特撮映画としての「鳥」:実はヒッチコック映画は理想的なアナログSFX活用の教科書

近所の散歩コースに神社があって、よく通るんですが、夕方はカラスがいるんです。

最近、そのカラスに脅されることが多くて、「巣を守ろうとしている」とかではなく、単に自分を脅かして面白がっている節があるんですね。

 

神社を後にしても、わざと頭の上を飛び越えて、からかった後、少し先の柵の上に止まって、前を通り過ぎるのをじっと見る、というのを繰り返したり。

 

先日、やはり頭上を越えてから、すぐ先の柵に止まろうとするのを見計らって、その着地点までダッシュして着地を邪魔して脅し返してやったんですが、その後、しばらく3羽のカラスに追跡されました。

近寄りはしないものの、常に近くの電線の上から監視してるんです。

 

カラスは賢いと言われますが、「こりゃ確かに気味が悪い」と思って、何となく観直したのが「鳥」という映画です。

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サスペンス映画の巨匠、ヒッチコックの1963年の古い映画です。

この映画が、後の「動物パニック映画」の原点と言われています。

 

古典映画を評価すると、カッコつけて通ぶっていると思われがちですが、ヒッチコック映画に関しては、シンプルに「娯楽作品」として細かく設計されていて、ストーリーも映像も面白いんです。

 

まず、60年代、70年代の撮影事情の説明が必要かもしれません。

 

今では、特に低予算作品では、映画を野外や実際の建物の中で全て撮りきる、ということがありますが、当時の映画は、野外シーンも室内シーンも、ほぼ全てをスタジオ内で撮影するのが一般的でした。

カメラの性能上などの理由もあり、光の状態を完全にコントロールできるスタジオの方が、野外で撮影するよりしっかりした映像になったからです。

 

ですから、その土地の全景込みの映像は野外で撮影し、アップになって役者の芝居が始まると、スタジオ内に再現されたセットで撮影する、ということが普通だったんです。

これは、日本映画でも同様です。

 

森の中のシーンを、実際に森の中で撮影すれば良さそうなのに、なんで大金を掛けてスタジオの中に森のセットを作って撮影するか。

それは、映画の撮影には驚く程、時間が掛かってしまうからです。

 

時間と共に太陽は動いて、光は変化します。

撮影は、1分間のシーンのために、何時間も掛かるのが普通ですから、一日で撮影できるのはほんの数カットになってしまいます。

そうすると、その森のシーンだけで何日も現場に通って撮影しなければいけない上、照明用の足場を作ったり、電源を確保したりと、大変なコストが掛かります。

 

スタジオの建物内に森のセットを作れば、もちろん美術にはお金が掛かりますが、理想的な位置に照明を設置できますし、電源も確保されています。

天候や時間に左右されず、撮影自体は短時間で進むので、結果的に安上がりだったからです。

 

この60年代の作品である「鳥」も、

  • 野外撮影
  • セット撮影

を巧みに繋ぎ合わせて作られています。

 

セット撮影はスタジオの壁に景色を描いて、その前で芝居をしているものや、背景を合成で作っている映像もあります。

そもそも、そういうトリック映像自体が苦手な人は、残念ながら、この時代の作品は楽しめません。

 

私は逆に、「そうまでしてイメージ通りの構図の映像にしようとしている」という執念を感じるのが、むやみに好きなので、何でもない場面のそういう工夫に感心してしまいます。

 

つまり、昔の映画は、一般のドラマ作品でも、映像手法としては特撮が当たり前に使われているんです。

特にヒッチコック映画は特撮が満載で、「いかにも特撮的シーン」にだけでなく、うっかり見過ごしてしまうくらい細かなところでも、特撮を多用していて驚かされます。

 

まず、冒頭シーンでヒロインが街の中を颯爽と歩いてきて、ペットショップに入るショットがあります。

ここも見直すと、ちょっと信じられないトリックを使っています。

 

このショットでは、「ヒロインとすれ違いに、店の入り口からヒッチコック監督自身が出てくる」というお遊びが有名なので、そちらに目が行ってしまうんですが、実は見どころはその直前にあります。

 

これは特撮と言うより、編集の巧みさなんですが、まるで手品のような映像になっています。

 

街の大通りをヒロインが歩いてきます。

それをカメラが追っています。

ヒロインは一瞬、看板の向こうに隠れて見えなくなりますが、カメラは、看板の向こうを歩いているであろう、ヒロインを追う動きをします。

そして予想通り、看板の向こうから姿を現し、ペットショップに入っていきます。

 

何の変哲もない、自然なショットに見えますが、実は、

  • 大通りは野外撮影
  • ペットショップの入り口はスタジオのセット撮影

なんです。

 

全く別の場所で撮影された映像を、看板を使って自然に繋いでいるんです。

 

「鳥」という作品は、大量の鳥が突然狂暴になって、人々を襲い始める、というパニック映画です。

鳥による襲撃シーンは、もちろん、様々な特撮手法が使われています。

 

  • 調教された本物の鳥
  • ダミーの鳥
  • 合成された鳥の映像

 

特に「鳥の合成映像」は、もちろん今の時代の観客としては、知識もあるので「合成映像だ」と分かりはしますが、言い方は変ですが「不自然なまでに自然な合成」が出来ています。

「あれ?当時のクロマキー合成って、ここまでの精度が出たんだっけ?」というくらい、綺麗に合成されているので、興ざめにならないんです。

 

改めて観直して、再発見した中で、特に私が気に入っているのは、鳥かごの中の鳥です。

 

車に、2羽のインコが入った鳥かごを乗せて運転している場面があります。

曲がりくねった田舎道を走っているのですが、ここも、

  • 引きの映像は実景の中を走る車
  • 車中のアップはスタジオ内のセット撮影(背景は合成)

です。

 

スタジオの中で撮影された車内の映像には、鳥かごの中のインコが見えるのですが、ここで細かい工夫が見られます。

車が左右に蛇行すると遠心力が働きます。

鳥かごの中の2羽のインコがおとなしく止まり木に止まっているのですが、恐らくダミーで作られた2羽のインコが、そろって少しだけ、遠心力で反対側に体を傾けているんです。

 

もちろん、スタジオで撮影している車は走っていませんから、遠心力は発生していません。

ダミーのインコを景色の映像に合わせて左右に傾けることで、遠心力を表現して「車が走っている」という状況をよりリアルにみせるという、特撮的工夫だと思います。

 

私はアマゾンプライムで視聴しましたが、機会がありましたら、ぜひご覧いただくと、他にも面白いトリックをたくさん見つけられるはずです。

 

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