映画の小道具に耐久性を求めてない?・コストを掛けて頑丈に作るより壊れる前に撮りきる
眼高手低「どうせなら良いものを」の罠
私は創作活動において、届かない理想ばかり夢見て何も生み出さないより、たとえ拙くても、作品を完成させる方がはるかに素晴らしいことを知っています。
私自身、映像制作については高校生のころから挑戦していますが、技術や経験がないのに高望みばかりしていたので、作品は必ず途中で頓挫していました。
「最初で最後」という覚悟で全てのエネルギーを注いだ長編の冒険映画「水晶髑髏伝説」を完成させたのは大学3年生の時です。
ですから、以前、地元の映画祭に応募して、授賞式で一緒に登壇した高校生に対しては、「よくこうして完成させたなあ」と関心しかありませんでした。
理想を高く持つ事は、本来は「良いこと」ですが、「どうせ作るならより良いものを」という眼高手低の罠にはまって、結果的に完成させられないのであれば、むしろ、「理想を高く持つ事」を害悪と捉えた方が良いかもしれません。
そしてこれは、作品全体についてだけでなく、小道具作りに関しても言える事なんです。
模型は壊れていくもの
小道具と一口に言っても色々とあります。
ちょっと画面に映り込む小物の場合もあれば、ハリボテの機械装置などもあります。
また、モンスターなど、メインになるキャラクターそのものも小道具で作ることもあります。
特に私は「工作系映画」が好きなので、小道具に凝りがちです。
前述の「水晶髑髏伝説」でもざっと挙げるだけで
- ミニチュアボート
- 隊員全員分の人形
- 実物大のザック5個
- 遺跡ミニチュア
- 遺跡祭壇(実物大)
- 水晶髑髏
- 洞窟に登場する水棲UMA
- 恐竜のミイラ化石
- 実物大の原住民の長老ダミーヘッド
- 翼手竜ミニチュア
- 実物大翼手竜
- メインの怪物ミニチュア3タイプ
など、これ以外にもさまざま小道具を作っては、場面に登場させました。
工作系映画と認識しているのは、エネルギーの大半を、こういう工作に充てているからです。
ところが問題があって、手作りの小道具は「それらしく見える」ということを最優先に考えて作っているので、そもそも耐久性がないんです。
もし、耐久性も追求するとすれば、さらに時間と労力を「小道具制作」に注がなくてはいけません。
しかも、耐久性を持たせたとしても、壊れなくなるわけではなくて、比較的壊れにくくなるというだけで、やっぱり壊れていくんです。
普通の模型をケースに入れて鑑賞するのと違って、撮影用のミニチュア模型は小道具ですから、常に手で触れることになります。どうしても、撮影と共に壊れていってしまいます。
工作と映像の協力関係
初めは私も、何とか耐久性を増す方法を追求していましたが、2作目、3作目と作っていくうち、皮肉な事実に気付きました。
例えば、耐久性も上々で、出来もまあまあ良いミニチュアのモンスターがあったとします。
でも、そもそも絵コンテの段階で、登場する時間は限られています。
「もっとこんな映像も撮れる」ということで搭乗時間を増やすと、せっかくのまあまあの出来のミニチュアも、アラが見えてしまいがちです。
結局、我慢して絵コンテ通りの使い方をするんですが、そのたびに「小道具にエネルギーを注ぎすぎたなあ」と反省することになります。
別の作品でもう一度くらい、同じ小道具を使いまわさないと、割に合わないような感覚になります。
一方で、時間の制約や、登場時間の短さから考えて、かなり手を抜いた小道具や、撮影中にあちこち壊れ始めてしまって、修理しながらだましだまし使った小道具の登場シーン。
そもそも、手を抜いた個所や故障個所があるので、それを隠すために、撮影でカバーしながら作った場面です。
これが、結果的に、思いのほか悪くなかったりするんです。
もちろん作った本人は、アラを隠すための苦肉の策と知っているのですが、何年も経って、ほぼ他人事として客観的に作品を見られるようになってから見直すと、むしろ、問題を隠しながら工夫して撮影した映像の方が、工作の労力は数分の一だったにも関わらず、よく出来ているように思えます。
もちろん、工作そのものが好きなので、「工作は徹底的に手を抜く」という方針にはなりませんが、少なくとも、必要以上に耐久性を増すために、時間を掛けることは不要だな、と感じます。
映画の小道具は、「撮影の瞬間」だけ、それらしく見えてくれれば十分なんです。
工作物として完全なものを作ろうとすると、どうしてもオーバークオリティになって、制作ペースが大幅に落ちることになってしまうので、「小道具は撮影とセットで完成する」という意識で作ると、ちょうどいいと思います。
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