良い構図にはデフォルメが有効・画面の中に要素を凝縮させて配置する

「現実にはあり得ない」という的外れな指摘に騙されるな

映画やドラマを見てアラを探し、鬼の首を取ったように批判する人がいます。

もちろん、「そういう楽しみ方をしているのだ」という人もいるでしょうから、否定はしませんが、意外と良いことは少ないと思います。

 

仮に、「作品のレベルが上がることを望んであえて苦言を呈している」と主張していても、制作者の立場からすると、「なるほど、次からはこの人も気に入るような作品にしよう」とはあんまり思いません。

むしろ、「面白かった!」と喜んでくれている人を、間接的に馬鹿にしていることになりかねないので、「次からは見てくれなくていいです」という気分になります。

 

実際、何事にも反発心が湧く、若者であれば致し方ないとも思いますし、反発心は大きなエネルギー源なので、ある程度の批判の習慣は必要悪として認められると思います。

しかし、中には、いい歳をした、しかも小説家のような専門家ですら、他者の作品に対して

  • 現実にはあり得ない
  • 法律的におかしい

という批判をしていることがあるんです。

 

そんな批評・批判ばかり普段から目にしていれば、素人の人たちもそれを真似てアラ探ししたくなるのも無理はありません。

 

「現実にはあり得ない」という批判が有効なのは、ドキュメンタリーにおける捏造シーンなどに対してだけです。

少なくとも、エンタメの創作作品に対して、「現実にはあり得ない」という批判をされると、

  • 大丈夫か?
  • 現実と虚構の区別を付けられない人なんじゃないか?

と心配されるかもしれません。

 

実際のところ、私は「批判・批評は技術や能力ではないが、楽しむことは技術であり能力である」と思っています。

一件、無邪気に楽しんでいるような人は、物事を楽しめるように変換して味わう技術に長けていると気付くと、その技術が欲しくなります。

 

なぜ前振りでこんな話をしたかというと、今回のテーマである「構図」についても、「現実」にこだわらない方が、作品的には「それらしく」なる、という話をするためです。

魅力的な構図のポイントは「凝縮」

例えば、人物同士の位置を示す構図というのは、基本的には自然な位置に人物を立たせ、「現実としてその場面を切り取ったら」という事から考え始めます。

しかし、映像作品にするために、さらにデフォルメすると「それらしく」なったりするんです。

 

具体的に言うと、多くの場合、一つの画面に色々な要素をギュッと凝縮した方が、魅力が増すことが多いんです。

 

ドラマや特に古い映画などを見ると、込み入った会話をしている場面などで、現実にはちょっと考えられないくらい顔を近づけて話している映像を見かけませんか?

冷静に考えると、むさくるしい中年のおじさん同士が顔をくっ付けるほど近づいてコソコソと話している場面は、滑稽でもあるんですが、「コソコソ話している」という感じが良く出るんです。

 

凝縮の例は絵画などよく見られます。

例えば、博物館の古生物コーナーの壁に貼ってある、ジオラマの背景画。

 

手前に展示物として、恐竜なんかの化石があって、その向こうの壁に、恐竜時代の風景が描かれていたりします。

その風景には、

  • シダやソテツといった植物が生い茂る森
  • 草を食べている草食恐竜
  • 遠くを走っている恐竜
  • 空を飛んでいる翼竜
  • 沼地から顔を出している魚竜
  • 獲物を食べている肉食恐竜
  • 手前の草むらに隠れている小さな哺乳類の先祖

という要素が描き込まれていることが多くあります。

 

これも、現実として考えたら、まずあり得ないくらい、それぞれの動物の距離が近いんです。

つまり、要素を不自然に凝縮しています。

現在のアマゾンやアフリカに行ったって、こんな構図で色々な生き物が勢ぞろいして見える状況はなくて、それこそ「現実にはあり得ない」わけです。

 

でも、このデフォルメされた凝縮によって、その場の雰囲気が良く出ている、という効果があります。

デフォルメされた人物配置と向きの例

凝縮以外にも、人物の配置をデフォルメしている例はたくさんあります。

例えばテレビドラマの「相棒」。

 

私は初め、主人公とその相棒が会話をするときに、「二人がカメラに向かって横並びになって話す」という構図が、何とも奇妙に見えて仕方ありませんでした。

  • これじゃ、二人の刑事の顔が視聴者から良く見えるように話してるみたいじゃないか
  • 会話シーンの映像編集を省略するためとばれるぞ

と思ったんです。

もちろん、実際はそういう意図で撮影してるわけですが、そういう「意図」を出来るだけ隠して、あたかも現実のその場面をのぞき見しているような「リアルさ」を追求するのが、「ドラマで作るべき構図」と思っていたので、とても不自然に感じられたんです。

 

ところが、この映像を長く見せられていると、だんだんとその不自然さにも慣れて、むしろ「様式美」にすら見えてきました。

そもそも、この撮り方は一続きの長い演技、長いセリフをこなせる役者でしか使えません。

一連の芝居を見せることを優先して、極力、映像を切らないために採用している構図でもあるんです。

 

恐らく、撮影現場での状況を客観的にみると、かなり奇妙に映るでしょう。

でも、エンタメの映像作品としてはこれも正解の一つなんです。

 

私たちがDIY映画を作る際は、「長セリフの一連の演技」では間が持たない事が多く、むしろ演技の拙さを隠すためにカット割りを利用しますが、「構図の凝縮」は参考に出来ます。

 

そして、その凝縮した構図を再現するのに有効なのが、特撮・合成映像なんです。

特撮を使えば後からじっくり構図を整えられる

実際の撮影現場で、意図した構図を作るためには思いのほか時間が掛かります。

 

例えば、資料に埋もれながら仕事をしているという、ちょっとマンガのような構図を思い浮かべてください。

  • 手前に山積みになった資料
  • 資料の向こうでノートパソコンにかじりついている人物

という映像にしましょうか。

 

撮影現場でこの状況を作ることは、時間を掛けて小道具を大量に持ち込めば、可能ではあります。

でも、山積みの資料に当たる光の強さが気になったり、そもそも資料の分量や種類はこれでいいのか?ということを考え始めると、現場での撮影時間はどんどん削られていきます。

 

これが、「手前の資料の山」を映像合成で表現するとどうなるか。

  • 現場に持ち込む小道具の量が激減する
  • 撮影は人物の演技に集中できて、短時間で済む
  • 編集時に、合成で資料の種類や分量を変えてみて、効果を比較できる

ということなります。

 

特に合成は、凝縮した構図作りにはとても有効なんです。

エンタメ作品の構図調整に「映像合成」の選択肢を持っていると、大幅なコスト削減と映像の面白さの増加が期待できますよ。

 

参考になったら記事をシェアしていただけると幸いです。

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