特撮で作る運転シーン
運転しながらの演技は避ける
自主映画、DIY映画の撮影でまず困るのは、自由に撮影できる場所が少ないことです。
公共の場であるにも関わらず、時々、勘違いして、我が物顔で撮影をしている人たちがいますが、これは絶対に慎まなくてはいけません。プロ・アマ問わずです。
基本、公共の場では、他の人の邪魔にならないよう、手短に撮影を済ませる必要があります。
周りのことを気にせず、じっくりと撮影に集中したければ、とにかく人のいないところを探すしか無いんです。
理想は、許可をとって私有地を使わせてもらったり、貸し切りの室内で撮影することです。
そんな中、比較的じっくり撮影できるのが、自家用車を使ったシーンです。
車を運転しながら会話しているような「車内のシーン」。
単純に考えると、実際に運転しながら撮影してしまえば良いじゃないかと思うかもしれませんが、それだと、いくつかの問題があります。
第1の問題は、「そもそも危険」ということです。
運転する役の人が免許を持っていて、運転しながらの撮影が可能だとしても、撮影には普段使っている車を使わないかもしれません。
そして、単に会話するだけでなく、演技もしながら、となると、自覚している以上に気が散っています。
万が一、事故でも起こしたら、こんなに高く付くことはありません。これが最大の問題です。
第2の問題は、「音がつながらない」ということです。
1本でも作品を完成させてみた人は気付くと思いますが、編集作業によって映像がつながっているように見えても、カメラの向きが変わるたびに、音も大きく変化していて、「別々にぶつ切りで撮影した映像をつなげている」ということがはっきり分かる筈です。
それだけ、「音」は重要なんです。
そして、運転しながら撮影すると、当然、エンジン音が入ります。
高速道路のように信号のない道路を、延々と一定の速度で走れるのであれば、音は一定ですが、実際の運転中は、エンジンの音は頻繁に変化しています。
編集によって繋げると、その、音の変化が大きくて、いかにも「編集しました」ということを主張してしまうんです。
第3の問題は、「映像がつながらない」ということ。
車窓から見える景色の変化が不自然だったり、町の中で何度も同じところを走りながら撮影したことで、同じコンビニが連続して写り込んでしまったり、という事があります。
光の状態も、一定にはならないでしょう。
映像が切り替わるたび、顔に落ちる影の向きがコロコロと変化したりします。
第4の問題は、正面からの映像が撮りにくいこと。
映画やドラマでよく見る、フロントガラス越しの映像が、運転シーンの定番です。
しかし、あの映像は、運転しながら撮影しているわけではありません。
トラックの荷台の上に車を乗せていたり、トラックに牽引させながら撮影しているので、正面から撮影できているんです。
小型のカメラをボンネットに固定して撮影することも可能かもしれませんが、外れて破損したり、散々、撮影した後、確認したら、フロントガラスが光っていて人物が全然見えていない、というのがオチです。
主に以上のような理由で、私は、運転しながらの撮影はオススメしません。
では、どうするか。
もちろん、特撮を使います。
必要な映像は実は少ない
車の運転シーンに必要な映像は、基本的に
- 正面からの映像
- 横からの映像
- 運転者目線の前方映像
だけです。
このうち、「運転者目線の前方映像」は出演者がいなくても撮影できますから、撮影方法の解説は不要でしょう。
「正面からの映像」「横からの映像」について、実際の撮影方法を解説していきます。
いかに走っているように見せるか
正面からの映像も、横からの映像も、撮影は「止まっている車」で行います。
それにより、じっくり安全に撮影できます。
まずは、定番の正面映像。
基本的にはカメラを車の前方に設置して撮影するだけなんですが、昼間のシーンの場合は、明るい空がフロントガラスに反射してしまって、車内が全く見えないことがあります。
これを防ぐには、明るい空の代わりに、暗いものをフロントガラスいっぱいに反射させるしかありません。
手っ取り早いのは、屋根のあるところで撮影することです。
私は以前、車の通りがない、鉄道の高架下で撮影しました。
まずは人物が見えることを優先して撮影して、編集時にフロントガラスへの自然な写り込みを合成する方法があります。
この撮影では、画面いっぱいに人物のワンショットが写っている映像と、助手席を含めた2ショットが撮影できますが、2ショットの場合、車の輪郭の外側が画面に写るかもしれません。
そのまま使うと、止まった車で撮影したことが分かってしまいますが、逆に、その「輪郭の外側」に編集で「走っている車から撮った背景映像」を合成することで、「車が走っている」と錯覚させられます。
ちなみに、セリフは外に設置したカメラとは別に、車内に置いたICレコーダーなどで、録音しておきます。
高価なワイヤレスマイクを使って、リアルタイムに、カメラに無線で飛ばして録音する必要はありません。
編集時に、車内で録音した音声と、車外から撮影した映像を組み合わせれば良いんです。
車内に置くレコーダーの位置を変えなければ、横から見た映像に切り替わったりしても、音声がきれいにつながります。
横から見た映像は、反対側の窓を開けて、窓越しに外から撮るのが一般的です。
このときは、定番ですが、クロマキー合成の技術を使います。
人物の背景には景色が見えてしまっています。
このままでは、車が止まっているのが分かってしまいますから、背景の景色を隠すように、グリーンバック用のシートを広げます。
光の向きによっては、車にシートを掛けてしまっても良いかもしれませんが、通常は、窓からやや離してシートを張ります。
人手に余裕があれば、シートを手で広げて持って撮影するのが一番楽でしょう。
こうして、人物の映像を撮影した後、合成用の背景映像を撮影します。
背景映像は、一人で撮影するのはなかなか面倒です。
誰かに運転してもらいながら、手持ちカメラで撮影するのが良いでしょう。
正面からの映像に合成する背景映像は、後部座席から真後ろを撮影します。
横からの映像も、後部シートから左右の窓の外をそれぞれ長目に撮影します。
背景映像撮影のポイントは、できるだけ「広角」の映像を撮影することです。
広角で撮影すると、振動が気になりにくいので、安定した背景映像が撮影できます。
合成時、必要に応じてアップ映像にしたとしても、背景なので画質劣化は、さほど気にはなりません。
車内のエンジン音も、このときの音声を使うといいでしょう。
編集時、正面からの映像のフロントガラスに、写り込みを合成するのは、やや難易度が高い作業です。
具体的な設定は割愛しますが、アイデアだけ共有すると、有効な合成要素は
- 電線や信号機
- 木の枝
の2種類です。
サンルーフがある車が使えるとベストなのですが、真上に向けたカメラで電線や信号機、張り出した街路樹の枝などを撮影したものを、合成素材として使います。
この「下から見た映像」を、透明度や合成範囲を調整しながら、「フロントガラス越しの映像」に合成することで、「車が走っていること」を表現します。
私の主宰するDIY映画倶楽部では、各種合成用映像素材も、シェアして使えるようにしようと考えています。
以上、簡単ですが、「走っている車のシーン」の撮影アイデアについて解説しました
要は、「止まっている車」を「走っていると勘違いさせる」ための工夫です。
合成映像で車内シーンを作れば、安全な上、芝居の質を優先したシーンになります。
是非、選択肢の一つとして覚えておいてください。
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