制約の多い自主映画の味方は古典的SFXの技術:必要からの特撮 vs 特撮からの企画
特撮は問題解決の切り札
特撮は映画と同時に誕生しました。
現実の動きを記録する「映画」を撮影し始めたカメラマンたちは、すぐに、映像的なトリックによって、現実とは違う状況を現実のように表現できる「特撮」の可能性に気付いたんです。
その結果、様々な映像技術を駆使した特撮技法が生み出されました。
特撮の基本は、「こういう場面が欲しい」「でも上手く撮影できない」という問題解決の手段として考えられるものです。
例えば、太平洋戦争中、戦意高揚のためにたくさんの戦争映画が作られました。
国策としての映画ですから、陸軍・海軍が全面協力して迫力のある映像は撮影できるのですが、いくら軍の協力があっても撮影できない映像はあります。
その一つは、敵基地の攻撃風景の映像などです。
有名な真珠湾攻撃の映像もその典型です。
何しろ、戦争をしている真っ最中ですから、アメリカに頼んで撮影させてもらうわけにもいきませんし、ゲリラ撮影も出来ません。
当時の撮影技師だった円谷英二は、断片的に入手した真珠湾の写真などから、港の図面を書き起こし、足りない情報は想像力で補って、巨大なミニチュアセットを作りました。
そのミニチュアセットを使って、真珠湾攻撃のシーンを特撮映像として撮影したわけです。
その精巧さは当時、群を抜いていて、「特撮」という概念が一般的ではなかった事もあり、誰もがそのシーンを、記録映像を組み合わせて作ったものと思っていました。
戦後になって、真珠湾の詳細を知っているアメリカの軍人も、この映画を見てミニチュアセットでの撮影と気付かなかった、という逸話があります。
このようにミニチュア撮影は、「その場面で実際に撮影できない」という問題解決のために活用されることが多い手法です。
怪獣映画などで、建物のミニチュアセットは破壊シーンに使われる印象がありますが、「三丁目の夕日」などでは、印象的な商店街や町並みなど、実はCGではなく紙や木材で工作されたミニチュアセットが多用されています。
破壊されるミニチュアのビルは、「実際にビルを破壊する撮影ができない」という問題を解決していますし、商店街の町並みのミニチュアは、実物大のオープンセットを建てて撮影するのに比べて、圧倒的に低コストで、求めるイメージの建物が作れます。
コストの問題を解決しているわけです。
技術を使ってみたくて始める企画があってもいい
このように「問題解決のための特撮活用」が正常な順番だとは思いますが、実際に映画を作っていると、「この種類の特撮をやってみたい」という動機から、そういう場面が登場する企画を考える、ということも良くあります。
本来は本末転倒です。
でもこれは仕方ないんです。
何故なら、「特撮技術」というのが単独でも面白いから。
商業映画の世界では、
- 特殊な装置を買ったから、元を取るためにその装置を活用できる企画を出す
- 1作目のCG場面のために、特別なソフトを開発したから、元を取るために続編でCGを多用する
と言ったこともあるようです。
私たちが作るDIY映画では、商業的な理由と言うよりも、
- ドローンを手に入れたから、空撮を多用した企画を出したい
- ストップモーションをやってみたいから、それに合う企画を考えたい
というような具合で、「やってみたいから企画に盛り込む」ということがほとんどです。
でも実は、この自由さが自主映画、DIY映画の最大の魅力です。
「やってみたい技術」を使って、作品と言うコンテンツに仕上げられれば、最高です。
実は私が現在、企画進行中のコメディー作品「恐竜霊」も、「こういうテーマを観客に投げかけたい」と言うような意識は皆無で、ゴーストバスターズ風の楽しいコメディーで、色々な手法で撮影したミニチュアの恐竜模型を大量に登場させたいだけの企画です。
2022年7月現在、ようやく絵コンテが完成したので、この夏からDIY映画倶楽部の活動の一環として、撮影を開始する予定です。
ちょい役を含めると、かなり登場人物が多いので、出演者として、たくさんの人に参加していただけると思います。
しかも、升田式スーパープリヴィズ法で制作するので、撮影の拘束時間は通常作品の数分の一で押さえられる筈です。
こちらの進捗も、機会があれば、メルマガで一部、お知らせできればと思います。
参考になったら記事をシェアしていただけると幸いです。
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