特撮事例:船に乗り込む群衆・構図を工夫してグリーンバック撮影無しで合成映像を作る
グリーンバックを使わない合成特撮
主催しています「DIY映画倶楽部」では、サークル活動としての自主映画制作とともに、実は、低予算映画制作集団のスタッフ育成も目論んでいます。
しかし、今のところ、コロナの影響もあり、目立った活動は出来ていません。
それとは別に、「シーンに合わせた特撮アイデアを提供します」という有料サービスも行っていて、時折、相談があります。
先日あった相談を元に、合成特撮の案と、考え方を紹介したいと思います。
ご依頼者様が製作中の映画の設定等は伏せますが、簡単に言うと、「群衆が船に乗り込むシーンの映像」をどうやって作るか、が課題です。
「港にやや大きな客船か貨物船が停泊していて、数十人の群衆が列を作って乗船している」
という情景を思い浮かべてください。
低予算の自主映画では、あまり見かけないスケールの映像です。
あなたなら、どういう構図で映像を作りますか?
まず、認識してほしいのは、
- 構図は無数にある
という事です。
どれが正解で、どれが失敗ということはありません。
しかし、
- どういう構図でもいい
という訳ではないことに注意してください。
理由は、
- 構図によって、その映像を作るためのコストや手間に雲泥の差が出てしまう
からです。
まず、「実際の港に設定にぴったりの船を用意して停泊させ、必要な人数のエキストラを集めて撮影する」という事が論外なのは分かると思います。
前提として、船はミニチュアか写真を合成することにします。
CGを使えば、ゲーム画面を見ればわかるように、どんな映像でも作れるとは思いますが、とりあえずCGも無しとします。
ジオラマと呼ばれる情景模型を作って、そこに、グリーンバック撮影した人物を合成する、という手法も考えられますが、今回は、グリーンバック撮影も無しとしてみます。
さらに条件を厳しくして、撮影現場には出演者・スタッフ合計で5人しかいない、としましょう。
この条件で、
「港にやや大きな客船か貨物船が停泊していて、数十人の群衆が列を作って乗船している」
という映像を形にするにはどうしたらいいか。
ここで一つ覚えてください。
映像合成の手間に一番影響するのは、
- どちら側から見た映像にするか
という事です。
これは、実際に作業の数をこなさないと実感は出来ないと思いますが、一番簡単で、質的にもアラが目立たない、つまり自然に合成できるのは、
- 「手前に」切り抜き写真を合成した映像
なんです。
仮に、これを「シール法」と呼びましょう。
私も自分の作品の中に使う特撮の70%は、この「シール法」を応用した手法です。
「手前」にある設定のものを、「手前」に合成することが基本と考えてください。
それで対処できない場合は、段階的に、より難易度の高い手法を検討します。
ここでは、「船」を手前に合成するのが、最も簡単な選択肢だと思います。
つまり、
「停泊した船の『向こう』に、乗船している数十人の群衆が見える」
という構図の映像になります。
これで方向が決まりました。
ここで、疑問を感じる人がいるかもしれません。
「船の向こうに桟橋が見えるということは、カメラは海の上から撮影しないといけないじゃないか」
という疑問です。
実は、撮影を意識せずにイメージ先行で絵コンテを描いてしまって、当日、撮影現場にはカメラを置く位置が無くて途方に暮れる、という話も聞きます。
アニメ作品と違って、必ず「撮影場所」が必要ですが、撮影に慣れていないうちは仕方ないことかもしれません。
「カメラ位置が海の上になってしまう」と心配した人は、少なくとも、撮影状況を想像できた人です。
でも、特撮で映像を作る場合は、もう一歩踏み込んだ想像力を働かせてください。
特撮は「実際はxxだけど、完成映像ではxxに見える」というものです。
港の桟橋も、「港の桟橋に見える場所」で撮影すればいいんです。
撮影のシミュレーション
例えば、コンクリートで護岸された川の土手などはどうでしょう?
上が歩道になっていて、ガードレールが無い土手です。
大きな川だとちょっと面倒ですが、対岸どうしで会話できるくらいの規模の川の土手だと、撮影に使えそうです。
カメラは対岸に置き、土手を真横から撮影します。
土手の上に人を立たせて撮影し、その映像の手前に船を合成することで、「土手」は問答無用で「港の桟橋」に化けます。
次の問題は、群衆の人数です。
カメラマンを引くと、映り込むことが出来る人数は4人しかいません。
この4人を数十人に見せるにはどうしたらいいでしょう?
4人は近くに固まった状態で、立ち位置を変えずに撮影します。
つまり、移動しない範囲で、会話をしたり掴みあったり、動いている演技をします。
10秒ほど演技をしたら、4人とも少し移動して、先ほどの位置と重ならない場所で同様に撮影します。
これを画面の端から完成映像で船に隠れるあたりまで繰り返します。
ポイントは、この一連の撮影を、固定カメラで、録画を止めずに一気に行うことです。
撮影の間、カメラは一切、動かしてはいけません。
次に、カメラに一人ずつ、すっぽり入るくらいにアップにして、色々なポーズ、色々な体の向きになるようにして、合計20枚程度の写真を撮ります。
動画で撮影して、後から静止画出力しても構いません。
以上で撮影は終了です。
船の写真は別途用意しておきます。
合成編集で画面を構築する
ビデオ編集ソフトで、撮影した映像を合成していきます。
まずは、「動いている群衆」。
4人ずつ、位置が重ならないように10秒ずつ撮影した映像がありますよね?
その映像から「移動している部分(本番以外の部分)」を削除して、本番の10秒ずつの映像だけ残します。
初めに撮影した映像をベースにして、その上に、次に撮影した映像を重ねます。
そのままでは、下に隠れた映像が見えなくなってしまいますが、上に重ねた映像のうち、4人が映っている範囲だけ残して映像をトリミングします。
例えば、Adobe Premirereなどであれば、上下左右を自由にトリミングできる「クロップ」という処理です。
クロップを使うのであれば、上に重ねた映像の、左右だけトリミングすれは、重ねた2つの映像の「4人の映像」がそれぞれ見えるようになります。
これで画面上は8人になります。
これを、4人ずつ撮影した映像の全てについて繰り返します。
作業に慣れていれば、10分程度で作業は完了するはずです。
これでまず、「堤防の上に、4人ずつ固まっている人の映像」が出来ました。
でも、これだと、どうしても「4人ずつ固まっている」ということが目立ってしまいます。
そこで、次の処理をします。
次に使うのは、1人ずつ撮影した写真です。
動画から静止画出力した画像でも構いません。
この写真を、画像編集ソフトのフォトショップ等で開いて、丁寧に人物を切り抜きます。
切り抜き方は色々あるので解説はしませんが、ポイントは、「背景が透明になる」ような設定で切り抜くことです。
背景が透明になる設定(マスク情報を持った状態)の画像は、背景映像の上に重ねるだけで、背景映像と合成が出来ます。
この画像を先ほど作成した「堤防の上に、4人ずつ固まっている人の映像」の上に合成します。
比率が違うはずなので、編集操作で縮小して、背景の人物にサイズを合わせます。
この、「切り抜いた人物映像」を適当な位置に配置します。
そうすると、「切り抜いた人物の静止画」の向こうに「動いている人」がランダムに重なった状態の映像が出来るので、「4人ずつ固まって撮影した」というイメージを隠せるわけです。
一見、数十人の群衆に見えると思います。
注意深く観察すれば、同一人物がたくさん登場している上、手前の人物は動いていないという映像ですが、映画の中で1ショットは、恐らく数秒しか使いません。
その数秒、観客を騙せれば、役割は果たせるのです。
あとは仕上げとして、一番手前に船の切り抜き写真を合成すれば、このショットは完成です。
手前にあることを表現するために、船のピントをややぼかすことも有効でしょう。
文章で説明すると、膨大な作業に思えるかもしれませんが、このシンプルな合成技術を使えば、たった5人で簡単に撮影した映像を使って、
「停泊した船の向こうに、乗船している数十人の群衆が見える」
という、自主映画離れした映像が手に入るんです。
参考になれば幸いです。
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