カット割りの数で演技力をカバーする

映画の評価は「魅力があるかないか」

身も蓋もない言い方をすれば、映画は必ずしも「映像」が一番大事とは限りません。

  • 魅力がある映画は見る
  • 魅力がない映画は見ない

というだけです。

 

その「魅力」には、色々な要素があります。

  • シナリオ
  • 出演者
  • 景色
  • 映像の切り取り方
  • 編集の巧みさ
  • 音楽との組み合わせ

などでしょうか。

 

それぞれの魅力の合計点で、作品の評価になると思います。

  • 話が面白くて、他の問題点は気にならなかったり
  • 人物に強烈な魅力があって、内容はもうどうでも良かったり

それが映像作品です。

 

ちなみに私は、「映像」の魅力によって他の要素をカバー出来るような才能は皆無なので、映像は、「物語を伝達するための情報」と捉えています。

「いかに素晴らしい映像で表現するか」、というより、「物語の足を引っ張らないで内容を伝える」、という事を意識しています。

演技力に期待しない

映画の魅力の一つに、出演者の演技力があります。

優れた演技力は、強烈な魅力です。

ともすれば、ちっとも面白くない作品でも、出演者の演技の魅力だけで満足できる場合があります。

 

でも、私達が企画して、製作するDIY映画では、これに期待しないでください。

役者の演技力で、映画のアラをカバーしてもらおう、という考えは持たないことです。

 

もちろん、風貌や雰囲気など、役に合った人に出演を依頼するとは思いますが、プロの役者ではありませんから、基本的に演技力はありません。

撮影する側の技術も未熟なことがほとんどですから、仮に、素晴らしい演技力があっても、それをうまく拾い上げる事が出来ないのが現実です。

 

まだ、映画を数本しか完成させたことが無いうちは、むしろ、出演者の演技力がないことを前提として、それでも場面を成り立たせる練習をすべきです。

それが出来れば、演技経験のない素人役者でも、楽しく映画作りに参加できて、完成品もそれなりに楽しめるはずです。

 

最悪なのは、演技が出来ない出演者に向かって、「もっと感情を込めて」などという指示を繰り返してしまうことです。

一所懸命に感情を込めたところで、表現の技術がないのですから、理想の演技にはなりません。

楽しくありませんし、時間の無駄です。

演技のリズムは編集でカバーできる

私は、素人役者の演技でも、十分に作品は成り立つと思っています。

 

演技のうまい役者には、色々な技術が備わっています。

芸達者な二人の掛け合いのシーンなどは、余計な編集をせずに、素材そのものを見せたほうが魅力があります。

 

役者に演技力が無いときはどうすればいいか。

これと逆のことをすれば良いんです。

 

つまり、掛け合いのシーンでは、「いいやり取りに見えるテンポ」を編集作業で作り出してやれば良いんです。

 

乱暴な言い方ですが、表面的な演技の上手さは、「セリフの抑揚」と「リズム」によって作り出されます。

素人役者は、どちらも上手く出来ないものですが、少なくとも「リズム」の方は、編集でカバーする余地があるんです。

 

具体的には、台詞のやり取りが、緩急の変化に富んでいたり、ラリーのように応酬されたりする魅力を、細かな編集にすることで擬似的に表現できます。

 

「そんなのは本当の演技じゃないよ」と言われるかもしれません。

その通りです。

しかし、私や普通の観客は、演劇の専門家や演劇通のように、演技至上主義ではありません。

完成した作品が楽しめるようになっていれば、それで幸せなんです。

 

細かな編集でリズムを操作するためには、複数の映像を多目に撮影しておく必要があります。

 

二人のセリフの掛け合いのシーンを思い浮かべてください。

映像は、一連のやり取りを、正面から2ショットで撮影した1種類しかないとします。

 

この場合、セリフのやり取りのリズムを、編集で調整出来ません。

セリフの「間」を詰めて編集すると、途中が飛んだ、不自然な映像になってしまうからです。

 

間を詰めていることを気付かせないためには、種類の違う映像を用意しておくことが必要です。

例えば、一人だけのアップ映像。

アップの映像に切り替えることで、「間を詰めた」という事を隠せるわけです。

同様に、実際より間を空けることも可能です。

 

通常は、あらかじめ用意した絵コンテに従って撮影を進めますが、「この場面は演技がスムーズでないな」と感じたら、編集でカバーできるように、撮影プランを変える事が有効です。

 

具体的には、絵コンテで予定したのとは「違う構図」で、「同じ演技」を撮影しておきます。

同じ演技の構図違いが3種類もあれば、編集で何とか自然になリズムが作れるでしょう。

思い切って、離れたところから撮った映像も効果的です。

 

撮影の動機は全く異なりますが、岩井俊二監督の初期作品などでも、同様に「同じ演技を角度を変えて何度も撮る」という手法が散見されます。

 

やってみると分かりますが、一連の演技を繰り返すことになるので、いい意味で演技に飽きてきて、自然な台詞回しになったり、力が抜けた自然な動作になるというプラスの効果もあります。

編集作業は選択肢が多いほど複雑になる

もちろん、同じ場面の映像が何種類も存在することになるので、編集作業は煩雑になります。

2ショットの正面映像しか無い状態では、出来の良し悪しに関わらず、それをそのまま使うしかありません。

逆に言うと、選択肢がないので編集作業としては楽です。

 

一方、色々な角度で撮った映像が存在する場合は、映像Aから映像Bに切り替えるタイミングだけでも、無数にあります。

一つ一つ、試行錯誤しながら編集パターンを取捨選択するのが、編集作業の醍醐味とも言えますが、面倒とも言えます。

 

ただ、このやり方では、比較的、カット割りが細かくなる傾向があるので、観客に「刺激不足で退屈」というストレスを与える心配が減ります。

多くの場合、これは有効です。

 

編集はマジック的な要素もあります。

本来、意味のない無表情でも、編集の順番によって、効果的な意味を表現することも出来ます。

編集によって、必ずしも演技力があるわけではない、素人役者の演技を、その実力以上に見せる楽しさも味わってみてはいかがでしょうか?

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