私がメイキング映像の制作を勧める理由・作り手と観客の意識にある大きなギャップ
完成品しか見られたくない理由を考える
twitterなどでも発信しているので、ご存知の方もあるかと思いますが、私は2021.07現在、ストップモーション撮影用の恐竜模型を制作していて、その様子を随時、発信しています。
この恐竜を使う映画のシナリオはまだ完成していない上、特定の映画の場面を撮影すると言うより、使い回しのきく恐竜映像のストックを撮影しようと思っています。
そして、この工作の過程自体も「オンライン教材」として構成して販売する予定です。
そのため、映像で記録しながら工作をしているわけです。
映画づくりという創作の魅力は、その過程にあります。
もちろん、作品を完成させることが前提であり、目標ですが、「完成品が欲しい」だけでなく、「完成に至る工程を楽しみたい」というのが本音です。
多くの創作者が、なかなか作品を完成させられないにもかかわらず、創作をやめられないのはそのためではないでしょうか。
ところが、観客に対しては、「完成品だけ見せればいい」と何故か思ってしまう傾向があります。
「完成前の、制作過程は見てほしくない」という意識が強いように思います。
それは何故か。考えてみます。
- 新鮮な気持ちで作品を見て、楽しんでもらいたい
- きれいに整っていない舞台裏を見せたくない
- 未完成の状態を見て、作品が不出来だと判断されたくない
どれも理解できます。
「新鮮な気持ちで作品を見てもらいたい」という気持ちは、特によく分かります。
作品の中に、観客を驚かす仕掛けや展開がある場合は、先に種明かしを見せてしまうと、面白さが半減してしまうと考えるからです。
私も以前は、関係者や友人に「編集途中のもので良いから見せてくれ」と言われても、抵抗がありました。
「完成品だけを見て欲しい」と思っていました。
舞台裏も余り見せたくないことが多いと思います。
確かに煩雑で、見栄えのしない状態であることは多いでしょう。
「緻密に計算して、スマートな体制で撮影している」というのを目指していても、現場は計画通りには事が進まず、常にバタバタで、その場しのぎの積み重ねで、何とか乗り切っていたりします。
私の場合、例えば、カメラの設置一つ取ってみても、場面によっては、専門家に見られたら叱られるような、とんでもなく不安定な状態で撮影していたりします。
それを見られたくない、という気持ちもわかるんです。
まだ、整えられていない未完成の映像を見せて、「この作品はつまらなそうだ」と判断されることも不本意です。
「いや、その場面は、このあと映像を合成して、迫力のある場面になるんです」と言い訳したくなります。
しかし、厳しいことを言えば、我々、凡才の作る映画は、完成品でそれほどの魅力を感じさせられないのが現実です。
理由は簡単です。
観客は普段、超一流のクリエイターが作る、ドラマや大作映画などを、とても気軽に見ていて目が肥えているからです。
あなたの作品を見る観客は、そんな一流の人達が作った作品ですら
- 脚本が甘い
- 設定がおかしい
- 演出のテンポが悪い
と平気で辛辣に批評出来る人たちなんです。
私達がいくら頑張ったところで、「アマチュアが作ったにしてはよく出来ている」というレベルでしか、評価はされないのが現実です。
だからこそ、「完成品」だけで勝負しようとしてはいけないんです。
メイキングが有効な理由
作品の採点は、あくまで完成品で行うべきです。
しかし、私達が趣味でDIY映画を作るのは、採点で高得点を取るためと言うより、創作の魅力そのものを楽しむためではないでしょうか。
はじめに書いたように、創作の魅力は「過程」にあります。
メイキングは正に過程を記録したものですから、「過程の魅力」を効果的に伝えることが出来るはずです。
価値観を共有できる人にとっては、そのメイキング自体が、とても楽しいものと理解できるでしょう。
同じように物作りをしている人にとっては、楽しいだけでなく、技術的にもとても参考になるはずです。
完成品のイメージに至る「途中工程の手法」などには、様々な可能性があって、他人のやり方を見ると、全く新鮮な情報が多く含まれていたりするからです。
面白いことに、メイキングで具体的な手法などを紹介すると、「自分では全く創作を行わない人」も楽しんでそれを見ることが多いようです。
一切、料理をしないのに、料理づくりの動画を見たり、絵を描かないのに描き方の動画を見る、という話もよく聞きます。
私も過去に電子書籍で「工作シリーズ」として
- モンスターマペットの作り方
- ミニチュア遺跡の作り方
という2冊を出版しました。
これは、特撮ワークショップで使用するために、モンスターマペットと遺跡のミニチュアを作る際、記録しておいた写真を使って解説したものです。
これを読んで、実際に同じような工作をする人は、まず存在しないと思います。
当時は、完全に冗談のつもりで出版した書籍です。
しかし、意外なことに、私の書籍の中でも比較的よく読まれています。
つまり、体裁としては「作り方の解説」ですが、見る方はそれを参考にしたいわけではなくて、「なんか面白いことやってるなあ」という「エンタメ」として楽しんでいるということではないでしょうか?
そうです。メイキングは独立したエンタメになり得るんです。
メイキング映像の公開には、いくつものメリットがあります。
その一つは、本編が完成する前に情報を小出しにして、興味を引けるという事です。
私達のDIY映画は、劇場公開作品のように、コマーシャルが必要なわけではありませんが、完成前に情報を公開することは有効です。
まず、部外者の人たちに「何か面白いことをやってるなあ」と感じてもらって、メイキング自体を楽しんでもらえるということ。
これは、観客や仲間になってもらえる可能性も出てくるという意味で、コマーシャル的です。
もう一つは、関係者や内部スタッフに対する、慰労と進捗報告です。
映画製作には、ある程度の時間がかかります。
特に、プロでないスタッフや出演者にとっては、完成までの時間が、想像よりかなり長いはずです。
ワンポイントで参加した出演者やスタッフは、参加後、すぐに作品が完成して見られるようになると思っています。
実際は、忘れた頃に「完成しました」と報告されるわけです。
長い時間が経ってしまっているので、もう既に興味が失せていることも多く、熱が冷めた状態で作品を見ても、それほど楽しめませんし、次回作に協力する意欲も起きないでしょう。
こまめにメイキングを公開すれば、「時間は掛かってるけど、監督は一生懸命作業を進めてるんだなあ」と知ってもらえます。
参加した人の熱を冷まさない為にも、進捗報告を兼ねたメイキングの公開は重要なわけです。
メイキング撮影の工夫
メイキング映像の撮影はそれほど難しいものではありませんが、実はかなり面倒です。
特に、工作の工程を撮影するような場合、撮影せずに工作に集中するのと比べ、作業性はかなり落ちてしまいます。
どうしても片手間の撮影になってしまうため、「肝心なところを撮り忘れた」ということも頻発するでしょう。
最近は、手芸や料理の工程を撮影して公開する人が多いので、専用のスマホアダプターのようなものも売られています。
首から下げたホルダーにスマホを取り付けた状態で撮影できるので、わざわざ撮影のセッティングをする、という意識や準備をしなくても、撮りこぼしなくメイキング映像の元が手に入ります。
映画撮影現場や裏方作業の映像を使ってメイキングを作るためには、監督やメインのスタッフ以外の人に撮影を依頼すると良いでしょう。少なくても監督が片手間に撮影することは不可能です。
理想は、メイキング映像用のカメラマン担当を確保することです。
周囲の人にも、メイキング撮影することを予め伝えておいて、基本的にメイキングのカメラは無視してもらうようにしておくと、やりやすいでしょう。
その他にも、「手が空いたとき、手持ちのスマホで、出来るだけメイキング用の映像を撮影して提供して欲しい」と伝えておくことで、思いのほか魅力的な場面が手に入ったりします。
可能であれば、是非、お願いしたいところです。
通常、メイキング映像は、本編DVDに収録する「オマケ」というように考えると思いますが、この認識は改めるべきです。
メイキングは、本編とは独立させても成り立つほどの魅力があるコンテンツです。
場合によっては、楽しい「メイキング映像」がメインで、「完成映像」がオマケということにしてもいいかもしれません。
そして、メイキングの公開時期も随時行うべきです。
メイキングをオマケと考えてしまうと、本編完成後にしか公開できないので、前述の宣伝効果や関係者のモチベーション維持に利用できないのです。
メイキング映像制作の難点は、編集作業かもしれません。
本編と違って、予め完成形が定まっていないので、臨機応変の編集作業が必要になる上、無計画に撮影した膨大な映像を取りまとめることになります。
せっかく長時間撮影しても、使えるのはほんの短い時間でしょう。
しかし、その短い情景の積み重ねに、どれほどの価値があるか、後々、痛感することになります。
私も、小道具の工作など、比較的、記録を残しながら作業を続けている方ではありますが、古い作品を見るたび、「メイキングを撮っていたら、見直す楽しさは倍増しただろうなあ」と少し、後悔しています。
あなたは、是非、今後のご自身の創作活動において、普段からメイキング映像を撮影するようにしておいてはいかがでしょうか?
DIY映画倶楽部では、いずれ、会員の皆さんからお預かりしたメイキング映像を見やすく編集する簡易サービスも用意したいと考えています。
DIY映画倶楽部のご案内
創作活動としての映画製作は最高に楽しいものです。
昔はネックだった撮影・編集環境も、現代では簡単に手に入ります。スマホをお持ちの時点で最低限の環境はすでに揃っているとも言えます。
- 趣味がない人。新しい趣味で楽しみたい人
- 自分の創作がしたい人
- 映像作品に出演して目立ちたい人、目立つ必要がある人
にとっては最適の趣味であることに間違いありません。
ただ、実際の映画製作には多くの工程があり、全てのノウハウを一人で身に付けて実践しようとすると大きな労力と長い時間が必要になります。
DIY映画倶楽部は入会費無料の映画作り同好会です。
広い意味でのストーリー映像を作るためのノウハウを共有し、必要であれば技術的な支援もしながら、あなたの創作活動をお手伝いします。
詳しくは以下の案内ページをご確認ください。
Why I Recommend Making Behind-the-Scenes Videos: Bridging the Gap Between Creator and Audience Perspectives
Why Creators Hesitate to Share Anything but Finished Works
As you may know from my Twitter posts, I’ve been documenting the process of creating a stop-motion dinosaur model since July 2021. The final script for the film featuring this dinosaur isn’t yet complete. My current goal is to create stock footage of versatile dinosaur scenes for potential reuse. At the same time, I’m planning to structure this model-making process into an online course for sale. As such, the process is being recorded step by step.
The charm of filmmaking lies in its journey. While completing a project is the primary goal, for many creators, the real joy comes from the process itself. That’s why so many creators continue their crafts even if their projects remain unfinished.
However, creators often feel strongly about showing only completed works to their audience. There’s hesitation, even resistance, to revealing the behind-the-scenes process. Why is that? Let’s think this through:
- They want audiences to experience the final piece with fresh eyes and enjoyment.
- They’re reluctant to expose the chaotic, unpolished aspects of production.
- They fear audiences might judge the project as subpar when it’s still incomplete.
These are all valid concerns, especially the desire to maintain an element of surprise in the finished work. In the past, I, too, resisted showing draft edits or half-complete projects, even to friends. The thought of unveiling the chaotic behind-the-scenes—or the occasional slapdash setup—felt uncomfortably personal.
But here’s the reality: amateur creators like us rarely produce works that can compete with professional-grade projects. Modern audiences are accustomed to critiquing top-tier dramas and blockbuster films, often dismissing even those as having “poor pacing” or “flawed scripts.” The truth is, if we aim only to showcase polished works, we may miss an opportunity to connect with viewers in a more meaningful way.
The Case for Behind-the-Scenes Content
The joy of creating DIY films lies in the process. Behind-the-scenes content highlights this journey, offering insights that resonate deeply with fellow creators and enthusiasts alike. The “how-to” aspects of behind-the-scenes content often captivate viewers, sparking fresh ideas or technical inspiration for their own projects.
Interestingly, behind-the-scenes footage also appeals to those with no intention of creating themselves—much like people who enjoy watching cooking videos despite never entering the kitchen.
In the past, I published two ebooks as part of my “Crafting Series”: How to Make Monster Puppets and How to Build Miniature Ruins. While I initially created these books for workshops, they unexpectedly became popular as entertainment rather than instructional guides.
This shows that behind-the-scenes content can stand as independent entertainment. Its ability to engage audiences before the main work is completed is especially advantageous for DIY creators like us, who rely on building communities rather than traditional marketing.
Practical Tips for Documenting Behind-the-Scenes
Recording the process can be tedious, particularly for crafting work. Tasks take longer when interrupted by setup for filming, and important steps can easily be missed. Thankfully, tools like neck-mounted phone holders simplify capturing footage without disrupting the workflow.
For more expansive film sets, designating someone as a dedicated behind-the-scenes camera operator is ideal. Informing the crew in advance helps normalize this practice, allowing candid, unobstructed documentation. Encouraging cast and crew to occasionally capture spontaneous moments on their phones can also yield unexpected gems.
Remember, behind-the-scenes videos don’t have to be “bonus content” included with completed works. On the contrary, they can serve as standalone entertainment—and, in some cases, the main attraction. Sharing behind-the-scenes progress keeps collaborators motivated and maintains excitement among participants, fostering a sense of ongoing engagement.
Lastly, while editing behind-the-scenes footage can be daunting, the value it adds to the project and the memories it preserves are immeasurable.