特撮に使うミニチュアセット工作で失敗しないために材料選びで注意すべきこと

模型と撮影用ミニチュアの違い

最近、ガンダムのプラモデルが売れているそうです。
模型愛好家は、これを機に、子供たちが模型作りの楽しさを知って、モデラ―の後継者になって欲しいと喜んでいるそうです。

言うまでもなく、模型作りは楽しい趣味です。
手芸や盆栽、料理に共通する要素が多いので、やってみると、かなり多くの人が楽しめると思います。

そんな「模型」と、私たちが低予算映画撮影に使う「撮影用ミニチュア」は、どんなところが違うと思いますか?

プラモデルをはじめとする模型は、完成後、手を触れずに鑑賞するのが前提です。
(昔は、子供向けの車や戦車など、完成した後で電池を入れて走らせて遊ぶタイプのプラモデルが普通でしたが、最近はあまり見かけません)

それに対して、撮影用のミニチュアは、撮影時に良く触ります。
構造的に工夫したり、壊れにくい材料を使ったりするのはもちろん、ある程度、修理しやすい事を考えて作ったりします。
撮影中に壊れて、修理しながら対処しなければいけない事が多いからです。

最も大きな違いは、プラモデルなどは360度、どこから見ても楽しめるように作り込むのに比べ、撮影用のミニチュアは、カメラに映らない側は、基本的に作り込まないことです。
いわゆる「ハリボテ」の状態が普通という事です。

例えば、室内セットだとすれば、作り込むのは壁の内側だけで、外側は材料がむき出しの状態です。
逆に、外観セットの場合は、内側は作り込みません。
これは、舞台や映画の実物大セットと同じ感覚です。

もちろん、模型作りを楽しむ意味で、見えない側を作り込むのは自由です。
でも、それによるメリットは自己満足以外ありません。
そこに注ぐエネルギーが残っているのであれば、見える側をさらに作り込んだり、別のセットを追加した方が、画面が豊かになります。

模型とミニチュアセットの違いは、材料にも表れます。

プラモデルの素材は、ポリスチレンというプラスチック樹脂です。
発泡スチロールは、このポリスチレンを発泡させたものです。
工作性が良い特徴がありますが、接着性などの相性の問題もあって、改造したりするときも、同じポリスチレン製のプラ板や、プラスチック用のパテなどの素材を中心に使います。
使う材料がある程度、限られる傾向があります。

それに比べて撮影用のミニチュアは、材料も工作方法もかなり自由度があります。
プラ板以外にも

  • 木材
  • 石粉粘土
  • 木粉粘土
  • 漆喰
  • 発泡スチロール
  • アルミ箔

など、さまざまな材料を使います。

プラモデルと違って、完成までの説明書もありませんから、自由な発想で、試行錯誤をしながら工作できるのが、撮影用ミニチュアの楽しみでもあります。

私は100均ショップやホームセンターで主に材料を探します。

合成写真と合成映像の違い

合成映像は、合成写真の発展版と言えます。

古くは、合成写真は例えば人物の写真をカミソリで綺麗に切り抜いて、背景写真に貼って作っていました。

やり方は原始的ですが、その技術はすさまじく、現代では再現できる職人はいません。

 

戦中戦後の新聞では、合成写真を平気で掲載していましたが、実際には存在しない「戦闘機工場内部の写真」など、本物に見える出来栄えです。

 

写真は、1つの映像を重ねれば完成ですが、動く映像、特に、人物を合成しようと思うと、複雑さが跳ね上がります。

「森の中で撮影した写真」よりも「森の中で撮影した動く映像」の方が、特に輪郭部分を綺麗に合成するのが難しいんです。

 

ところが、前述のように、パソコンを使って合成できるようになると、「綺麗に合成できる」という部分のハードルが下がって、ある意味では、「合成写真より合成映像の方がごまかしやすい」という要素も出てくるんです。

 

合成写真と合成映像の最も大きな違いは何かというと、時間の存在です。

 

合成写真には、時間が存在しません。

見る人がすぐ次の写真に目をやれば、一瞬しか見られませんし、アラを探そうと思ってじっくり細部まで観察しようと思えば、いくらでも長い時間、見ていられるんです。

当然、長い時間、じっくり見られれば、合成のアラは発見されることになります。

 

それに対して、映像には時間があります。

合成映像のアラを探そうとしても、ボロが出る前に次々と映像を切り替えてしまえば、検証を妨害することも出来るんです。

 

通常は、映像を鑑賞するときにアラ探しするのがメインの目的ではありませんが、特に、低予算の映画は合成のレベルも低いことが多いので、どうしても破綻している部分が目立ちがちです。

そこで、効果的な方法として、アラが目立つ前に、テンポよく映像を切り替えてしまうことが有効です。

これは「退屈」というストレスが溜まりにくい点でも、有効な手法です。

 

私は常々、「1つの映像の表示時間が短い場合、光の向きを合わせる意味は少ないのではないか」と感じていました。

合成映像でなく、通常の撮影をしたシーンでも、数日がかりで撮影したような場合、光の向きがどうしてもバラバラになってしまいます。

それを懸念しながら編集しても、案外、繋がった映像を見ると、光の角度が違っていて、理屈としてはおかしいはずの映像も、それほど気にならずに見ていられることが多かったからです。

 

短編作品の「暗黒魔獣ワニガメイーター」では、あえて意識して、光の角度を無視して撮影する実験をしたのですが、実際は光が当たっている角度が逆だったとしても、全体の明るさのバランスを揃えると、驚くほど、角度の間違いには気付かない、ということが検証できました。

 

写真より映像の方が、合成に関しては有利だったんです。

光を通さない素材を使え

そんな自由な、撮影用ミニチュアの工作ですが、私の失敗の経験上、注意した方が良いことがあります。
その一つが、今回紹介する「光を通さない素材を使う」ということです。

撮影というのは、「影を撮る」と書くくらいで、本来は光を当ててその影の表現を楽しむものです。
例えば、被写体にどちらから光を当てるか、ということも一つ一つ考えながら作られるのが、映画なんです。

その、照明の種類の中に、「逆光」というものがあります。
カメラから見て、正面に近い方向から被写体に光を当てる状態です。
これは、被写体が暗くシルエットに写ります。

照明としては特殊な部類に入りますが、映画では演出としてよく使われます。
上手く使うと「かっこいい」んですね。

こういう映像にするとき、被写体の材料が光を通す素材では困るんです。

例えば、石像のミニチュアを粘土や漆喰で作ったのであれば、何の問題もありません。
カメラから見て逆光になるように照明を当てても、しっかりと黒いシルエットになります。

しかし、もし石像を発泡スチロールで作ってしまうと、逆光になる照明を当てた時、全体的に光を通してしまう可能性があります。
いくら表面の感じや塗装を石材っぽく工夫しても、光を通してしまうと素材が石でないことを強調してしまうんですね。

もちろん、発泡スチロールで石像を作る選択は悪くはありません。
しかし、「逆光の照明」という表現は出来ない、という制約が生まれるわけです。
逆光の演出を想定するのであれば、あらかじめ、発泡スチロールの表面にアルミ箔を貼って遮光してから、表面処理をするなどの工夫が必要です。

私が失敗したのは、室内のミニチュアセットを作ったときです。
壁を薄いスチレンボードで作り、表面は板張りに見せるため、板張りの写真をカラープリンターで出力して、そのプリンター用紙をスチレンボードに貼りました。

この、スチレンボードもプリンター用紙も、光を通してしまう素材だったんです。

工作中は、壁の外側から光を当てる事になるとは想定していなかったので、気にしていなかったのですが、セットを組み立てて撮影している最中、「窓の外から光が差し込んだ方が、光の状態がリアルなんじゃないか?」と思いついたんです。
それで、窓の外から照明を当ててみて初めて、壁が光を通してしまう素材であることを思い出しました。

結局、壁の裏からアルミ箔を貼って遮光したり、応急処置で対処しましたが、そのために別の色々な問題が出て難儀しました。

結論として、床はともかく、「ミニチュアセットの壁は、光を通さない素材を使う方が得策」という教訓を得ました。
具体的には、板目紙や工作用紙などの厚紙を使うのが、最も実用的なのではないかと思います。

板目紙や工作用紙を使うと、コストも安く、工作性も良いので、これをベースに色々と試行錯誤してみることをお勧めします。
私も次回作で使う「洋館の室内セット」では、板目紙を使ってみます。

 

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