手塚治虫が採用していた「スターシステム」を低予算映画制作に応用する
映画が芸術であるべきと考える狭量さ
まず、大前提としてあるのは、「映画には様々なタイプのものがある」という事です。
とかく、知識がある人は、自分の価値観に合わない種類の映画に対して「あんなものは映画ではない」と言う傾向があります。
黒澤明映画のように、「カメラの前に全てを準備してそれを撮影すること」が唯一絶対の王道と考えてしまうと、映画は舞台演劇を撮影するようなやり方で作るものばかりになってしまいます。
はっきり言って、このやり方では、アマチュアが低予算で映画を作ることは不可能です。
あるいは、低予算ならではの、非常に身近な場面ばかりの、こじんまりした作品以外は作れないことになります。
確かに贅沢に準備をして、カメラの前にすべての状況を揃えて撮影するタイプの映画も素晴らしいですし、「映画は芸術だ」と考えれば、「それが当たり前のあるべき姿」と考える人もいるでしょう。
でも、映画はもっと自由な筈です。
映画は演劇と違って、「映像」というメディアを使った創作ですから、映像のメリットを十分に活用することで、より自由度のある作品が作れるはずなんです。
モンタージュを十分に活用する
映像作品の最大の特徴は、全く別々に撮影した素材を繋ぎ合わせることで、実際には存在しなかった場面や状況を作れることです。
「モンタージュ理論」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
全く同一の映像も、前後の映像と組み合わせることによって、観客は違う意味を感じ取ることが出来る、というものです。
非常にシンプルに使うと、例えば、
・部屋の窓から外を眺めている主人公
という映像の前後に、どんな景色を繋げるかによって、その場面の「場所」を設定することが自由に出来ます。
・道の向こうに見える海
という映像を繋げれば、その部屋は海辺の街にあることに出来ますし、
・工場のビル群
という映像を繋げれば、舞台は工業地帯になります。
実際に、窓から海や工場が見える部屋で撮影しなくても、モンタージュ理論を応用すれば、希望するシチュエーションの舞台にはなるということです。
このようにシンプルにカメラの切り替えで、別の場所の映像を見せることで場所を表現することも出来ますが、今は映像をデジタル編集出来る時代です。
もっと直接的に、窓の外に別の景色を合成することも可能です。
芸術に工業的生産性を取り入れた手塚治虫
映画の手法を積極的に作品に取り入れた漫画家に、手塚治虫がいます。
正確に言うと、映画の手法を漫画の世界に取り込むことで、現代の漫画のフォーマットを確立したのが手塚治虫と言えるでしょう。
彼の取り入れた手法に、「スターシステム」というものがあります。
ある作品に登場したキャラクターを、まるでその俳優が他の作品に違う役で出演しているかのように、そのままの姿で登場させることです。
これは、手塚作品のファンであれば、おなじみのキャラクターが別の役で登場することが単純に楽しいですし、作り手としてもメリットがあります。
作品ごとに完全なオリジナルキャラクターを生み出す労力を、大幅に削減できるということです。
更に手塚治虫は、映像作品であるアニメーションにも「バンクシステム」という手法を積極的に活用しています。
これは、例えば、鉄腕アトムが笑顔で話をしている映像(セル画)をストックしておいて、全く別の場面でも演技が共通している場合は再利用する手法です。
アニメーションは、背景の絵だけ入れ替えることが出来ますから、観客は別の場面として違和感なく鑑賞することが出来ます。
この考え方は、当時はかなり批判されたと聞きます。
「大幅なコスト削減が出来るからと言って、創作活動で、そんな手抜きをして良いのか?」という批判です。
芸術家であれば、手間やお金を惜しまずに、別の場面であれば、別の映像を新たに作るべきだ、という考えです。
あなたもそう思いますか?
答えは、画家を始め多くの芸術家が、昔ながらの考えで活動を続けようとして経済的に破綻してしまい、ほとんどの人が廃業していることから明らかです。
手塚治虫も、バンクシステムを採用しなければ、エポックメイキング的な鉄腕アトムのアニメーションも完成させられなかった筈ですし、スターシステムを採用しなければ、漫画の作品数ももっと少なかったかもしれません。
使い回しを考慮した映像作り
私達が作るDIY映画は、多くの場合、趣味の活動です。
「趣味なんだから、生産性など考えずに、じっくり本格的に作ればいいじゃないか」と思うかもしれませんが、全く逆です。
趣味だからこそ、生産性を意識しないと、いつまで経っても完成させられず、本来はもっと楽しめるはずの活動自体を止めてしまうことになるんです。
私は、違う作品や違う場面に使い回しが出来る「ストック映像」を十分に活用することが、大きなポイントになると考えています。
ストック映像は、映画の中で一般的によく使われています。
山火事の場面で、実際の山火事の時に撮影されたストック映像を使ったりします。
映画「ロッキー」なども、クライマックスの試合の場面、注意深く観てみると、競技場遠景の観客が大勢写っているショットは、「ロッキー」のために撮影されたものではなく、ストック映像だと思われます。
ストック映像を使えることで、労力を大幅に削減でき、そのエネルギーを別の場面に振り分けることが出来るはずです。
私達が利用できるストック映像にも色々なものがあるはずです。
景色などはもちろんですが、特に私の場合は「升田式スーパープリヴィズ方式」として、グリーンバック合成が基本です。
シーンごとの室内映像などもストックすることで、超低コストでその場面を再現できます。
それに加えて、私は、恐竜などのクリーチャーのグリーンバック映像も、全て「ストック映像」として撮影しようとしています。
・撮影する角度
・照明
・動き
などを変えた、色々なバリエーションのクリーチャー映像をストックしておけば、新作を作る際、必要な追加撮影をするだけで、十分な映像が確保できます。
鉄腕アトム同様、背景を変えることで、全く別の場面に出来るからです。
私の主宰する「DIY映画倶楽部」では、会員にもストック映像提供をお願いして、会員間で利用出来るようにする構想です。
もちろん、私がストックとして用意する恐竜映像なども使ってもらえるので、話の内容によっては、ご自分たちの姿だけ新規撮影して、恐竜映画が作れるかもしれません。
非常に手間の掛かる恐竜映像撮影にエネルギーを使わず、物語づくりに注力すれば、より面白い作品も作れるでしょう。
私も、自分で作った恐竜模型映像を、スターシステムのように使ってもらえる楽しさを味わえます。
普段から映像をストックする意識を持っていると、新作を作るたびにストック映像が増えていくので、製作コストがどんどん下がる可能性があります。
よりDIY映画制作を気軽に楽しめるようになる筈です。
是非、参考にしてみてください。
DIY映画倶楽部のご案内
創作活動としての映画製作は最高に楽しいものです。
昔はネックだった撮影・編集環境も、現代では簡単に手に入ります。スマホをお持ちの時点で最低限の環境はすでに揃っているとも言えます。
- 趣味がない人。新しい趣味で楽しみたい人
- 自分の創作がしたい人
- 映像作品に出演して目立ちたい人、目立つ必要がある人
にとっては最適の趣味であることに間違いありません。
ただ、実際の映画製作には多くの工程があり、全てのノウハウを一人で身に付けて実践しようとすると大きな労力と長い時間が必要になります。
DIY映画倶楽部は入会費無料の映画作り同好会です。
広い意味でのストーリー映像を作るためのノウハウを共有し、必要であれば技術的な支援もしながら、あなたの創作活動をお手伝いします。
詳しくは以下の案内ページをご確認ください。
Applying Osamu Tezuka’s ‘Star System’ to Low-Budget Filmmaking
The Narrow-Minded Idea That Films Must Be Art
First and foremost, it’s important to recognize that films come in all types. However, knowledgeable individuals often dismiss genres that don’t align with their values, declaring, “That’s not real cinema.”
If one subscribes to the Kurosawa ideal—where the entire setting must be meticulously prepared and shot in front of the camera—it would limit filmmaking to a theatrical-like approach. Such a notion makes it nearly impossible for amateurs to create films on a tight budget, leaving only modest works with local, everyday settings as viable options.
Certainly, the lavish preparation and camera-centric approach of such films are admirable. For those who consider film a form of high art, this may seem like the obvious gold standard. But cinema should be far freer. Unlike theater, filmmaking is a creative expression through the medium of visual storytelling, offering endless flexibility if we embrace its advantages.
Fully Utilizing Montage
The defining feature of films is their ability to stitch together separately shot elements to create scenes or scenarios that don’t exist in reality. You’ve probably heard of “montage theory.” This theory posits that even identical footage conveys different meanings depending on the preceding and succeeding shots.
For instance, consider the following scene:
- A protagonist looks out the window.
What we see through that window can define the setting:
- If it cuts to an ocean view, the story unfolds in a seaside town.
- If it’s a shot of factory buildings, the stage shifts to an industrial zone.
Without filming in a specific room overlooking the sea or a factory, you can imply these settings simply by leveraging montage theory. And in the digital age, you can directly composite a different scene outside the window.
Osamu Tezuka: Incorporating Industrial Efficiency into Art
The legendary Osamu Tezuka revolutionized manga by incorporating cinematic techniques, defining the modern manga format. Among his innovations was the “Star System,” where characters from one work would reappear in another, akin to actors playing different roles in separate films.
Fans found it delightful to see familiar characters take on new roles, while Tezuka himself benefited from reduced labor. Developing entirely original characters for each work is a monumental effort, and this system provided a practical solution.
Tezuka also embraced animation’s “bank system,” where existing footage—such as Astro Boy’s smile—was reused in new scenes to save production costs. While criticized at the time as cutting corners in creative work, this approach was vital to completing groundbreaking projects like Astro Boy. Without the bank system, Tezuka might never have produced as many works as he did.
Creating Reusable Footage
For us DIY filmmakers, who often pursue filmmaking as a hobby, embracing productivity is essential. Without considering efficiency, our projects risk remaining incomplete, robbing us of the joy filmmaking can bring.
I advocate the extensive use of reusable “stock footage.” Stock footage is common in mainstream cinema, like wildfire scenes captured during real events or crowd shots in Rocky, likely sourced rather than filmed specifically.
In my filmmaking approach, green-screen compositing forms the backbone of what I call the “Masuda Super-Previs Method.” By storing footage of various interiors or backgrounds, I can recreate settings at minimal cost.
Additionally, I aim to capture all dinosaur and creature footage as stock material. With variations in angles, lighting, and movement, these clips can be reused for future projects by simply adding new background settings. Just as in Astro Boy, swapping out the background creates entirely new scenes.
Building a Stock Footage Community
Through my DIY Filmmakers’ Club, I encourage members to share stock footage for mutual use. The dinosaur clips I produce could allow others to create their own dino films by simply shooting their own scenes. This would let creators focus on storytelling, while leveraging complex creature footage effortlessly.
By routinely capturing stock footage, each new project grows the repository, continually reducing production costs and making DIY filmmaking more accessible and enjoyable. I hope you’ll consider incorporating this approach into your own projects!