特撮映画としての「ドラゴンへの道」・歴史的アクションシーンの背後にあるトリックを楽しむ

ブルース・リー第1回監督作品はゲリラ撮影?

世界中に香港映画、クンフー映画ブームを巻き起こしたスーパースター、ブルース・リーは、約2年間で4本の主演作を完成させて亡くなりました。

その、最高傑作とも言われるのが、この3作目の「ドラゴンへの道」です。

それ以前、香港の弱小プロ、ゴールデン・ハーベストが大金を積んで2本の主演映画出演の契約を結び、香港映画史を塗り替える大ヒットとなったのが、

ドラゴン危機一発

ドラゴン怒りの鉄拳

です。

 

契約した2本が完成した後、ゴールデンハーベストのレイモンド・チョウ社長は、ブルース・リーを他に引き抜かせないために、2人で共同の会社を立ち上げる提案をします。

そして生まれたのが、ブルース・リーを社長とする「コンコルド・プロダクション」で、その第1回作品が、この「ドラゴンへの道」なんです。

 

ここまで2本の主演作が大ヒットして、大スターになったブルース・リーですが、香港の稚拙な映画制作の体制に不満を持っていました。

香港に凱旋帰国するまで、出演者やアクション指導のスタッフとして関わってきた、アメリカの映画界、テレビ界とは比べ物にならないくらい制作体制のレベルが低かったからです。

そこで、俳優としてだけでなく、制作者側にも回ったことで、徹底的にアメリカ式の、効率の良い映画撮影の手法を勉強して取り入れ、自ら、脚本・監督を手掛けることにします。

 

何といってもこの映画の特徴は、香港映画初のイタリア・ローマロケです。

自社のスタジオ撮影とは掛かるコストが違います。

相当に効率の良い撮影が出来ないと厳しいのが、ロケーション撮影です。

 

当時の香港映画は伝統的にシナリオがありません。

スタッフにとっては、ある意味、行き当たりばったりで撮影を進めることになるので、計画的に効率よく作業を進められる訳がありません。

ところが、ブルース・リーは、完全なシナリオの他に、緻密な「撮影用の計画書」まで準備して、この撮影に挑みました。

この映画の撮影を担当したのは日本人の西本正カメラマンですが、「とても新人監督とは思えない手際の良さで驚いた」と言っています。

 

そして、映画のクライマックスは、今ではアメリカのアクション映画俳優の中でもレジェンド扱いになっている、チャック・ノリスとの一騎打ちです。

チャック・ノリスは当時、空手のチャンピオンとして、その世界では有名でしたが、本格的な映画には初出演です。

武道家として意気投合したブルース・リーが出演を持ちかけました。

 

この一騎打ちの舞台に選んだのが、古代の闘技場「コロッセオ」です。

当時の香港映画でこの設定。エンターテイメントとしてのレベルはかなり高いと思います。

 

ここからが、ある意味、特撮的な手法を楽しめる裏話です。

 

コロッセオは観光地ですから、通路など観光客が入れる場所があります。

当時、ヨーロッパで全く無名だったブルース・リーだから出来たことですが、コロッセオの通路を走って敵を探しているシーンなどは、全てゲリラ撮影だったようです。

他の観光客がいなくなったところを見計らって、撮影しているんです。

私たちが学生の頃やっていた撮影と変わりありません。

 

そして、コロッセオの屋内で敵と戦うシーンは、香港のスタジオに組まれたセット内で撮影しています。

このセットを、コロッセオに見せる「工夫」が、シンプルながら効果的なんです。

 

単にアクションを行うだけなら、「コロッセオの中にある部屋」というような閉鎖スペースを創作してしまえば済む話です。

ところが、あくまでも、「みんなが知っている、あのコロッセオの一部だ」と思わせることにこだわっているんです。

それは、格闘シーンの舞台を単なる閉鎖スペースにせずに、奥行きを見せることで表現しています。

背景の一部は壁が無く、屋外の闘技場を挟んだ向こうの構造物が遠くに見えていたり、構図によっては、はるか向こうまで続く暗い通路が見えたり。

この奥行きを、二次元の「写真」で表現しているところが、単純であるにも関わらず、効果的なんです。

写真は、現地でゲリラ撮影しているときに、一緒に撮影してきたスチール写真です。

それを大きく拡大して、セットの壁に貼って、その前で撮影しているんです。

 

もちろん、「映画の撮影はスタジオ内で行われるものだ」という知識もありますし、明るい屋外の背景は、「状況的に考えても写真だな」というのは、現代の観客ならすぐに分るでしょう。

でも、後ろにのびている長い通路の背景も、壁に貼った写真であることには、意外と気付きにくいと思います。

 

こういうシンプルな特撮を笑う人もいます。

そもそも映像的なトリックでごまかすようなことを嫌い、「長く続く通路が映り込むなら、実際にそういうセットを作って撮影するのが正しい映画だ、」と主張する人もいます。

 

私は全くそうは思いません。

実際に奥行きのあるセットを作るよりも、写真を貼って奥行きを表現する方が、むしろ映画としてはるかに面白い、上質なものだと思ってしまうのです。

 

現代であれば、ゲリラ撮影してきた写真を貼ったりせずに、CGで作った映像を合成することも出来るでしょう。

でも、なんでもかんでもすぐにCGに頼って解決してしまうのと、完全にアナログ手法で、強引に雰囲気を醸し出してしまうのとでは、バイタリティーの強さが違うとも思います。

映像づくりが好きな人間としては、「ここはCGの合成だよ」と言われても「ふーん」で終わりですが、「ここは馬鹿みたいに大きく引き延ばした写真を貼ってるんだよ」と言われた方が100倍くらい面白く、その箇所を見直して喜びたくなるんです。

 

ブルース・リーと言えば稀代のアクションスターであり、総合格闘技の始祖ですから、その魅力満載の「アクション」で語られるのが普通ですが、今回は、「ブルース・リー vs チャック・ノリス」の伝説的アクションシーンの、背景に写っている「貼り込み写真」について解説してみました。

 

豆知識として、このシーンにチョロチョロと登場する、子猫の鳴き声も、ブルース・リーが担当していることも加えておきます。

 

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