特撮事例:車の運転席・トリック撮影を用いた安全な運転シーン撮影のコツ
効果的な「運転シーン」
観客は驚くほど飽きっぽいので、視覚的にも出来るだけバリエーションを豊富にする必要があります。
映画は主に
- 野外シーン
- 室内シーン
を組み合わせて構成しますが、それ以外で、使い勝手が良いのが、
- 車を運転しているシーン
です。
登場人物が2人、車に乗っているシーンを作ると、
- シートの座っているので動きがなくても不自然に見えない
- 長目の会話をしても不自然に見えない
- 移動によって物語を進められる
という、メリットがあります。
さらに、特撮を応用して運転シーンを作ることで、時刻や天候にもあまり左右されず、撮影のスケジュールが組みやすくなります。
運転しながらの撮影は危険がいっぱい
車を運転するシーンと言うと、「運転しながらそのまま撮ればいいじゃないか」と思うかもしれませんが、これは極力避けるべきです。
通常のドラマなどでは、車を運転しているシーンは、走っているトラックの荷台の上で撮影したり、別の車で牽引しながら撮影するのが一般的です。
昔の「太陽にほえろ!」などのドラマの場合、カメラをボンネットに取り付けて無人で撮影し、役者が実際に運転しながら録音機のスイッチを入れて芝居をする、というような、無茶な撮影をしていたと言います。
それはそれで楽しい気もしますが、運転しながらの芝居は、思っている以上に危険です。
万が一の事故によって、せっかくの映画作りの楽しさを台無しにしないでください。
それに、無人カメラでは、実は思ったような映像は撮影できません。
特に、フロントガラス越しの2ショットは、ガラスに空が白く反射してしまって、撮影後に見直してみると、人物がほとんど見えなくなっている筈です。
危険を冒す上に、映像的に失敗するくらいなら、最初から停まった車でトリック撮影を使いましょう。
車は、エンジンを切って停車している状態で撮影します。
フロントガラス越しに撮影する際に注意する点は2点。
- 空の映り込み(フロントガラスの反射)を抑える
- 背景が写ることで、走っていないことがバレるかどうか
昼間のシーンの場合は、フロントガラスの反射はまず避けられません。
これを解決するには、日陰で撮影するしかありません。
ガレージや高架下など、フロントガラスに空が反射しない状態にして撮影します。
まずは、走っているように見える以前に、「登場人物が見える状態」で撮影することを優先します。
反射さえ抑えられれば、車内のシーンは、録音も比較的きれいに出来るので、芝居優先のシーンにも向いています。
横から撮影する場合は、カメラ側の窓を開けて撮影します。
この場合は、反対側の景色が丸見えで、車が走っていないことが分かってしまいますから、背景を合成する前提で、向こう側にグリーンバックシートを張ります。
範囲は狭いはずなので、手の空いているスタッフがシートを手で持って撮影してもいいでしょう。
合成用の背景を撮影しておく
走っている車のシーンのためには、走っている車から、背景映像を撮影しておく必要があります。
これは、広角レンズで
- 後部シートから後ろに向かって
- 左右の窓から左右それぞれの方向に向かって
という映像を、それぞれ1~2分間分ほど撮影しておきます。
もうひとつ、有効な映像素材として、「フロントガラスに映り込む映像」があります。
実際に走っている車を前から見ると、フロントガラスには空だけでなく、電線や歩道橋が写ったりします。
その映り込みを合成で加えることで、止まっている車の映像が、走っている映像に見えるわけです。
この撮影は、走っている車の助手席から、カメラを出来るだけ上に向けて行います。
電線や歩道橋の他、街路樹がトンネル状になった道路などの映像も有効です。
このような、合成用の背景映像は、
- 季節ごと
- 場所ごと
に撮影してストックしておくと、別作品でも流用できて便利です。
(DIY映画倶楽部では、ストック映像を共有できるようにします)
合成編集で走っている車のシーンに
撮影してきた映像の編集手順について、簡単に説明します。
撮影した映像を、まず、ドラマ優先で編集します。
次に、止まって見えるカットについて、別撮りの背景映像を合成することで、走っているように加工していきます。
○横からの映像
グリーンバックを使った、横からの映像は、シンプルに横から撮影した背景映像をクロマキー合成します。
○正面映像・背景が見切れてしまっている部分
正面から見た映像で、見切れている背景部分は、後部シートから後方に向かって撮影した背景映像を合成します。
その際の手順です。
- 撮影した正面映像から1コマ静止画書き出しして、そのファイルをフォトショップで開く
- 透明な「新規レイヤー」を追加して、「背景映像を合成したい部分」をグリーンで塗りつぶす
- グリーンを塗ったレイヤーだけ有効にして、ファイルをPSD形式で保存
- 映像編集ソフト上で、正面映像部分に、作成したPSD形式のファイルを被せて、「緑色を合成した動画」を一旦書き出す
- 書き出し動画と背景映像をクロマキー合成する
これだけでも、ある程度、走っている車の感じは出せます。
映画「蘇える金狼」で松田優作がカウンタックを運転しているシーンは、同様のシンプルなクロマキー合成です。
ここでは、さらにリアルに見せるための、「フロントガラスへの映り込み」も追加します。
○正面映像・映り込み追加
フロントガラスに空の映像を合成するためにも、フロントガラス越しの映像から書き出した静止画を使って、中間ファイルを作る必要があります。
- 撮影映像から1コマ静止画書き出しして、そのファイルをフォトショップで開く
- 透明な新規レイヤーを追加して、フロントガラス以外の部分を緑で塗りつぶす
- 緑色を塗ったレイヤーだけ有効にして、ファイルをPSD形式で保存
- 映像編集ソフト上で、「空に向けて撮影した映像」に、作成したPSD形式のファイルを被せて、「緑色を合成した動画」を一旦書き出す
- 「緑色を合成した空の映像」と、先に作っておいた正面映像をクロマキー合成する
- 空の映像の透明度を調整して、フロントガラスにかすかにみえるくらいにする
より、リアルな映像にするためには、AfterEffectsというソフトを使って、合成済みの映像に自然な手ブレを加える手法もあります。
このように、「車を運転している」という身近なシーンも、工夫をすることで、ドラマ並みに見やすい映像を、より安全に低コストで形にできるのが、特撮の技術です。
参考になれば幸いです。
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