コマ撮りとミニチュアの悪魔的魅力・CG全盛の時代に復活した古典的手法
コマ撮り作品の根強い人気
映画「ジュラシック・パーク」。
リアルで迫力のある恐竜の映像で大ヒットした作品ですが、当初の計画では、恐竜の映像は、
- 実物大のロボット
- コマ撮りのミニチュア恐竜
の組み合わせで作られる予定でした。
「コマ撮り」というのは、模型などを少し動かしては1コマ撮影し、また少し動かしては1コマ撮影し、ということを繰り返すことで、模型が一人で動いているように見せる手法のことです。絵のアニメーションと原理は全く同じです。
しかし、「ジュラシック・パーク」においては、どうしても「コマ撮りのミニチュア恐竜」では、求めているリアリティーが出せず、イチかバチかで採用したCG映像が素晴らしい効果を発揮したことで、「コマ撮り」という手法は、特撮の第一線から退いたという経緯があります。
それ以降、特撮映像の主流はCGになります。
ただ、ゲームなどでもCGを見慣れていて、目の肥えた一般の観客は、驚くほど早く、CG映像そのものに飽きているのではないでしょうか?
その反動として、再び古い手法である「コマ撮り」が注目され、魅力が再認識されている気がします。
劇場公開されて話題になった作品もありますし、テレビやYouTubeチャンネルで人気の作品もあります。
いくつかご紹介します。
『JUNK HEAD』
『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』
『犬ヶ島』
『PUIPUIモルカー』
https://www.youtube.com/channel/UCkpdBZk3ulIbSTsAAzZH1dQ
「古い技術」である「コマ撮り」が新しい表現法を使って復活してきている、と感じられます。
CGとコマ撮りは何が違うか
CG(コンピューター・グラフィクス)は、コンピューターの中に描いた絵です。
プログラムによってキャラクターをデザインし、動きの指示を出し、質感などの表現も、プログラムの機能によって処理されます。
これも、高度な技術を駆使した、大変な作業です。決して「CGだから簡単にできる」という訳ではありません。
CGに登場するキャラクターは、形も動きもかなり自由に設定できます。
ただ、悲しいかな、このキャラクターはデータ上にしか存在しておらず、「実体」がありません。
それに、特撮(特殊撮影)と言っても、カメラを使って撮影もしません。
それに対して、コマ撮りの基本はミニチュアの模型という「実体」を手で一コマ一コマ動かして、カメラで撮影する事です。
もちろん、編集や合成、映像効果にはコンピューターという道具を使う時代ですが、基本的には、模型とカメラだけで映像が作れます。
撮影には根気が必要で、大変な手間は掛かりますが、「ローテクの手法」と言えます。
つまり、投資を抑えて、作業自体も楽しみたいという、趣味の映像制作には向いているんです。
コマ撮りに使うのは、通常、ミニチュア模型です。
机の上で、本来は動くはずのないものがひとりでに動いている映像を作ったり、もう少し本格的になると、ドールハウスの中で人形を動かしたりします。
実は、ミニチュア模型自体に、人を惹きつける魅力があります。
ドールハウスのような模型であれば、「こんな家に住みたい」という、憧れの要素もあるかもしれませんが、
- 何の変哲もない古いアパートのミニチュア
- 空き地に不法投棄されて朽ちた自動車のジオラマ
など、憧れや珍しさなどは一切なくても、ただ「小さい」というだけで、見入ってしまう魅力があるんです。
コマ撮り特撮は、
- 実体を撮影している楽しさ
- ミニチュアの楽しさ
が両立した、お得な手法と言えるでしょう。
コマ撮り特撮のメリットは
- 模型は小さいので、撮影が省スペースで済む
- ローテクなので、カメラさえあれば出来る
- 技術的に稚拙でも、それが「映像の味」になる
- 一人でも撮影ができる
などが挙げられます。
リアルな恐竜の映像を作りたい
実は、私が映像制作を始めたきっかけは、この「コマ撮り」の技法を使った特撮映像を作りたいと思ったことなんです。
特に、子供の頃から大の恐竜好きだったので、リアルな体型の恐竜が自由に動き回るコマ撮りの映画には、とても憧れました。
そこで、原点に戻って、コマ撮りの恐竜が出てくる作品を作ろうということになりました。
コマ撮り特有の「カクカクしたイメージ」は、面白味にもなり得ますが、私が恐竜の映像に求めるのは、CGに対抗するようなリアルさです。
現在は、コマ撮り撮影した映像の仕上げとして、パソコンソフトの機能を利用すると、CGのような滑らかな動きを表現できます。
以前からたびたび言っているように、私の映画は「工作系映画」です。
小道具、大道具だけでなく、ミニチュアセットの模型を作って、人物をそのセットの中に合成してしまう手法もとります。
当然、コマ撮り用の恐竜も、市販の模型を使うのではなく、撮影専用のミニチュア模型を作ります。
コマ撮り撮影に必要な模型の性質は、
- 関節が動くこと
- ポーズを固定できること
です。
ですから、針金のような骨組みを内蔵させれば、ぬいぐるみでもコマ撮りが出来るようになります。
今回制作する恐竜模型は、2本足で歩く恐竜をモデルにしています。
以前、4本足で歩くマンモスを作ったら、撮影が二人がかりで大変だったからです。
恐竜模型工作の、初めの問題は骨組みの構造です。
アルミの針金などを芯にした場合、工作自体は簡単ですが、関節部分から規則的に曲がる様子を表現しにくかったり、足の関節のように、動きの大きな部分は、針金が金属疲労を起こして、早期に破損する恐れが出てきます。
少なくとも、撮影期間中に金属疲労で関節が折れて使えなくなることは避けたいので、足関節だけは、構造は複雑になってしまいますが、球体を使った関節を使うことにしました。
それ以外の、動きの小さなところは、金属疲労も少ないと判断し、工作性を優先して、シンプルにアルミの針金を骨組みにしています。
この恐竜模型制作の様子は、随時、写真付きで進行状況を発信していますので、興味のある方は下記ページをご覧ください。
https://wp.me/p4vWPD-mkT
恐竜模型完成後の話ですが、従来のように、「森のミニチュアセットを作って、その中で撮影する」ということはしないつもりです。
撮影は基本的にグリーンバックで行って、背景や全景を合成します。
こうすることで、「歩いている横からの姿」を1回撮影すれば、同じ構図や光の角度である限り、
- 森のシーン
- 洞窟のシーン
- 砂漠のシーン
- 建物内のシーン
などに使いまわし出来るメリットがあります。
同じような構図で、同じような動きを、背景を変えて繰り返し撮影するより、その労力を、別の構図の映像、別の動きの映像の撮影に振り向けて、グリーンバック映像としてストックすれば、はるかにたくさんのバリエーションが用意できて、作品に利用しやすくなることを狙っています。
いずれは、DIY映画倶楽部で「コマ撮りのワークショップ」などを開催して、実際に恐竜模型でコマ撮りを行っていただく機会も用意したいと思っています。
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