をして、本番撮影をした後に、続きの芝居はちょっと飛ばして、先の芝居をする事になります。
カメラの位置を変えたあとは、場面を少し戻して、この部分の芝居をして、という指示を繰り返すことになります。
監督は、出来上がりの映像をイメージしていますが、通常は、出演者は映像を意識しません。
パズルのように映像ごとの演技を指示されても、混乱して的確な演技が出来なくなりがちです。
もう一つは、演技とも関連しますが、順番をバラバラに撮ると、「繋がらない映像」になる危険が高まる、ということです。
ひと続きの出来事に見えるように映像を編集しても、物理的に人のポーズが違っていたり、小道具の持ち方が変わっていたりすると、ひと目で場面が不自然になってしまいます。
「そんな細かいことで作品の魅力は下がらない」という自信があれば別ですが、観客はシビアです。
無意識に減点法で見ています。
点数が一定以下になると、もう、真面目に見るのをやめてしまうでしょう。
カメラの準備時間を基準にする考え方
結論を言うと、順撮りと中抜きを適切に併用するのが現実的ということです。
特に、手持ちカメラで撮影するプランの場合は、カメラマンが立ち位置を少し変えるだけで済むので、シナリオの順番通りに「順撮り」で撮影したほうが、撮影はスムーズに早く進みます。
カメラの設置準備時間の大半は、「三脚の調整」であることが多いからです。
野外のシーンなどで、声を大きくしないとスタートの合図が聞こえないくらい、カメラが離れて撮影するような場合は、移動距離が長くなります。
川や大通りの反対側から撮るような場合は特に、移動時間そのものが長くなるので、その離れたカメラ位置から撮れる映像をまとめて撮るという選択が効率的になります。
基本的に、撮影時間が長くなればなるほど、演技は不自然になり、映像はつながりにくくなると思ってください。
できるだけ早く撮影を進めたほうが、映像的には出来が良くなる、という傾向は、実験的にスピード重視で作品を作ってみると実感できると思います。
特撮を活用する場合の注意点
スピーディーに順撮りするには、手持ちカメラ撮影がとても有効なのですが、ここで注意しなければいけないのは、映像に「合成」を加える場合です。
映像の一部に合成を加えることで、制約の多い低予算の映画でもバリエーション豊かな映像を含んだシーンが作れることは、メルマガやサイトでもお伝えしている通りです。
その「合成映像」の基本になるのは、「三脚で固定された映像」です。
三脚で固定した映像であれば、例えば、背景にある「神社の社」を「五重の塔」に見せる事も容易です。
しかし、元の映像が手持ちカメラで撮影されていると、「五重の塔」の別画像を自然に合成することは、翼端に難しくなってしまいます。
合成用映像の撮影・編集に、ある程度慣れていれば、うっかり手持ちカメラで撮影してしまった、ということは起きませんが、慣れていないうちは、絵コンテに「合成用、三脚使用!」という注意書きを書き込むくらいの準備をしておくほうがいいでしょう。
今回の「順撮り」と「中抜き」どちらで撮る?という問いの答えとしては、
- シーンは中抜きで効率優先の計画を立てる
- シーンの中は、基本的には順撮りが安全
- 中抜きのほうが明らかに効率がいい部分だけ、中抜きで撮る
という感じです。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。
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Which Approach to Use: Sequential Shooting or Nonlinear Shooting?
The Relationship Between Production Costs and Shooting Efficiency
Filmmaking offers diverse processes and joys, but one unshakable truth remains: sequence matters.
Many filmmakers dream of crafting something extraordinary with detailed direction, but the ultimate priority should always be clear: completing the project.
While this might seem like common sense, independent films often fail to reach completion. The main reason? Poor shooting progress.
There’s a saying that 70% of a film is completed before shooting begins. Careful pre-production planning is crucial. Without sufficient preparation, projects often stall. And the biggest culprit is an overemphasis on directing nuances, overshadowing the ability to execute a smooth, efficient shoot.
The Essence of Completion: Efficiency in Shooting
Finishing a film is a skill in itself, requiring proficiency before focusing on things like acting or direction. Even minor delays, like missing a few shots in a planned day, can double the timeline. Extended delays ultimately halt productions, as collaborators often have limited availability.
Treating filmmaking as an industrial process—rather than purely artistic—helps nurture the skill of completion. At the heart of this is the ability to shoot efficiently.
Strengths of Nonlinear Shooting
Unlike theatrical performances, films don’t need to be shot in chronological order. While sequential shooting is sometimes used for projects needing natural progression (e.g., changing seasons), it’s generally considered a luxury for professional crews and actors.
Nonlinear shooting focuses on efficiency:
- Grouping Locations: Instead of alternating between two rooms, all scenes in one room are shot together before moving to the next.
- Grouping Angles: For instance, when filming a conversation, all shots of one character are taken first, then the camera is adjusted for the second character.
This minimizes time spent relocating or setting up the camera, a time-consuming process that far exceeds the duration of actual takes.
Challenges of Nonlinear Shooting
Nonlinear shooting can create some challenges:
- More Complex Instructions for Actors: Explaining fragmented performances can confuse actors, potentially leading to less natural results.
- Continuity Risks: Non-sequential shooting increases the likelihood of mismatched postures or props between takes, disrupting the illusion of continuity.
Viewers tend to unconsciously deduct points for such inconsistencies, reducing their engagement.
Balancing Sequential and Nonlinear Approaches
The best practice lies in a hybrid approach:
- Use nonlinear shooting to optimize location or camera changes.
- Within a scene, employ sequential shooting where practical.
- Reserve nonlinear methods for obvious efficiency gains.
Special Considerations for Visual Effects
While handheld cameras are ideal for speedy sequential shooting, fixed cameras are essential for scenes requiring compositing or other effects. Tripod use ensures stable footage, critical for integrating elements like replacement backgrounds or overlays.
For filmmakers still mastering effects, clear notes—like “Tripod Needed for Compositing!”—on storyboards can prevent costly errors.