「こだわりの構図」は合成で作れ・「撮影」だけで成り立たせるとコストは高くつくという事実
映画の魅力には様々な要素があります。
- ストーリー
- 演技
- テンポ
- 映像
- 音声
あなたはどの要素を重視しますか?
要素の一つである「映像」。
中でも、「構図の面白さ」は大きな魅力の一つです。
構図の基本は、「観客に状況をわかりやすく伝える」というものです。
そのためにオーソドックスな映像理論というものもありますが、そんなに難しく考えなくても、要は、「見ていて分かりにくくてストレスが溜まる」ということさえ回避できればOKだと思います。
その「分かりやすい構図」から一歩進んで、「面白い構図」というものが存在します。
有名な人気監督などは、特徴的な「面白い構図」を効果的に作品の中に取り込んでいたりします。
例えば、庵野秀明監督などは、アニメーション作品はもちろん、実写映画でも、非常にこだわった構図の映像で楽しませてくれます。
特に、庵野監督が時折使う、なんの変哲もない「物」が「キレイに整列している」というだけで「魅力的な構図」として成り立たせる様子には感心します。
私の好きな、実相寺昭雄監督、鈴木清順監督なども、「面白い構図」の名手だと思います。
もっとも「面白い構図」というのも、非常に主観的なもので、人それぞれでしょう。
私の感じる「面白い構図」の一例としては、
- 画面の手前に物が大きく写り込んでいる
- 画面の奥に対象が小さく写り込んでいる
というような、遠近感を誇張したような構図です。
そのような構図が魅力的に使われている作品を見ると、「こんな感じを真似て撮影してみたいなあ」と単純に思ってしまいます。
ところがです。
そんな映像をイメージして、「絵コンテ」として形にして撮影に臨むのですが、実際の撮影現場で、そのイメージ通りの構図を再現するのに苦労することが良くあります。
例えば、
- 画面の右側奥に、人物Aが小さく見える
- 画面の左側手前に、人物Bの足元が写っている
という映像を想像してみてください。
カメラは、地面のすぐ上にあるイメージです。
実際に、カメラを低いところに設置して、人物A、人物Bの配置を調整しながら撮影するのが、当たり前のやりかたです。
ところが、実際にやってみると、大抵の場合、イメージ通りにはならないんです。
イメージに近付けるためには、レンズの種類を変更したり、撮影時の「絞り」を変更して「ボケ具合」を調整したり、そもそも、地面に穴を掘って、カメラの高さを調整する必要が出てきたりします。
それはそれで作業として楽しいのも事実なんですが、撮影時に度を越して時間を掛けると、ろくなことはありません。
野外の撮影では、モタモタしていると、あっという間に太陽の位置が変わってしまったり、光の色が変化してしまいます。
そんな状態で撮影すると、本来、一連であるべき映像が、一連に見えなくなる危険が高くなるんです。
そもそも、1カットごとに時間が掛かると、1日に撮影できる分量が少なくなります。
「1日に少しずつしか撮れなくても、丁寧に少しずつ撮影すれば、その分、いい作品になるだろう」と思ったら大間違いで、特に同一のシーンを数日掛かりで撮影してしまうと、「映像の繋がり」が不自然になりがちで、大抵の場合、非常にみすぼらしい映像になってしまいます。
苦労して手間を掛けた上、みすぼらしい映像になってしまっては残念だと思いませんか?
映画は映像作品です。
映像のメリットの一つは、嘘をつきやすいことです。
映像づくりに効果的な、楽しい嘘をつきましょう。
そのための方法の一つが特撮です。
もう一度、
- 画面の右側奥に、人物Aが小さく見える
- 画面の左側手前に、人物Bの足元が写っている
という映像を想像して、今度は特撮を応用して再現することを考えてみます。
特撮、この場合は「映像の合成」ですが、考え方としては、まず、完成映像要素を分解します。
- 景色の中の人物A
- 手前にある人物Bの足
の2つに分解して考えられれば、実際の撮影手順が見えてきます。
この2つの要素を、一度に撮ろうとするから、難しいんです。
まずは、
- 景色の中の人物A
をカメラの位置を低くして撮影します。
もし、手前の地面も写り込ませたい場合、地面に穴を掘ってカメラをより低い位置に設置するのではなく、逆に、カメラの前に「ニセの地面」が映り込むようにしてはどうでしょう。
地面が土であれば、用意しておいた小さな板や箱に砂を乗せれば良いでしょうし、地面がアスファルトであれば、予め、100均ショップで買える「コルクシート」を灰色に塗装したものを写り込ませればそれらしく見えます。
このような「トリック撮影」を使って、手早く
- 景色の中の人物A
を撮影してしまうのがポイントです。
- 手前にある人物Bの足
は、足が動いている場合と止まっている場合で撮影方法が変わります。
足を動かす必要があるのであれば、手間ですが、グリーンバック撮影をします。
撮影スケジュールを考えれば、別の日に別撮りでも良いでしょう。
足が止まっていて良いのであれば、背景はどうでもいいので、足だけを必要な構図で写真撮影します。
静止画を足の輪郭に沿って丁寧に切り抜けば、
- 景色の中の人物A
の映像に、キレイにデジタル合成できます。
グリーンバック撮影した場合も同様に、クロマキー合成の機能を使って、デジタル合成します。
このように、要素を分けて、別々に撮影して合成することのメリットは、撮影時間の短縮だけではありません。
「面白い構図」を作り込むための試行錯誤を、編集の段階で行えるのが最大のメリットです。
- 手前の足を合成する位置
- 足の大きさ
- ピントのボケ具合
などを、編集作業で色々と試せるわけです。
例えば、ピントを合わせる位置を、人物AからBの足にスムーズに変える、というようなことも、編集作業で擬似的に行ったほうが、自由度が大きくて楽にできます。
これを撮影時に再現しようと思ったら、相当に苦労します。
構図の工夫については、アニメーション作品が参考になることも多くあります。
実写作品も、映像合成を利用することで、アニメーション的な感覚で作り込むことが可能になります。
今回は「構図作り」を楽しむために、特撮を応用する例を紹介しました。
参考になれば幸いです。
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