最高のSFXは観客に分からない映像:特撮と気付きにくい映像を作るコツ

お金が掛かる特撮と掛からない特撮

「特撮」というのは、そもそも映画製作において、予算を節約するために使うのが主な目的です。
特撮にもさまざまな種類の手法がありますが、ここでは分かりやすい「ミニチュア」について考えてみましょう。

 

例えば、国会議事堂が爆発するシーンがあるとします。
実物大の国会議事堂のセットを作って、爆破する場面を撮影することも物理的には出来るでしょうが、莫大な経費が掛かります。
あくまでもそのリアリティにこだわって、黒澤明のように実物大のセットを燃やす、という贅沢なシーンを撮影できる人は、なかなかいないでしょう。

 

そこで、アナログの特撮の場合は建物のミニチュアを作って撮影することが一般的です。
例えば10分の1の国会議事堂を作るとすると、それでも十分に巨大なセットですが、実物大のセットに比べれば1000分の1の体積ですから、単純に材料費で考えると、1000分の1の金額で出来ることになります。

 

ミニチュアというのは、「小ささ」を楽しむ小物であれば、小さいほど魅力がありますが、映画の中で本物と見まごうような精巧さを必要とする場合は、大きいほどリアルに作れます。

当然、材料費だけで考えても、大きなミニチュアは小さなミニチュアよりお金が掛かります。
予算と精巧さの兼ね合いで、ミニチュアセットの大きさは決まることになります。

 

ただ、特に日本映画に顕著ですが、ミニチュアセットの精巧さは素晴らしいものの、作品の中で、そのミニチュアセットが「実物」には見えない事がよくあります。
私は、主な原因は、「ミニチュアセットの出来」ではなく、単純に「照明が明るすぎる」事だと思っています。

怪獣映画で破壊される建物のミニチュアセットはお馴染みですが、国会議事堂にしても新宿都庁にしても、照明がきれいすぎて、「よく出来たミニチュアセット」ということを強調してしまっているように思います。

 

同じような技術で作られたハリウッド映画のミニチュアセットは、言われなければミニチュアと分からないのに、日本映画ははっきりとミニチュアと分かる。
「やっぱり予算が少ないからねえ」と分かったようなことをいう人がいますが、それは違うと思います。

 

アメリカ映画では、ミニチュアセットを本物と見間違えさせるために、アラが見えないように暗めの照明で撮影しているのに対し、うがった見方かもしれませんが、日本映画では「素晴らしい出来のミニチュアセットでしょう?」という、技術自慢をしたいという意識が出てしまっているのではないでしょうか?

大予算映画の悔しい現実

有名な怪獣映画に「ゴジラ」と「ガメラ」があります。
それぞれ違う会社の怪獣で、ライバル的な比べかたをされることがあります。

 

ただ、製作費は随分違うそうです。
大雑把に言って、ゴジラとガメラの製作費は2:1。
つまり、ゴジラの半額でガメラは作られているということです。

 

ここで、特撮映像には不思議な逆転現象が見られます。

 

大きな金額を掛けられる「ゴジラ」では、前述のように、巨大な新宿都庁のミニチュアセットが登場して、ゴジラに破壊されるシーンがあります。
そしてそれは、少なくとも私の目には、「あの巨大な新宿都庁が、巨大な怪獣に壊されている」という錯覚が生まれないんです。
あくまでも、「とてもよく出来たミニチュアのビル」を、着ぐるみのゴジラが壊しているように見えてしまう。

 

一方で、予算的な制約の大きい「ガメラ」では、丸ごと全体のミニチュアセットを作らずに、「実景」と「ミニチュアセット」を合成して組み合わせながらスペクタクルシーンを作っている映像が多くあるようです。
単純に、製作費を抑える工夫からだと思うのですが、皮肉なことに、その方がリアルな破壊シーンになっているんです。
半分は実景の映像なんですから、リアルになるのは当たり前です。

 

このように、お金を掛けて大掛かりな撮影をした方がアラが目立って、より低予算であるがゆえに規模の小さい特撮をうまくごまかして作った方が、より迫力のある映像になってしまうということが起きがちなのが特撮なんです。

 

これは合成手法でも同じような優劣が付くことがあって、シンプルでやり易い映像合成は自然に仕上がりやすくて、複雑で高度な技術を駆使した映像合成は、どうしても不自然になりがちです。

本来、特撮が目指すのは、「その映像が特撮と気付かれない事」ですから、技術的に高度か原始的かは問題ではないんです。
苦労をした分、かえって不自然になっては元も子もないので、選択肢があるのなら、シンプルな手法を選んだ方が良いと思います。

半分だけ嘘をつく

それを踏まえたうえで、映像合成のコツを提案すると、「作り物は半分にする」ということです。

 

例えば、怪獣映画で、部屋が踏みつぶされる映像を作るとします。
そのとき、贅沢に、馬鹿正直に特撮映像を作ろうとしたら、部屋のミニチュアを作ると思います。
天井、壁、床、家具など、部屋の要素を全てミニチュアセットに詰め込んで、それを踏みつぶしながら撮影するやり方を考えるのではないでしょうか?

 

もちろん、そのミニチュアセット撮影の楽しさはありますが、どこまでリアルに出来るかはかなり疑問です。
しかも、1回撮影するとセットは壊れてしまうので、90%くらいの確率で撮影は失敗すると思います。

 

もし、リアリティーを追求しつつ、大幅なコスト削減も狙うのであれば、私なら、天井だけミニチュアセットを作ります。
本物の部屋の中の映像に、崩れてくる天井と瓦礫だけ、ミニチュアセットを合成して作るでしょう。

実際の部屋の映像を使いますから、人物も一緒に撮影できます。

  • 悲鳴を上げながら床に倒れ込む

という映像に、

  • 怪獣の足が踏みつぶす天井のミニチュア(グリーンバック撮影)

を合成すれば、かなりリアルで迫力のある映像が作れそうです。
しかも、足で踏みつぶすのは天井だけなので、シンプルな構造のスペアを用意するなどして、何度か撮影をやり直すことができます。

  • シンプルな手法の方がリアルに仕上がる
  • 100%作り物ではなく50%は実景を利用する

この考えが有効です。
参考になれば幸いです。

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The Best SFX Are Those That Go Unnoticed: Tips for Subtle Special Effects

High-Cost vs. Low-Cost Special Effects

Special effects, or SFX, are historically designed to save money in filmmaking. Let’s focus on one of the more tangible SFX techniques—miniatures.

For example, imagine a scene in which the National Diet Building is blown up. While it’s technically possible to build a life-size set for the scene, the cost would be astronomical. Only the likes of Akira Kurosawa, who once famously burned a full-scale set for the sake of realism, could afford such extravagance.

Instead, traditional SFX often employ miniatures. A 1:10 scale model of the building might still be large, but its size is vastly smaller than a life-size version, allowing for substantial savings in material costs.

Miniatures need to strike a balance between being large enough to appear realistic on camera and not so costly as to strain the budget.

A Problem of Lighting, Not Craftsmanship

Japanese filmmakers excel in miniature crafting. However, a curious issue arises: the miniatures often fail to pass as real structures onscreen. This isn’t a fault in the models themselves but rather a result of overly bright lighting that highlights their miniature nature.

In Hollywood, subtle, dimmer lighting often disguises imperfections in miniatures. In Japan, by contrast, filmmakers seem eager to showcase their craftsmanship, inadvertently making the miniatures look artificial.

The Paradox of Big-Budget Films

Famed kaiju films “Godzilla” and “Gamera” are often compared, although their production budgets differ significantly. Godzilla is produced with twice the budget of Gamera, yet Gamera often feels more immersive. Why?

Godzilla films frequently feature intricate miniature sets, like Tokyo’s government buildings, that, ironically, look like toys being smashed by a man in a rubber suit. Gamera, on the other hand, relies on a mix of real footage and smaller miniatures due to budget constraints, leading to more realistic destruction scenes.

Simple Methods Yield Realistic Effects

Special effects should ideally go unnoticed. Simple techniques often deliver better results than complex, high-tech approaches.

For instance, in a scene where a room is stomped flat by a kaiju, one might build an elaborate full-scale miniature room—walls, floors, furniture, and all—and crush it. The cost would be immense, and the chances of capturing the perfect shot on the first take slim.

A simpler, more effective approach? Build only the ceiling as a miniature. Combine live-action footage of actors with a miniature ceiling collapsing via green-screen techniques. The blend of real and crafted elements creates a convincing illusion at a fraction of the cost.

Key Takeaway

In SFX, less is often more. Half real, half crafted—that’s the magic formula.

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