特撮並みの効果も生み出せるシンプルな「カット割り」という基本技法の活用
繋ぐ工夫だけで全く別場面に
1つの場面を作るときに、舞台演劇のように、文字通りそこに想定する「舞台」を作り込まなければいけない、という、素直な思い込みが、場面の実現を困難にします。
映像作品はお金が掛かる舞台演劇とは違うんです。
楽しみながら、「ずるいやり方」が出来るんです。
例えば、洋館の庭園に面した優雅な雰囲気のカフェに行って
「このカフェで会話しているシーンが欲しいな」
と思ったとします。
馬鹿正直に考えると、カフェのオーナーに交渉して、丸一日、店を借り切って撮影する必要があります。
いくらかは分かりませんが、最低でも、その日に売り上げられるであろう金額は、謝礼として支払わなければいけません。
「映画とはこうやって作るべきだ」という、映画原理主義の人にとっては、それが当たり前で、「だから映画にはお金が掛かるんです」と言いますが、私は大きな疑問を持ちます。
特に、低予算で作品を作る必要がある私たちは、「当たり前」に対してもっと疑問を持たなければいけません。
謝礼を支払って、1日借り切ったとして、その日が雨だったらどうするんですか?
強風だったらどうするんですか?
「優雅にうららかな光の中、庭園のテーブルで紅茶を飲んでいる」という状況が欲しかった筈なのに、大金を掛けてもその場面は手に入りません。
一方で、「ずるいやり方」を採用したらどうでしょう?
「私ならこうする」というやり方です。
まずは、天候や客数が理想的な日に、そのカフェを「風景」として撮影します。(この映像が使えることが前提ではあります)
登場人物たちのやり取りは、別の日、別の場所で行います。
条件は、風景として撮影したカフェの映像と、
- 似た光の状態
- 似た風の状態
- 似た背景の状態
を確保することです。
「似たような背景の場所という事は、似たような庭園?」
という発想は、まだまだ馬鹿正直です。
絵コンテの工夫にも繋がりますが、例えば2人の人物がテーブルを挟んでお茶を飲んでいる顔を交互に映す場合、背景として映り込むものは非常に限られています。
本物の庭園が、周囲を生垣で覆われているとしたら、「生垣らしき緑」がピンぼけ状態で背景に映っていればOKなんです。
実際にはずっと狭い民家の庭や、全然景色の違う公園の一角など、条件が合う場所を探します。
絵コンテの基本からすれば、2人が映り込んでいるカフェの引きの映像が必要ですが、ここではあえてそれを無しにして成り立たせます。
引きの映像に映っていた庭園のテーブルの1つに、この登場人物が座っていたのかな?と錯覚させれば良いわけです。
必要なのは「別撮りしている」という事実を隠す工夫です。
例えば、
- 登場人物が会話の途中で、他の人の笑い声を聞いて視線を向ける
- カフェで笑っている客の姿(顔は見えなくていい)
と映像を繋いだらどうでしょう?
黒っぽい服の人影に画面を横切らせたりして
- お茶を足して回っているウェイター(顔は見えなくていい)
に見せることで、「2人の人物が庭園のカフェにいる」という印象が、観客に伝わりませんか?
必要なのはせいぜい、ティーカップセット、テーブル、くらいでしょう。
テーブルはそれらしいプラスチック製のものを貸してくれる知り合いも、探せばいそうです。
もしかしたらテーブルが全然画面に映り込まなくて、カップを置くために段ボール箱を重ねただけで事足りるかもしれません。
「ずるいやり方」は工夫そのものです。
馬鹿正直なやり方では、場所代だけで数万円から十数万円は掛かるはずですが、この工夫をすれば、実質コストはゼロに近いはずです。
肝心なのは、その場面が成立するのかという点ですが、丁寧に工夫することによって、むしろ場所を借り切った撮影をする場合より、雰囲気が出るとさえ、私は思います。
「雰囲気の良いところで撮影すれば、その雰囲気が出る」というわけではないんです。
恐らく、せっかくカフェを借り切って撮影しても、メインとなる会話の場面は映り込む背景が少なくて、「わざわざ借り切って撮影する意味あった?」となることが、容易に想像できます。
私も昔、冒険映画などを撮ることが多くて、洞窟のシーンは山奥の洞窟に入って撮影をよく行なってました。
洞窟内で、顔のアップの会話シーンも馬鹿正直に撮っていました。
思い機材を持って、洞窟まで行くのは大変なんです。
帰りの事を考えると、じっくり演技の撮影をしている余裕もなく、現実には「台本通りのセリフを言えたらOK」というレベルで進めるしかありません。
しかし、完成品をみると、半分くらいの映像は、「背景が真っ暗でさえあればいい」という事に気付きました。
苦労して洞窟で撮らなくても、ほとんど同じ映像が撮れるということです。
以来、洞窟の中での会話シーンは、近所の夜の公園などで別撮りして編集に組み込むことを、当たり前のやり方として取り入れています。
それによって、洞窟に行く回数は半減する上、近所での撮影は楽なので、その分、演技に時間を掛けることが出来、むしろシーンの品質は上がることになったんです。
これらの「ずるいやり方」を嫌う人は一定数います。
- 魂がこもらない
- 演技がウソになる
というわけです。
しかし、それらは他の条件が全てそろった上ではじめて求めるべき、プラスアルファなんじゃないでしょうか?
プラスアルファに魅力があることは、素人の私にも分かりますが、それを追求した結果、大事なところが破綻した作品はたくさんあるように思います。
私は、低予算映画の魅力は、映画原理主義とは真逆の「工夫の楽しさ」にあると確信しています。
参考になれば幸いです。
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