特撮クリーチャー模型をどうやって歩かせるか・撮影用4足動物歩行器の制作
クリーチャー模型工作の難しさ
映画の中に登場する、様々な怪物などのことを「クリーチャー」と呼んだりします。
これには、架空の怪物や実在した恐竜なども含まれます。
クリーチャーは、とても映画的な存在で、効果的に使うことで、作品の「顔」になる程の魅力があります。
クリーチャーの最大の魅力は、異形のデザインにあります。
ですから、ミニチュアモデラ―達も様々なクリーチャー模型を作りますが、多くは「動かない硬い模型」で、一瞬のポーズを表現します。
一方で、特撮作品に登場するクリーチャーは、動きます。「柔らかい模型」である必要があります。
実は、硬い模型と柔らかい模型では、工作のやり方や材料が大きく異なり、柔らかい模型の工作の方がかなり難しいんです。
私も昔は、特撮映画のクリーチャーを見て
- あーあ、ここに皮膚の折れ目がついたらおかしいだろ
- もっと工夫してリアルに作ればいいのに
と気軽に批判していましたが、自分で「動くクリーチャー」を作ってみると、驚くほど思い通りには作れません。
- 模型としてのバランスや造型
- 自然な動き
を自分が満足できるレベルで両立させることは、ほぼ不可能なんです。
大抵の場合、「動くこと」を優先するので、「模型」としては、あまりレベルの高くない状態で仕上げることになります。
特撮クリーチャー・主な動かし方の種類
撮影用のクリーチャーは、「作っておしまい」の模型とは違います。
撮影という作業の中で「小道具として使用する」という役割があります。
映像の中で動かすことで、命を吹き込むわけです。
クリーチャーの動かし方は
- 人が中に入って動かす
- 糸やピアノ線で操作して動かす
- 模型に手を入れて動かす
- 機械装置を組み込んで動かす
- 一コマずつコマ撮りして動かす
などの方法があり、大抵はいくつかの方法を組み合わせることで、リアルなクリーチャーの動きを表現します。
この中で、人が入って動かすタイプの模型は、桁外れにコストが掛かります。単純に大きいからです。
私は、それ以外の「ミニチュア模型」を使った手法を使って、材料費などを押さえます。
手を中に入れるタイプの模型は「マペット」と呼ばれます。
コマ撮りするタイプの模型は「ストップモーションモデル」と呼ばれます。
この2つに関しては、電子書籍で工作手順の一例を紹介していますので、興味があればご一読ください。
操演の楽しさと困難さ
「操演」というのは、クリーチャー模型を動かす事です。
マリオネットの糸を操作して、人形を動かすところを想像してください。
この操演は、とても複雑で、とくに動かす部位が多ければ一人では手が足りず、数人がかりで動かす必要が出てきます。
例えば、実写版の「進撃の巨人」は、シナリオがひどいなど、あまり評判は良くありませんが、映像的には、フルCGが全盛の現代にあって、昔の「特撮」の手法にこだわった秀作だと思います。
多くの人は勘違いしていますが、登場する巨人は全て、カメラの前に実在していて「特撮」で表現されているんです。
パソコンの中にデータが存在しているだけの、CGとは違います。
中でも、超巨大巨人は、メイキングを見ても分かる通り、大勢の人がタイミングを合わせて操演しています。
この「操演」。
数人がかりでタイミングを合わせながら撮影するのは、楽しい作業ではあるのですが、撮影の効率としては良くありません。
特に難しいのは「歩く」という動作の表現です。
やってみると分かりますが、自然に見えるバランスを保ちながら、クリーチャーを歩かせることはなかなかできません。
足を動かすだけでなく、上体のバランスが乱れないようにしないと、生き物が歩いているように見えないんです。
特に、四足歩行の動物の歩行シーンを再現するのは困難です。
第一に、「足運び」がとても複雑なんです。
犬や猫を飼っている方は、彼らの足運びを観察してみてください。
前足と後ろ足を、それぞれ交互に出しながらも、前足と後ろ足を同期させず、体重を分散させて歩いています。
私たちは無意識にせよ、この足運びを見慣れているので、クリーチャーの足運びが不自然だと、一発で不自然さを感じてしまうんです。
私は「虹色の霧」というショートムービーの中で、マンモスを登場させた際、二人がかりで歩行シーンを撮影しました。
二人で前足と後ろ足を別々に、1・2・3・4と声を掛けながら歩かせたわけです。
前足の接地タイミングは1と3、後ろ足は2と4という具合です。
映像自体はそれらしく出来たと思いますが、「この撮影は手間が掛かり過ぎる」と感じた私は、四足歩行動物模型撮影用の「歩行器」を構想していました。
これまでも試作品を作っては見たものの、想定通りの動きが再現できず頓挫していたのですが、ネット上で「使えそうな原理」を見つけて、試作を重ね、ようやく撮影に使える歩行器が完成しました。
車輪の付いた歩行器に動物模型をセットしてゆっくりと転がすと、前足と後ろ足がそれぞれ交互に、しかも変に同期せず動きます。
しかも、車輪の直径も計算しているので、足の動きの歩幅に合った速度で前に進みます。
これによって、接地した軸足がその場所からずれないため、背景映像と合成した際に、足が滑って不自然に見える、ということがありません。
何よりも、この装置を使えば、歩行の動き自体は一人で再現できます。
片手で歩かせ、空いた手で首を動かしたり、ということが出来るんです。
私は今、少し長めの作品として「恐竜霊」というコメディーの制作を進めています。
これには、いくつかの種類の恐竜が、画面狭しと歩き回っているシーンがたくさんあります。
「恐竜が1体、画面を横切る」という映像を、仮にコマ撮りで撮影したら、1カット作るのに1日掛かってしまいます。
しかし、この歩行器を使用すれば、1カットの撮影はものの数分で出来るので、より多彩な映像が用意できます。
恐竜で画面をにぎやかにすることに一役買ってくれることを期待しています。
歩行器についても、いずれ電子書籍等で、工作過程を紹介できると思います。
今後、前述の「恐竜霊」のメイキング映像などでお見せできると思いますので、お楽しみください。
参考になったら記事をシェアしていただけると幸いです。
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