映画の完成を早める「シーン構成」・ポイントは撮影スケジュールの立てやすさ
そもそも「シーン」とは?
映画やドラマには様々なシーンがあります。
「シーン」という用語、一般的にはあいまいな使い方をしていることもあるんですが、「場面」のことです。
より具体的に言うと、「撮影場所」と考えてください。
例えば、学校が舞台になっている作品で、全て学校内で撮影する場合。
シーンを「学校」と言ってしまうと、撮影の作業のためには役に立たないんです。
具体的に、学校の中のどこで撮影するのか、という基準で
- 外観
- 昇降口
- 階段
- 教室
という具合に細分化します。
ただこれは、単に作業のやりやすさのための分け方です。
廊下と教室を交互に見せる場面があるとして、厳密にいうと、「廊下」と「教室」は別のシーンとして分けるべき、と厳しく指導する人もいます。
「こんな基礎も知らない脚本家が増えた」と嘆いている大御所の意見も目にしますが、脚本の目的は「脚本の様式の正しさを競う事」ではありません。
はっきり言って、「廊下」と「教室」を分けて表記しようが、「教室」と表記をまとめてしまおうが、撮影の管理上、問題が無いのであれば、どちらでもいいんです。
完成した作品は同一の形になるんですから。
アニメーション映画の傑作で「風の谷のナウシカ」という作品があります。
私は自主映画を作り始めたとき、この作品の絵コンテ(文庫版)を買って参考にしました。
今にして思うと、こんなに完成度が高い絵コンテは、参考資料として逆にふさわしくは無かったのですが、特徴的なのは、「シーン分け」していない点です。
作品全体をAからDの4つのパートに分けているだけで、それぞれのカット(一続きの映像)には、全体の通し番号が振られているだけです。
これを見ても、シーンの分け方にこだわる意味は無いことが想像できます。
ただ、アニメーションと違い、実写映画は「撮影」という作業があります。
実際にそこに行って、映像素材を撮影して集めてくる作業です。
ですから、その場所ごとに分けておいた方が、計画が立てやすいんです。
作品の中に何度も「階段」というシーンが出てくる場合、作業効率の観点から、一度に階段のシーンをまとめて撮ることがあります。
そういう場合、シーン名に「階段」と入っていると、撮影計画が立てやすいことが分かると思います。
シーンには「時刻」という要素もあります。
場所としては同じ「階段」でも、「昼の階段」と「夜の階段」は一度には撮れませんよね?
違う時間に出直す必要があります。
そういう判断のためにも、シーンには「場所」と「時刻」を明記しておくと便利です。
通常は、何も書いていなければ昼間と判断し、昼間以外の場合に、補足として(夕方)などと追記します。
映画は、物語の内容を観客に伝えることで成り立ちます。
物語の内容を伝えるだけなら、主人公が延々と独り言をしゃべってもいいのですが、通常はより面白い映画にするために、「場面」に工夫します。
場面を変えることで、観客を物語世界に引き込むのが、映画の醍醐味の一つです。
何よりも、場面転換は、観客の「退屈」というストレスを和らげる効果があります。
私達の作る低予算の自主映画・DIY映画でも、できるだけ多彩な絵面になるように、たくさんのシーンを組み合わせることがとても有効です。
スケジュールが立てやすい映画とは?
小説や漫画と違い、実際の撮影が伴う映画では、シーンの種類によって撮影スケジュールが大きく変わってきます。
通常は、映画撮影の基本は昼間の野外のシーンと考えるのではないでしょうか?
事実、映画の教科書などでも、昼間の野外シーンがメインで、次に室内シーン、特殊な撮影として「夜のシーン」の説明がされていることが一般的です。
これは、映画をフィルムで撮影していた時代の名残りだと思います。
モニターで見えた通りの映像が記録されるビデオ撮影と違って、フィルム撮影は格段に難しく、失敗の危険も多くなります。
失敗の主な原因は、明るさ不足です。
フィルムを使っていた頃の自主映画では、室内や夜間のシーンでは、光量不足によって、何が映っているかほとんど分からない、という失敗が珍しくなかったんです。
昼間の野外撮影は、明るさは十分にあるので、大きな失敗がしにくい、ということがあると思います。
私が「自主映画・DIY映画に向いている」と考えるシーンは、昔ながらの考え方とは大きく異なります。
「自主映画・DIY映画に向いている」というのは、「手際の悪いアマチュアスタッフでも、比較的撮影しやすい」という意味です。
それは、
- 夜の屋外シーン
- 窓のない室内シーン
です。
理由が分かるでしょうか?
答えは、これらが「天候や時間に左右されにくいシーン」だからです。
昼の屋外シーンは、太陽の動きとの戦いです。
2カットくらいしかないシーンならともかく、台詞のやり取りがある程度ある、長いシーンは、撮り始めと撮り終わりで、光線の色が変わるほど時間がかかってしまうということは、実際に撮影・編集を経験していると実感できると思います。
「1つのシーンはその日のうちに全部撮り切る」というのは有効で、少なくとも1シーンの中で天候が変わってしまうということを防ぎやすくなります。
しかし、設定上、時間的に連続した「別のシーン」もあります。
これは、移動時間やスケジュールの関係で、それぞれを別の日に撮らなければいけないことになりがちです。
すると、シーン1ではピーカンの天気なのに、続くシーン2ではどんよりと曇っている、となる可能性がかなりの高確率で出てきます。
日本はハリウッドのように、晴ればかりの天気が続かないので、仕方ありません。
ところが、同じ屋外シーンでも、それが夜の場合は、天候をそれほど気にしなくても済みます。
星が出ているほど晴れていようが、雨が降る直前というくらい曇っていようが、同じように暗いからです。
撮影の進行も、太陽の動きと競争する必要がないので、多少、モタモタしてしまっても、自分たちの時間が許す限り、同じ条件で撮影を進められます。
窓の映らない室内シーンも同様の条件です。
もちろん、商業映画やテレビドラマのように、大掛かりな照明設備を使っての撮影は出来ませんから、映像は「それなり」のものにはなります。
ただ、フィルムと違って、モニターで確認した通りの映像は撮影出来ますから、「何が映っているのかわからない」という失敗はしません。
「映像はそれなり」という点に我慢が出来ない「映画原理主義」の人は、昔ながらの価値観でじっくりと時間をかけるか、たっぷりと予算を掛けて本格的な撮影をしてください。
私は自主映画を作り始めた頃から、「作品を少しでも早く完成させるためには夜のシーンが有効」と気付いて、多目にしていました。
昼のシーンは「晴れた休日」にしか出来ませんが、夜のシーンであれば、仕事のある平日でも撮影できる可能性があるからです。
映画撮影には時間が掛かります。
そして、長い時間を掛けた分、残念ながら品質もモチベーションも落ちていきます。
多くの場合、企画が頓挫して、作品が未完成に終わります。
私は、DIY映画制作においては、「完成させること」が大前提で最優先と考えます。
そのために、
- 夜のシーン
- 室内シーン
を多くして、スケジュールを組みやすくすることは有効だと思います。
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