映像を自然に繋ぐ構図設計・予備撮影の有効性

映像作品は錯覚で成り立つ

まず初めに認識しなければいけないのは、映像作品、特に「映画」は、バラバラに撮影したものを「繋がっているように錯覚させるもの」だということです。

テレビドラマや演劇のように、長いシーンを一連で演じられるケースはむしろまれです。

映像としての演出は、構図やカメラワークが大きな要素ですから、演技を中断して何度も同じ動作を繰り返す必要があります。

 

演劇をやっている人や、映像に慣れていない人は、同じ芝居を何度もやることを嫌う傾向にあります。

もちろん、演技者としては納得のいく芝居を1回すれば、それで終わりにしたい事は分かるんですが、「ワンシーン・ワンカット」という特殊な手法でない限り、一つのシーン(場面)は、いくつものカット(分割された映像)を組み合わせないと成り立ちません。

観客からすると、分かりにくかったり、間が持たないからです。

 

チャップリンの映画のように、ワンカットが長い作品が成り立つ理由は、演技の内容が「見て」分かりやすいように計算されつくされている事と、圧倒的な役者の魅力があるからです。

残念ながらそんな条件はまず揃いませんから、観客の立場に立って、見やすく、退屈しない映像にしようとすれば、的確なカット割りが必要になるわけです。

「カット割り」は武器でもあり罠でもある

  • ここは全体が見える映像にしよう
  • ここは主人公の顔のアップ
  • 次は主人公が見ているであろう、相手の手元のアップ

という具合に、物語が理解しやすいように映像の構成を考えて、メモとして「絵コンテ」という、撮影用の説明書を用意するのが一般的です。

「自分で撮影するんだから、そんな資料は要らない」

という人は無しでもいいんですが、私は経験上、撮影現場では時間的な余裕がなく、「次に何をやるか」を決めておいて機械的に進めないと、とてもとても予定の分量の撮影が出来ない事を知っているので、絵コンテは必須です。

 

ところが、絵コンテで、全体の映像が繋がるようにあらかじめ考えておけば安心かというと、そうでもありません。

編集をしてみると、どうしても「繋がらない」という部分が出てきてしまうんです。

 

例えば、

「全体映像で話を始めた登場人物を、途中からややアップ映像に切り替える」

という場面があるとします。一般的なカット割りです。

 

全体映像で話しはじめの部分を撮影し終えて、次にカメラをアップ用にセットし直して、セリフの途中から撮影します。

セリフを言いながら「腕を組む」という仕草を入れることにしました。

その方が自然に思われたからです。

 

ところが、1回目の撮影でセリフをつかえてしまい、2回、3回と撮り直すことはよくあります。

その時、本人も監督も、セリフの演技に集中してしまって、「腕を組むという動作」を忘れて、アップの時に「腕を組んだまま」セリフを言ってしまう、というミスが起こりがちなんです。

 

これは編集作業に入るまでなかなか気付きません。

編集してみてはじめて「話している途中で、一瞬で腕を組んでいる」というコミカルなトリック映像のようになってしまうことに気付くんです。

これが「繋がらない」という事です。

 

「そんなの内容には関係ないから大して気にならないだろう」と思いますか?

 

観客の目は残酷です。

ことさら揚げ足を取ろうと虎視眈々と狙っている人の意見は無視して構いませんが、そうでなく、作品を好意的に見ようとしてくれている場合でも、「繋がっていない違和感」というのは、脳が先に発見して意識に上げてしまうんです。

間違いの内容は分からなくても、「あれ?何か不自然だぞ?」という感覚が先に立ちます。

 

特に、例に挙げた「ポーズの不一致」はかなり致命的なミスです。

それは、余計なストレスですから、作品鑑賞にとって良いことがありません。

それが「一連の出来事」であるように錯覚させることに失敗してしまうんです。

 

現実的な解決法は3つあります。

1)登場人物に余計な動きをさせない

人形のように無機的な動きだけさせていれば、この種の失敗は起きにくくなります。

これは、演技としてはつまらなくて、反対意見も多いでしょうが、そもそも演技力を武器に出来ない場合は、マイナスを減らせるという意味で有効です。

演技として淡々としている分、映像としてのバランスを追求することで、逆に魅力が出る場合も多いんです。

2)該当映像の前後も続けて撮影しておく

カットの前後を長めに撮る習慣があれば、編集時に修正がききやすくなります。

きっちりと絵コンテ通りに撮影すると、編集ポイントの選択肢は1つしかありません。

でも、絵コンテの1つ前のカットにあるセリフや動きから撮り始めて、1つ後のカットの分まで撮っておけば、どこで映像を切り替えるかの選択肢が格段に増えます。

それによって、比較的自然に繋がるポイントを探すことが出来ます。

3)アップで一連の流れを撮っておく

ただ、2の方法でも、前述の腕組みの失敗は隠せません。

(撮影中に間違いに気付くチャンスは増えますが)

 

そこで、ある程度のミスはしていることを想定して、編集時に修正しやすい映像をあらかじめ追加撮影しておくと安心です。

絵コンテで用意した映像をバラバラに撮影した後、多少失敗しても良いので、登場人物に一連の芝居を一続きでやってもらいます。

その時に、映像は「主人公の顔のアップ」にして撮っておくんです。

動きがある場合は、カメラも顔を追って動きます。

 

アップである上に動くので撮影の難易度はやや高くなりますが、できるだけズームを使わずにカメラを近付けるなど工夫して対処します。

念のため、同じ芝居で相手役の役者のアップも撮っておきます。

 

これによって、「編集で繋がらない」という事態が起きたとき、「別の映像を挟む」という次善策がとれます。

  • 腕を組まずに話している主人公
  • 腕を組んで話している主人公

これを直接繋げようとするとおかしくなりますが、その間に相手の顔のアップを入れて

  • 腕を組まずに話している主人公
  • 話を聞いている相手の顔のアップ
  • 腕を組んで話している主人公

とすれば、観客はなんら不自然さを感じなくなるんです。

 

撮影時にミスは必ず起きます。

ミスをしにくくする工夫と共に、ミスをカバーできる準備もしておくのが現実的です。

参考になれば幸いです。

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Designing Natural Shot Transitions: The Importance of Extra Footage

Films Thrive on Illusions

First and foremost, it’s important to recognize that films—and visual media in general—are built on the illusion of continuity.

Unlike television dramas or theater, it’s rare for scenes to play out as one continuous performance. Film relies heavily on composition and camera work, requiring multiple takes of the same actions to create seamless, engaging visuals.

Why Actors Resist Repeated Takes

Performers, especially those coming from a theater background, often dislike repeating the same actions multiple times for different angles. While it’s understandable that actors want to deliver one satisfying performance and move on, a single shot simply doesn’t suffice unless the film employs a rare “one-scene, one-take” approach.

For most viewers, scenes without careful cuts feel either confusing or tedious, necessitating precise editing.

The Dual Nature of “Cuts” in Film

Shot composition (or “cuts”) is both a powerful tool and a potential pitfall.

Filmmakers typically plan their shots to aid audience comprehension. For instance:

  • A wide shot to establish the scene.
  • A close-up of the protagonist’s face.
  • A cut to the protagonist’s perspective—perhaps focusing on another character’s hands.

This thoughtful arrangement is mapped out in “storyboards,” a visual guide for the filming process.

While some may feel they can skip storyboards, I believe they’re essential, especially when time on set is limited. Without them, it’s nearly impossible to stick to a shooting schedule.

When Even Storyboards Fail

Even with storyboards, editing often reveals moments where the footage doesn’t “connect.” For example:

Imagine a character begins speaking in a wide shot. Mid-sentence, the scene cuts to a close-up. While the wide shot captured the character with their arms at their sides, the close-up shows them with their arms crossed—a gesture added during filming to seem “natural.”

Such continuity errors are often overlooked during shooting, but they become glaringly obvious in editing. Suddenly, your scene resembles a comedic “magic trick” as the character’s pose changes instantaneously.

Why Continuity Matters

You might think, “Does a small detail like that really matter?”

The answer is yes. Even the most well-intentioned viewers will instinctively notice these inconsistencies, feeling something is “off” without necessarily identifying the error.

Three Practical Solutions

  1. Limit Unnecessary Movement Keeping characters’ movements minimal can reduce the risk of errors. While this may make performances appear less dynamic, focusing on visual balance instead can add unexpected charm.
  2. Film Extra Footage Before and After Cuts When you extend the start and end of each shot beyond what’s scripted, you gain more flexibility during editing. This method creates multiple transition points, making it easier to piece together natural-looking sequences.
  3. Capture Full Scenes in Close-Up Record key scenes in a single take, focusing tightly on one character’s face. While technically demanding, this extra footage can act as a buffer during editing, allowing you to insert shots of other characters’ reactions or movements to mask continuity errors.

Planning for Mistakes

Mistakes are inevitable during filming, but thoughtful preparation can turn them into opportunities for creativity.

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