マスク時代のドラマ撮影
コロナ時代の新しい絵面(えづら)
2021年現在、新型コロナの影響で、私達の生活は、自宅以外ではマスクを着用するのが当たり前になっています。
最初に、テレビドラマの絵面にこの現実の様子を反映させたのは、2020年の「MIU404」の最終回だと思います。
ごく普通の設定の出演者が、マスクを着用しているという絵面は、大げさに言えば、歴史上例がないと思います。
現実を反映させているとは言え、マスク着用の世界を取り入れているドラマが大多数というわけではありません。
「顔」が商品であるプロの俳優が、ずっとマスクでその顔を隠すという状況は望ましくないことなのでしょう。
しかし、感染対策でドラマの撮影が滞るより、リアリティーを出す衣装としてだけでなく、実用品としてのマスクを着用したままでの撮影は、今後も続くことでしょう。
マスク着用の演技が生み出す利点
「顔」を売らなければいけないプロの役者と違い、私達が作るDIY映画において、役者は、純粋に「作品のパーツ」です。
物語を伝えるために、必要があって登場し、セリフを話します。
プロの表現者のように、ビジュアルの圧倒的な魅力があるわけではなく、技術的にも拙い場合も多くあります。
そんな場合、マスクを着用した状態の演技は、高い確率でプラスに働く可能性があります。
先日、twitterで、「自主映画に関わるとしたら何をやりたいか」というアンケートを出してみたところ、トップは予想通り、「演出」でした。
そして、予想以上に少なかったのが「出演」です。わずか25%しかいませんでした。
つまり、自主映画に出たくて出る人は、少数派ということで、人数を合わせるために、スタッフが役者を掛け持ちしたり、厚意で出演してくれる知り合いに頼る事が多いわけです。
すると、プロでは想像もつかないことでしょうが、「カメラの前で演技をするのが照れくさい」という人達も、出演することになります。
そんな感情は、もちろん映像には悪影響で、恥ずかしがりながら演じている様子は、当然、演技として不自然になります。
ただでさえ、撮影は時間との戦いなのに、「普通の芝居が恥ずかしい」という素人俳優を使って撮影することは、演技の質以前の独特の困難を伴います。
ここで、「マスク着用」は大きな効力を発揮する可能性があります。
顔がよく見えないことで、
- 恥ずかしさが軽減する
- 演技の拙さが目立たない
という効果が期待できるからです。
もちろん、「表情が見えないから感情が表現しづらい」という側面もありますが、演技力が期待できない私達、素人役者は、そもそも「感情表現」など上手く出来ません。
「撮り方」との組合せで、それらしい感情や状況を表現する必要があります。
むしろ、出来もしない「表情の芝居」に頼ろうとしない分、シンプルに「必要な情報を伝える動作」に集中出来て、作品のレベルが上がる可能性すらあると思うのです。
アフレコのメリットを最大限に活かす
映画のドラマシーンで大きな課題になるのは、「セリフの録音」です。
映像作品なので、「映像」が第一と思われがちですが、見ていて最もストレスが溜まるのは、「音声」の質の低さです。
特に、低予算のVシネマなどでも散見されますが、ビデオカメラのマイクで録音された音声をそのまま使っている作品は、いかにも「ホームビデオで撮影していますよ」ということを強調してしまいます。
ドラマの本編と言うより、「虚構の作品」に成り切れていない、そのドラマのメイキングに見えてしまうんです。これは興ざめです。
通常の映画は、カメラや作品の存在を忘れさせる事が基本です。
そのためには、人物とカメラの距離や顔の角度に関わらず、音声が一定の状態で聞こえる必要があります。
それを実現するために、プロの現場では、苦労して上からマイクを吊って録音したり、ピンマイクを使って、それぞれの役者の声を別々に録音したりするわけです。
この同時録音は、準備や確認に時間が掛かります。
それで、私は「アフレコ」という手法を推奨するわけです。
アフレコを採用した場合は、撮影現場では、マイク担当のスタッフが不要ですし、周りに騒音があっても、どうせその時の音声は使いませんから、音声の状態を無視して撮影が進められます。
つまり、撮影が格段に早いわけです。
アフレコは、後から口の動きに合わせて改めてセリフを録音します。
声をクリアで一定の状態で録音できるメリットはありますが、口の動きに合わせにくい、口と合っていないと不自然になる、というデメリットがあります。
ところが、マスクをしている映像であれば、口の動きが見えません。
セリフと口の動きを厳密に合わせる必要が無いので、「不自然にはなりにくい」という大きなメリットが生まれます。
マスク着用の演技については、アフレコでセリフの録音をするのが、現実的と言えるでしょう。
声の演技の大切さ
「演技」を専門的に追求している人からすると、映画の演技は舞台演劇の演技よりやりがいのないものでしょうし、まして、私の推奨する「邪道映画」で映画作りを楽しむ姿勢とは、全く相容れないはずです。
ですから、私の話す「演技の話」は、「邪道映画術の中での演技の話」と思ってください。
演技には
- 視覚的な演技
- 声の演技
があります。
そして、演技の良し悪しの殆どは、「声の演技」によって左右されます。
具体的に言うと、セリフの音程に幅がなく、「棒読み」になっているか、音程が豊かで「感情が乗っているように聞こえる」かどうか。
素人俳優は、
- 顔の演技
- 仕草
- 声の演技
を同時に出来ません。
しかし、マスクをしての演技であれば、撮影中、「顔の演技」「声の演技」はほぼ不要です。
「動作や仕草」にだけ注意すればいいでしょう。
そして、アフレコ時、全力で「セリフの音程」にだけ意識を向けて「声の演技」を録音することで、役者として、実力以上の魅力を発揮できる可能性が出てきます。
結果、作品の面白さも向上するかもしれません。
「制約を逆手に取って、逆に利用する」という姿勢は、私の好きな鶴屋南北に顕著ですが、コロナ禍と呼ばれるこの時代、私も、鶴屋南北風に逆風をメリットに転じたいと思うのです。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。
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